昌平、武南、西武台、松本暁司先生、石山凌太郎、鎌田大夢…… 2019シーズンを振り返る【高校サッカー編】

新人戦、関東、総体で優勝、準優勝がすべてばらけるなど、戦国時代の様相を呈した2019年シーズン。そういった中で選手権では昌平が全国8強入りを果たした。激動の1年を振り返る。

2月

25得点、無失点と圧倒。個の強さ見せた昌平が新人戦V

2019年最初のタイトルを獲得したのは昌平だった。前年は2年時からレギュラーを掴んでいた選手が多く積み重ねてきた「熟成の崩し」がメインだった中で大きくメンバーの変わった昨年はその立ち上がりが注目されたが、終わってみれば4試合を通じて25得点無失点と他の追随を許さずに2年ぶりの新人戦V。例年以上に目立ったのは「個」の部分だ。大和、須藤、小見のトライアングルを中心に、紫藤や小川といった高い技術力を持った選手たちが昌平らしい崩しに加え、チャンスとあればドリブルで仕掛けた。FWからサイドバックに転向した大竹は持ち前の攻撃性を発揮して最多の7ゴールを奪取。県内外に大きな衝撃をもたらす船出となった。

・昌平の攻撃引き出す小見洋太が4戦連続のゴール 指揮官も「ツボを心得ている選手」
・3戦7発と新ポジションで得点爆発 大竹琉生は「チームで一番点を決められる」SBに
・逆転勝利も「自分たちで苦しくしてしまった」と山田裕翔 反省生かし決勝での零封誓う
・レッズJrユース出身のダイナミックFW森田悠仁が劇的AT弾! 「もう最高でした」
・1年時の序列は一番下 「ひたむきさ」で上り詰めた仲山が呪縛終わらせるPKストップ

4月

関東予選は武南が7年ぶりV、浦和東も本大会へ

本命を見られた昌平が3回戦で敗れた中で優勝を飾ったのは武南だ。3回戦で昌平を破った埼玉栄を退けると、準決勝では聖望学園、決勝では浦和東を倒して王者に輝いた。前年からチームを引き継いだ内野監督にとっては指揮官として初タイトルとなった。エースFW大谷は6得点とチームを牽引。1年時に大山前監督に見出された青野が抜群のテクニックで存在感を放ち、決勝ではスーパーサブの矢地が延長戦で勝負を決めた。一方で敗れた浦和東も新人戦以降追求してきた「浦和東らしさ」を存分に発揮して5年ぶりの関東切符。松本、安食のCBコンビを中心にしっかり守り、GK川村は大会通算7度のPKストップを決めるなど粘り強さが光った。

・誰よりも闘志を燃やしていた男、切り札・矢地柊斗が決勝弾!「もう最高に嬉しいです」
・どんな場面でも「浦和東らしく」 原点回帰した浦和東が5年ぶりの関東切符獲得!
・大山前監督が見初めた今季注目タレントが2試合連続弾! 青野「自分たちの代で強い武南を復活させたい」
・決勝点の吉田は攻守に存在感も「まだ改善点ある」 次戦のさらなる活躍を誓う
・2度のビハインドを追いつくも悔しい敗戦 各々が勝敗分けた細部にこだわり成長を目指す

6月

西武台が4年ぶり全国へ。3大会すべてで優勝、準Vが異なる波乱。戦国時代へ

新人戦、関東予選と4強入りしていた西武台が1枠となった全国切符を掴んだ。昨年は技術で前年に劣る部分もあった中で「5段階評価で心だけでも「4」になれればそこは長けることができる」(守屋監督)と精神的な強さや戦う部分を追求してきたチームは、3回戦で浦和南、準決勝では武南をPK戦の末に下して決勝に進出。ファイナルも聖望学園に後半2点を返され同点とされたが、最後はエースの谷がこの日ハットトリックとなる3点目を突き刺して勝負を決めた。西武台の4年ぶりVで幕を閉じた一方で、新人戦、関東、インハイ予選のファイナリストがすべて違うという異例の事態に。まさに戦国時代といった様相を感じさせる結果となった。

・谷直哉が決勝で鬱憤晴らすハットトリック! 関東予選で泣いた「3」を歓喜の「3」に
・準決勝で前代未聞の3連続PKストップ! 駒場スタジアムが「クリス劇場」と化す
・森田悠仁が4強壁破る決勝点 決勝はライバル西武台と「やっぱり2回は負けられない」
・波多野晟愛と山田裕翔 正智深谷を力強く牽引する2人のチームリーダー
・4年ぶりの全国は「完敗」… “らしい”粘り強さ見せられず、技術面の不足を痛感

9月

「赤き血のイレブン」を作り上げた松本暁司氏逝く

1969年に浦和南を高校サッカー史上初の3冠(選手権、総体、国体)に導くなど、「赤き血のイレブン」と呼ばれるチームを作り上げた松本暁司氏が9月3日に逝去。85歳だった。松本先生は高校創立の1963年から指揮し、1969年には史上初の三冠を記録、1975、1976年には全国高校選手権大会連覇を達成した。その様子は梶原一騎原作「赤き血のイレブン」として漫画、アニメ化もされた。1995年に32年勤め上げた浦和南を退いたが、その後も同校に対する愛情は変わることはなく。一昨年は17年ぶりの選手権出場をスタンドから見守り、昨年も亡くなる1ヶ月前に行われたサザンクロスカップに出席し、選手たちのプレーに熱視線を送っていた。

・「この庭では負けられない」。松本先生の想いが詰まったグラウンドで浦和南が初戦突破

10月

浦和西・石山凌太郎が仏2部アジャクシオ入り

浦和西のドリブラーが海を渡る決心をした。10月2日、FW石山凌太郎の仏2部ACアジャクシオ入団が発表された。高卒選手がJを経由せず仏リーグに挑戦するのは初。契約はホーププロ契約というものでトップチームに合流した上で規定の試合数をクリアすればプロ契約となる。浦和レッズ下部組織出身の石山は、2017年の選手権予選で唯一の1年生プレーヤーとして活躍。小柄な体格ながら切れ味鋭いドリブルで堅守のチームでアクセントとなり、浦和西の34年ぶりの決勝進出に貢献した。生まれ育った埼玉を離れ、海外でのチャレンジを始めるドリブラーは「自分はチャレンジャーなので何も恐れていない。楽しみです」と胸を高ぶらせていた。

高卒選手では初の挑戦! 浦和西FW石山凌太郎が仏2部アジャクシオと契約「チャレンジャーなので何も恐れていない。楽しみです」

11月

昌平が2年ぶりの選手権制覇。細田学園が初の8強、公立勢には苦い冬に

激戦区を勝ち上がった昌平が2年ぶりにトロフィを掲げた。今大会は久しぶりに1回戦からの登場となった中で、2回戦で昨年決勝を戦った浦和南を逆転で下すと、3回戦で武南、準々決勝で正智深谷、準決勝で聖望学園と強敵たちを倒して決勝に進出。西武台とのファイナルも自慢の攻撃を披露して4−0で勝利し、昨年泣いた決勝で笑った。「今年は負けて負けて、もがいてもがいてここまできた」と須藤。関東予選、インハイ予選ではまさかの早期敗退を突きつけられてきた中でその経験をしっかりと生かしながら「今年は本当に成長するスピードが速いチームだと思っている」と指揮官もうなる速度で成長。ボスラッシュともいうべきブロックを駆け抜けて頂点に立った。また今大会では細田学園が初の8強入り、国際学院が13年ぶりの4強に進出するなど、史上初めて私学がベスト8を独占。公立勢にとっては苦しい冬となった。

・2度の敗戦も自分たちの糧に変えた昌平。指揮官もうなる成長速度で2年ぶりの埼玉制覇!
・決勝は2ゴールに絡む活躍 須藤直輝が憧れのヒーローたちが立った選手権の舞台へ!
・何度も立ち上がる不屈の精神 昌平の鉄人SB柳田は2回戦以降の4試合フル出場で貢献
激戦区も失点は6試合を通じてわずか“1”「守備の昌平と言われるように」DF柳澤直成
・最後は涙も今年は4年ぶりのインハイ出場。「粘り強い」西武台を体現した佐野慧至主将

12月

昌平が悲願のプリンスリーグ昇格

4度目の正直でプリンス関東昇格を果たした。過去3年も県1部リーグを制しながら決定戦で泣いてきた昌平。今季リーグは前期を全勝で折り返すと、後期も無敗を貫いて選手権予選を前に4連覇を決めていた。迎えた今年のプリンス参入戦、初戦は水戸ユースを相手に出足の鋭い守備と連携でペースを掴み、小見の2ゴール1アシストを含む4−1で勝利。代表決定戦は針谷(磐田)、松本(広島)を擁した3年前に敗れた因縁のジェフ千葉との対戦となったが、多くの時間でボールを持ちながら常に優勢にゲームを進めて3−0で制し、悲願の昇格を決めた。藤島監督は後のインタビューで「ここでの経験が選手権にプラスに働いた」と話している。

・日々成長するFWが2ゴール1アシスト! 小見洋太は自分のゴールでプリンス昇格を「掴み取る」
・昌平が念願のプリンス復帰! ステージが上がった3年前。スタイル積み上げリベンジ
・西澤が県決勝に続くヘディング弾! 終盤は押し込まれながらも粘り強く守って完封
・サッカーが苦しくなったこともあったけど…。仲間や家族の支えで熱を取り戻した渡邉が大一番で先制弾! 選手権は「感謝の想いを持って全力でプレーします」
・選手権での爆発を誓う須藤直輝。共通点の多い興国10番樺山には「絶対に負けたくない」

12月

鎌田大夢がJ3福島入り

昌平から4年連続のJリーガー誕生。MF鎌田大夢のJ3福島ユナイテッド入団が発表された。日本代表MF鎌田大地(フランクフルト)を兄に持つ技巧派MFは今季序盤は絶対的なレギュラー奪取にはまだ至っていなかった中で、夏過ぎあたりから武器のキックやゲームコントロールで頭角を現し、秋以降の昌平の躍進に大きく貢献した。会見で鎌田は「小さい頃からの夢であったプロサッカー選手になれて大変嬉しく思います。ドイツで頑張っている兄に追いつけるように福島では日々のトレーニングに全力で取り組んで、少しでも早く試合に出場して、チームに貢献できるように頑張っていきたいと思います」と意気込みを語った。海外志向も強く、上の舞台で兄と対戦することを夢見るMFが福島の地からプロとしてのキャリアをスタートする。

・昌平の鎌田大夢が福島ユナイテッドに2020シーズン加入内定
・昌平・鎌田大夢 福島ユナイテッドFC加入内定会見全文レポート
・夢の海外でのプレーを実現させるために。「2年目でJ3得点王を目指すくらいの気持ちで」鎌田大夢が見据えるプロ入り後の展望
・鎌田大夢がFK弾を含む2発! 公式戦初のキッカー起用でビューティフルゴール

1月

昌平が選手権で初のベスト8。4選手が優秀選手に選ばれる

4度目の選手権の舞台で昌平が輝きを放った。2回戦から登場すると、「技術力対決」が注目された興國、國學院久我山を連破。國學院久我山戦では攻め込みながらもなかなか点が奪えずにいた中で後半アディショナルタイムに途中出場の1年生MF篠田が決めるなど、ニューヒーローの誕生もあった。準々決勝の相手は前年覇者で高円宮杯チャンピオンの青森山田。昌平は前半3失点と苦しい立ち上がりとなった中で、後半はゴールに向かうシチュエーションを増やして須藤、山内が決めて1点差に迫る。惜しくも1点及ばず、夢の日本一には手が届かなかったが、「最後は技術」という信念のもと、プレミア王者を最後まで追い詰めた。大会後には小見、須藤、柴、大竹の4人が優秀選手に選出。小見はその後U-18日本代表にも選ばれた。

・8強敗退も王者を追い詰めた昌平。多くの人の心に刻んだ「最後は技術」という信念
・小見洋太が無得点の中でも感じた確かな手応え。あの日本代表FWも「応援していました」と明かす
・最初の選手権は悔しさ残るベスト8。最高学年を迎える須藤直輝「この経験を新チームに伝えていく」
・第98回全国高校サッカー選手権優秀選手に、昌平の小見、須藤、柴、大竹が選出される
・昌平の小見洋太がU-18日本代表スペイン遠征メンバーに選出

 

石黒登(取材・文)