埼玉サッカー通信的 2018シーズン振り返り【高校サッカー編】

新勢力の台頭に加えて、公立高の意地、そしてレジェンドの勇退と、昨年もさまざまなことがあった埼玉高校サッカー。3年生たちの卒業も迫る中、改めて2018年シーズンを振り返る。

2月

成徳深谷、連戦乗り越え新人戦で初タイトル

昨年度、最初の優勝を飾ったのは支部予選から勝ち上がった成徳深谷だった。雪の影響で支部準決勝から県大会準々決勝までの4試合が中1日とタイトな日程を強いられたが、浦和学院、昌平、浦和東をすべて1点差で破ってファイナルへ。決勝では西武台に先制されたが、粘り強い戦いで同点に追いつくと延長戦の末に県初タイトルを掴んだ。「なんとかタイトルを取りたかった。記憶よりも記録に残したかった」と為谷監督。主将の佐藤は「まだ歴史のない中で自分たちが歴史をもたらせたことが嬉しい」と喜んだ。近年は昌平、正智深谷、西武台、武南がタイトルを独占していた中で、この4校以外から優勝校が出たのは5年ぶりのことだった。

・平成29年度 埼玉県高校サッカー新人大会 決勝 成徳深谷 vs 西武台

4月

武南・大山監督が勇退、アドバイザーに

81年度の日本一のほか、全国選手権で準優勝1回、4強3回と武南を強豪に育て上げた名将・大山照人監督が3月で監督を勇退。4月以降はアドバイザーという立場で1年間、現場や子供たちを見守った。昨年2月のインタビューで大山監督は「埼玉の伝統あるサッカーの中で戦う場所も与えられて、評価もしていただいて、大火なく過ごしたことは幸せですよ。苦しい時、なんで勝てないんだろうと思う時は本当に長かったけど、もうあっという間ですね」と45年の監督人生を振り返った。武南、そして埼玉サッカーの歴史とも言うべき御大は「埼玉県としては全国優勝が遠のいているけど、それは結果であって現実は明るい未来が存在していると思いますよ。絶対に大丈夫、伸びますよ」とこれからの埼玉サッカー界にメッセージを送った。

・大山照人(武南高校サッカー部監督) 「埼玉サッカーには明るい未来がある」

・「打倒浦和勢からスタートして、全国制覇を果たすまで」大山照人(武南高校サッカー部監督)インタビュー前編

・「これまでの指導者人生で大事にしていること 全国で勝つためには」大山照人(武南高校サッカー部監督)インタビュー後編

4月

成徳深谷、関東予選も制し2冠達成、立教新座も現校名初の本大会出場を決める

新人戦Vの成徳深谷が関東予選も制した。成澤らを中心に新人戦で見せた堅守に磨きをかけて臨んだ大会では、8強で昨年大会覇者の昌平をストロングスタイルで撃破。同じような特徴を持つ浦和南との準決勝はスコアレスのままPK戦にもつれ込んだが、「駆け引きのある選手」(為谷監督)という守護神の神尾が巧みな心理戦で相手の5本目をストップして創部26年目で初の関東本大会を決めると、決勝では台風の目となっていた立教新座を1ー0で下した。大会を通じて喫した失点は初戦の1失点のみだった。一方、敗れた立教新座もスーパーサブとして出場したエースの稲垣を軸に強豪を次々と下して、現校名では初の関東本大会行きを決めた。

・平成30年度 関東高校サッカー大会 埼玉県予選 決勝 成徳深谷 vs 立教新座

6月

成徳深谷、初出場の関東本大会で準優勝

初の関東本大会に挑んだ成徳深谷は直前のリーグ戦で堅守の要である成澤が負傷離脱するなど不安要素もあった中、1回戦では古河第一に逆転勝ちを収めると、PK戦にもつれ込んだ2回戦の帝京第三戦は神尾が相手の1、2、4本目を止める活躍を見せて決勝に進出。前橋育英とのファイナルは途中出場の北原が約40mのドリブル突破を見せ、後半18分にはカウンターから北原と間中の2人で左サイドを割って間中が角度のないところから決めて1点を返したが、全国屈指の選手層を誇る相手に対し終始ゲームを握られ0ー2で敗れ、準優勝に終わった。「ゴールは自信にはなった」としながら「止めて蹴る技術や個人の技術をもっとアップしないとダメだなと思いました」と間中。そこにある差を受け止めつつ、各々がレベルアップを誓った。

・平成30年度 関東高等学校サッカー大会 成徳深谷 vs 前橋育英

6月

混戦を制し、昌平が総体予選で今季初V、浦和南も久しぶりの全国を決める

前年の5冠メンバーが多数残りながら、新人戦、関東大会ともにベスト8で泣いた昌平がインターハイ予選でシーズン初優勝を飾った。1回戦の東農大三戦を14ー0と衝撃的なスコアで勝利すると、準決勝では新人戦、関東予選で敗れた成徳深谷にリベンジ。浦和南を4ー2で下し、大会3連覇で本戦出場を決めた。ちなみに決勝は4得点すべてが関東以降に意識してやってきたというミドルシュートからの得点。ボランチの原田は大会通算8ゴールとその得点能力を爆発させた。一方、0ー2から一時は同点に追いついた浦和南は中盤に失点してタイトルにはあと一歩手が届かず。それでも第2代表として9年ぶり12度目の全国総体切符を掴んだ。

・平成30年度全国高校総体サッカー大会 埼玉県予選決勝 昌平 vs 浦和南

8月

昌平、インターハイで快進撃もあと一歩及ばず3位

1回戦で高知中央を破った昌平は2回戦で優勝候補の青森山田と対戦。開始15分で2失点したが、ミドルシュートや2列目の飛び出しなどで流れを手繰り寄せると、シーズン前半戦は怪我で出遅れた木下、渋屋の活躍もあって4ー2と逆転勝ちを収めた。続く札幌大谷戦も0ー2からセットプレーで追いついて2戦連続の逆転勝ち。準々決勝の大津戦は原田が自陣から独走して得たPKを決めて先制、直後に同点とされたが、終了間際にワンツーから原田が決勝点をマークし、準決勝進出で一昨年の記録に並んだ。初の決勝を狙って臨んだ桐光学園戦は後半早々に3失点。その後、試合は雷雨で4時間の中断を挟むなどタフな展開となった中、同大会何度も逆転劇を起こしてきた昌平は再開後に森田、須藤の得点で2点を返したがあと1点及ばず。メンバーで唯一2年前の3位を経験した主将の関根は「優勝できる力はあった」と悔やんだ。

・平成30年度全国高校総体 サッカーの部 準決勝 桐光学園 vs 昌平

10月

原田の川崎F入り決定、昌平からは3年連続4人目のJリーガー

針谷(磐田)、松本(広島)、佐相(大宮)に続く昌平4人目のJリーガー。原田がJ1覇者川崎入りを決めた。夏の時点で決まった進路はなく、インターハイをひとつの就活の場として臨んだ原田の真価が発揮されたのが準々決勝の大津戦だ。0ー0の後半23分、自陣深くでボールを持つと約60m独走から相手のハンドを誘ってPKを獲得し、これを自ら蹴り込んで先制。直後に同点とされたが、終盤に相手のクリアボールを拾うと森田とのワンツーから抜け出して決勝弾を奪い4強に貢献した。獲得にあたった庄司強化本部長は「一番驚いたのは身体のバランス、軸がプレー中に全然ブレずに、バランス良くプレーしているなとすごく印象付けられた」とプレーを評価。さいたま市出身でクラブ与野、昌平で育った埼玉の才能がJの舞台に飛び立った。

・昌平高校 原田虹輝が川崎フロンターレ入団記者会見を行う

11月

浦和南が選手権予選を制し、17年ぶりの冬の王者に

浦和南が実に17年ぶりに冬の王者に輝いた。3回戦から登場すると聖望学園、武南と難敵との対戦が続いたが、ディフェンスリーダーの相馬やインターハイの経験から守備範囲を広げた正野らの堅守を軸に、10番の大坂が2戦連続のゴールを決めていずれも1ー0で撃破。準決勝では新人戦、関東予選覇者の成徳深谷を延長戦の末に下し、2年ぶりのファイナル進出を決めた。決勝は本命と見られた昌平に対し後半10分過ぎに今大会初失点を喫したが、大坂のPK弾で追いつくと後半71分にフリーキックからゴール前の混戦を庄司が右足で突き刺して逆転で2001年以来の選手権予選優勝を飾った。母校再建を託され6年目で歓喜の瞬間を迎えた野崎監督は「感無量の一言。夢を見ているようで現実かな、本当に夢を見ているんじゃないかなという、そんな想いでしたね。子供たちは鬼の云うことを魂を持ってやってくれた」と選手を称えた。

・第97回全国高等学校サッカー選手権大会 埼玉県予選会決勝トーナメント決勝 昌平 vs 浦和南

12月

初戦敗退も「赤き血のイレブン」が17年ぶりに選手権に立つ

チケットは前日にはソールドアウト。1000枚の当日券も即日完売するなど注目度の高さをうかがわせた。そんな完全ホームの雰囲気の中で浦和南は序盤、佐藤や大坂が連続して決定機を迎えるなど、夏はシュート0本で敗れた東福岡を押し込む。しかし、個々の技術の高さを見せる東福岡に対し徐々に押し込まれる展開となると、相手のスーパーゴールを機に3失点。後半はセットプレーからゴールに迫ったが、ネットを揺らすことはできず、逆に1点を加えられ0ー4で敗れた。エースとして予選5得点中4得点を奪うなど、チームを牽引した大坂は「立ち上がりで決めきれていれば…」と肩を落とした。悔しい敗戦となったが、17年ぶりの全国選手権出場で新しい歴史を刻んだ赤き血のイレブンには試合後、観客席から暖かい拍手が送られた。

・全国高校サッカー選手権1回戦 浦和南 VS 東福岡

(文)石黒登