大山照人(武南高校サッカー部監督) 「埼玉サッカーには明るい未来がある」

輝くサッカー王国の未来になるためには

大山照人監督が、サッカーを強化したいという学校の思いを受けて、武南高校を率いてから45年が経過した。就任7年目で全国初出場。81年には選手権での全国制覇を果たし、その後も長く強豪校として武南高校を牽引してきた。大山監督にこれまでの指導人生と、埼玉サッカーのこれからについて訊いた。

―大山監督が就任して前年度が45年目でした。45年というと埼玉サッカー110年の歴史の中で3分の1以上見守ってこられたわけですが。

埼玉の伝統あるサッカーの中に私のようなよそ者がきて……。本当によく受け入れてくれて、戦う場所も与えられて、評価もしていただいて、大火なく過ごしたことは幸せですよ。ただ自分だけのことを考えれば、反省すると悔しいことがいっぱいですけどね。

―この45年は監督にとってどういう時間でしたか?

もう本当に時が経つのは早い。苦しい時、なんで勝てないんだろうと思う時は本当に長かったけど、もうあっという間ですね。1人で頑張ったのでやりたいこともできないまま終わったような感じもあります。もっと仲間を作って組織として、例えばスカウトに専念してもらうような友がいたら、もっとチームに集中できたのではないかといまさらのように思います。

―その中で苦労したことは?

今でこそサッカー協会も組織化されて、世界のトレーニングをいろいろ勉強しに行ったり、吸収したりできる環境がありますが、私たちの頃はそんなのは何もなかった。そういう時に何が大切かというと、自分でトレーニングメニューを工夫するしかない。これが大変でした。工夫してうまくいったら、他の学校にすぐにマネをされちゃって、みんなが同じことをやりだす。そこに対してものすごく集中するしかなかった。

もう一回チャンスがあったら人が考えた良いことをいっぱい吸収して、それを整理するだけでも善かれ悪しかれのトレーニングなんかも自分で研究できると思う。今の時代は指導者にとっても非常に便利になってきている。もうちょっとベテランになった時にいまの時代があったら違った形で自分の成長とともに進められたかなと思います。

―監督の指導理念、指導スタンスはどのようなものでしょうか?

まずはボールを止めることができなきゃいけないし、ボールを動かしたり、キックができなかったらこの競技は成り立たない。今は早い判断が要求されますが、判断だけ良くてもボールを止められなかったら何もならない。そうなると高校生の年代で一番最初に何をしたらいいんだとろうと思ったら、やっぱり基本的なことを植えつけていかざるをえないですね。

そのゲームをやるまでの過程がやっぱり非常につらい。でもつらいのを乗り越えるのが大事。将来的な自分、数年後の自分というものを見据えてトレーニングに入っていく。その心構え、自分のサッカーに対する気持ちがものすごい大切かなと思っているんですよね。真剣に取り組んでいる選手はいつか必ず頼りになれる。そのことは長年の間に見て自分で理解できているので、なんとかサボらないで済むように指導しています。そういうところが大事なので、練習に対する取り組み方、気持ちのあり方、こういったものは僕は高校サッカーで一番大事だと思うんですね。

あとはサッカーが一番ではマズイ。この年代の人たちは知識をやっぱり植えつけなきゃいけない。勉強を一番に置いてもらって、一番と二番の差はなくていいから、それに近いところにサッカーを置いてもらう。

よく勉強を無視してサッカーだけ取り組んでいる人が結構いますよ。これはやっぱり将来的な面も考えると自分の選手生活が短かったら、その後サッカーをやることによって将来的に自分がひもじい思いをするようなことはあってはいけない。

だから少なくとも勉強をするべき時はちゃんとそこに専念できるようにする。それもトレーニングのひとつ。それ以外にみんなと違う意味でサッカーを一生懸命自分のために取り入れていくスタイル。これが一番大切だということを、ずっと子供たちには絶対に必要だよと話をしています。

―埼玉のサッカーも時代とともに変化してきました。

良い意味で変わりつつある。例えば昌平は原点はスカウティングにあるということはよく理解できている。いろいろなところにスカウトの目を広げて才能がありそうな選手を集めている。大きくなることでの問題も出てくるかもしれませんが、現状の中で発展的になろうとすごい努力していると思います。

その他に私学もちょっと変わろうとしている。聖望学園や細田学園もすごい力を入れている。だからみんなそういう若い先生方は大いに見聞を広めて埼玉を代表して活躍してもらったらいいと思いますよね。公立でも浦和南はいまもすごい選手がいっぱいくるし、グラウンドも人工芝になった。だから全然発展的ですよ。そういう意味では埼玉は新しいチームがどんどん増えてきて、それで幅広く競争できる幸せはあるんじゃないですか。

―埼玉県は81年度の武南の全国制覇以来日本一から遠ざかっています。

埼玉の高校サッカーもここ数年勝っていないと言われたりしているけど、外に行って見たり、埼玉県内で見たりしていても力関係はそんなにはない。確かに流経のようなチームは力があるけど、でもそんなに差があるわけじゃない。もちろんそれは独自に、そのチームの特長を出していけばの話。だからそれぞれの特長を大いに自信をもってやっていけばいいんじゃないですか。

ただその中でも代表になったり、全国に近いようなチームはもっともっと責任を持って工夫すべきだと思います。代表になったチームは自分だけの戦いじゃなくて、みんなが応援してくれるんだからそれなりの成果が出せるような努力をしていかないと。それが自分に与えられた使命だと思いますよ。

そういうことから言えば他校のスタッフだからとかそういうのは関係なく、例えば協力を要請されたら断ることはないかもしれない。やっぱり良い結果を出すには大変だと思うんですよね。我々も戦えるところは戦わなきゃ。だからやっぱりスタッフは多い方がいいし、そのために例えば為谷(洋介監督/成徳深谷、武南OB)のチームなんかから要請されたらそれは外側から協力する可能性はあるよね。

―全国で勝つために必要なこととはどのようなことでしょうか。

全国で勝つためにはどのようにしていこうかということは工夫した方がいいと思う。もっと外を知ることですね。全国にはいろいろな特長のチームがあるんですけど、例えば伝統的に九州のチームってどういうのだとかね。やっぱり知識として知っておいた方がいい。それでもいまの実力からいくと勝つ力がある。絶対にチャンスはありますよ。

埼玉県としては全国優勝が遠のいているけど、それは結果であって現実は明るい未来が結構存在していると思いますよ。埼玉県は少年の部とかジュニアユースの部で良い選手がいっぱいいます。これらともっとコラボできたら埼玉県は絶対に大丈夫、伸びますよ。

―次の代を担う監督たちにメッセージをお願いします。

大事なのは自分ファーストであること。あまり人の意見に惑わされない。最終決定は自分がする。それは広義に渡って、全体的な組織の決定もそうですけど、個々の選手に要求するのも最終決定。チームとしてこうやりたいという時に、例えばコーチが新しい意見を出してくると選手としては二重三重の課題や戸惑いが生まれる可能性がある。そういう時にコーチと相談しない。そこは自分で決定しなければいけない。選手には一番少ない数の課題をやれと伝える。あれもこうだ、これもこうだって言うんじゃなくて課題は1つか2つにする。ということは強い自分を作るということと結びつく。

要するに現場でいる人たちがこうしようと決めたことを前面に出していく、そのための責任ある立場にいる。そのための立場のためのコーチングを作れということ。その意味では自分のチームも僕がいるうちは遠慮しちゃってダメかもしれない。いなくなったらガラっと変わるかもしれないし。良い意味で期待したいですね。

新年度には、新体制でスタートさせるという大山照人監督。長きに渡って武南を強豪校にしてきたパワーは、飽くなき探究心と常に成長をしたいという思いだと感じた。新たな体制に引き継がれる現在も、その思いは未だ失われていない。これからの活躍にも期待したい。

(取材・文)石黒登、椛沢佑一