名門・武南が10年ぶりの夏の全国へ!「全国で輝く武南を作っていく」伝統の重みも感じつつ、新たなフェーズへ

古豪復活というのは少し言葉が足りない。これは「全国で輝く武南を作っていく」新しい一歩だ。

名門・武南が10年ぶりに夏の予選を突破し全国へ。18日、令和5年度全国高校総体・県予選決勝がNACK5スタジアム大宮で行われ、武南と浦和南が激突。ともに全国制覇の経験もあるオールドファン垂涎のカードには3,500人もの観衆が集まった中で、武南が4-0で勝利して、新人戦、関東大会予選に続く今季三冠目とし、9大会ぶり21度目となる夏の全国を決めている。

オールドファン垂涎のカードは武南が4発快勝で9大会ぶりの全国へ!

「本人たちが本当に今日やる気で入っていったので、強気でやるとか、そういうことはあえて言わず、平常心、いつもと一緒で、自分たちのスタイルで取りに行くと言って、2点目の(川上)旺佑が取ったゴールはトントンと刺した、落としたボールを、ちゃんとそこでドリブルで侵入して入れたというところで、ものすごく武南らしさというところは出たかなと。向こうも後半に動きがあったと思うんですけど、そういうのにも動じることなく、自分たちは自分たちのサッカーで、というところは絶対にブレないようにミーティングや昨日の練習もやってきた。関東からの連戦は正直ちょっときつかったですし、けが人も多かった中で、今日もディフェンス2枚を代えても動じることなく、平常心を保つためにこっちも準備してきたので、そこのところはすごく良かったかなと。去年までの武南とはまた違うなというところだと思います」(内野慎一郎監督)

「どこでフィルターをかけてくるのか。それと14番のボランチ(牛田晴人)、こいつをどうやって引っ張り出すのか。引っ張り出した時のそのスペースとか、ポケット、ホールここは常に意識させたので、動かしておいて、そこに入っていく、侵入っていうドリブルは意識させたし、ミーティングでも言いました」(監督)「プレスに速く来るっていうのはわかっていましたし、やっぱりワイドに使って、相手の一歩先を行くというか、そういう意味では自分だけじゃなく、周りをうまく使いながらっていうのはずっと今年言ってきて、いろいろなタイプの選手がいて、いろいろな特徴を持った選手がいるので、そういうところを今日は生かせたかなと思います」(松原)

準々決勝の川越東戦、準決勝の正智深谷戦は雨でスリッピーなコンディションという状況もあったが、この日は久々の晴天という中で「思い切って自分たちがコントロールしてもミスが起きないというのを自分たちは確信していた」(監督)。武南は強気のパスをピタっとコントロールしながら、堅守を崩すべくワイドを使って攻撃を展開する。10番のMF松原史季(3年)が機を見たサイドチェンジをバンバンと通し、右SHの飯野健太(3年)が突破力を生かしてアタック。また、そこで空いた中央のスペースにMF川上旺祐(3年)らが飛び込んでチャンスを作った。

前半10分にはFW戸上和貴(3年)がゴールエリア前で身体を張って左サイドに展開すると、松原のクロス性のシュートがGKの頭上を越えてゴールネットに吸い込まれ先制点が生まれた。さらにその6分後には指揮官も「武南らしさが出た」と話した追加点。左SBの島崎貴博(3年)のスローインを戸上がポストプレーで落とし、川上がドリブルでエリア内に侵入。「関東予選から調子が上がってこなくて、自分としても焦りがあった。だからこそ、絶対にここで取ってやるという気持ちがあった」と川上。右足のコントロールシュートが逆サイドネットに突き刺さった。

さらに28分には松原の展開を起点に、飯野が果敢にカットイン。関東大会1回戦の霞ヶ浦(茨城)戦でも決勝点となったPKを獲得したスピードスターは、ボディーフェイントで1人目を外しエリア内に入ると、さらに2人目を交わしにいったところで倒されてPKをゲットする。これを松原がゆっくりとした助走から相手GKの間合いを外して冷静に右足で決めて3点目とした。

浦和南は「守備よりもその前の入り方が今日は良くなかった。わかってはいたが、想像以上に相手の圧を選手たちが感じすぎていて、うちがやらなきゃいけないことができなかった」(野崎正治監督)というように、思うようにゲームを運べなかった。その中でも今大会正確なキックで得点の供給源となっていた10番の伊田朋樹(3年)がゴールに迫り、37分には右サイド深くで切り返して決定機を迎えたが、GK前島拓実(3年)のセーブに遭い、ゴールとはならなかった。

武南は後半頭から怪我を抱える右SBの齋藤瑛斗(3年)に代えてDF山崎元就(3年)を投入。浦和南もジョーカーのFW志田出帆(3年)をピッチに送り出す。武南は19分に島崎に代えてFW杉沢旭浩(3年)を入れて、飯野が右SB、山崎が左SBの形に。23分には扇の要であるMF髙橋秀太(3年)が相手との接触によるアクシデントで額をカットし、無念の途中交代となったが、1年生MFの平野琉斗が安定したプレーを見せるなど、バランスが崩れることはなかった。

26分には右サイドでボールを持つと、フリーランニングでエリア右のスペース抜け出した松原にパスが入り、クロスから戸上がヘディングで3戦連続となるゴールを決めて4-0とした。

なんとか1点を返したい浦和南もボールが収まり始めた中盤以降に反撃。39分にMF竹内翔馬(3年)のロングスローからFW小暮健太(3年)がヘディングで迫り、ATにはセットプレーの跳ね返りをGK金悠聖(3年)がハーフウェイライン後方から放った超ロングシュートが枠を捉えたが、いずれも前島がファインセーブ。準決勝の正智深谷戦に続く無失点と守備陣も奮闘した武南が、古くから凌ぎを削ってきたライバルに4-0と完勝し、久々の全国大会出場を決めた。

伝統の重みと誇りを感じながら、新たなるフェーズへ

武南は大山照人前監督のもと、攻撃的で魅惑的なサッカーで一時代を席巻。武南パープルと呼ばれる藤色のユニフォームはサッカー少年の憧れだった。1981年度の全国高校サッカー選手権大会では韮崎(山梨)を下し、初の全国制覇を達成。ちなみにこれが埼玉県勢にとって現時点で最後の日本一となっている。インターハイは2012年大会で準優勝を記録、21回の出場は最多だ。

内野監督も武南のOBで、インターハイ、選手権、全日本ユースにいずれも3回出場している。そんな輝かしい伝統を持つが、指揮官は「(そういった伝統であったりの話は)まったくしません。こいつらこいつら。歴史はすごかったですけど、いまからそこを越すことはできないですけど、少しでもまた新しい歴史に名を刻めればいいかなっていう風に自分は思っている」と話す。

選手たちも伝統の重みを感じつつ、新たな武南の歴史を刻みたいと意気込む。川上は「親や小中学校のコーチとかと会うと、やっぱり強かった武南の話をされたりとか、やっぱり武南のユニフォームを着て戦うっていうのはすごいことだっていうのは日々伝えられていますし、自分は一番埼玉県でユニフォームかっこいいと思うんですよ。だからそのユニフォームが着てプレーするっていうのはやっぱり喜びでもありますし、やっぱりすごい重たいです。でも、だからこそ、しっかり結果を残して、いろんな人を満足させられる、恩返しができればなと思います」と語る。

高校サッカーに強い憧れを持ち、武南の扉を叩いた主将の前島は「やっぱり自分が知ってるのは、強い武南であって、勝っている武南だったので、(近年は全国は遠ざかっているが)それを自分はここの高校に来て変えに来ましたし、勝たせる集団にさせるっていうところでは強い覚悟を持ってきましたし、やっぱり出るからにはチームを勝たせる、そのくらいのキーパーになりたいと思っている。やっぱりいろんな世代の方々が、このジャージを来て歩いていると、年齢が高齢の方からも「武南頑張れよ!」っていう風に街で声をかけてくれたりということが結構あって、「うわ、まじか。この人たちも武南を知ってるんだ!」と思って、やっぱりそういうところには歴史の重みっていうか、そういうのを感じていて、やっぱり自分たちだけじゃないんだな、武南高校を復活させてほしいのは、自分たちだけじゃなくて、やっぱりいろんな人が望んでることなんだなっていう風に感じました」と応援してくれる人たちの存在を改めて大きく感じたという。

1年次からエースナンバー10を背負い、名門の再建を託された松原は「古豪っていうレッテルですけど、そこを自分は全国常連の武南にしたいですし、昔強かったじゃなくて、いまの強い武南を全国で見せたいと思っている。もちろん全国出場っていうのはそうですけど、「全国で輝ける武南を作っていく」ためにもっとやっていかなくちゃいけないですし、今日はその通過点。失点0で4得点は全国に向けて良い弾みになったんじゃないかなと思います。やっぱり昔のOBの方々が築いてくれたこの素晴らしい高校を、自分たちはもっと責任を持ってプレーしなくちゃいけないですし、やっぱり武南を背負う責任っていうのは他の高校とかに比べたら重いものだと思っているので、そういう重みっていうのをしっかり理解して、もっとやっていきたいなって思います」と武南を背負う責任感と新しい武南を作っていく気概を語る。その中で「昔の武南がではなくて、やっぱり内野監督が作ってくれた、新しい武南をまた全国へ羽ばたかせる、羽ばたきたいっていうのは、自分が3年間いる中で表現していきたいなというのは思っていた。(全国出場を決めたが)さっきのミーティングで監督も言ってましたけど、やっぱり全国でどうプレーするかなので、過信せずに、また全国で暴れていきたいなと思います」と全国への想いを話した。

伝統の重みと誇りを感じながら、現在の選手たちが再び「全国で輝ける武南を作っていく」。名門校は新たなるフェーズへ。10年ぶりの全国は武南にとって新たな歴史のスタートとなる。

石黒登(取材・文)

試合結果

浦和南 0-4 武南
0(前半)3
0(後半)1