関東予選で話題となった「東野の9番」 FW及川朝日が漂わせるスケール感

「東野の9番がヤバいらしい」。連戦となった関東大会予選2回戦の試合会場はこの話題で持ちきりだった。1回戦で対戦した市立浦和・大野恭平監督は「FWの9番がスーパーだった。ひとりシュートスピードが違っていた。相当インパクトはありましたね」とその印象を話していた。

その「東野の9番」、FW及川朝日はインターハイ西部支部予選2回戦、城北埼玉戦でCFとしてスタメン出場。チームは前半18分にDF佐々木拓也のロングスローからMF花里陽紀がヘディングで決めて先制したが、「得点に繋げる最後のアタッキングサードの崩しのところがぼやけていてデザインできていなかった」と須釜洋勝監督がいうように押し込みながらも追加点を奪うことができず。及川自身も中盤に落ちてタメを作り、パスを捌きながらコントロールを試みていたが、「ロストしたりするところがあった」と思うようなプレーをすることができなかった。

それでも後半は少しずつ「違い」を見せていく。「やっぱり前半でチャンスを作れなかったので、後半でちょっと巻き返そうと思っていました」と及川。攻撃のギアを入れ替えると開始1分でいきなりチャンス。縦パスに左サイドをドリブルで抜け出し、エリア内で深く切り返して右足でふわりとしたシュート。これは惜しくもクロスバーに嫌われたが、早速決定機を作ってみせる。

後半は味方を生かしながら自らも積極的に前へ。28分にはこぼれ球を拾うとひとつ持ち出して左足で狙ったシュートが枠を捉えたが、ここは相手GKの好守に遭ってゴールとはならず。それでもこのプレーで得たコーナーキックから「小学校の時から任されている」という正確なキックをゴール前の密集エリアに入れてFW坂田拓馬のゴールをお膳立て。さらに31分にはDF海老原拓馬の右コーナーキックをファーで強烈なヘディングで叩き込んでチーム3点目を奪った。

それでもこの日は「30点くらい」。「やっぱりロストが多かったのと、決めきるところもあったので決めきりたかったです」。しかしその中でも随所で存在感。球の真芯をバチンと捉える強烈なシュートやヘディング、後半はシュートのほとんどを枠内に運ぶなど、持ち味のひとつであるシュートセンスの高さを披露した。また、ゴール前でボールを持てばそのままひとりで行けてしまいそうな、そんな雰囲気を持っており、本人も「2人、3人だったら行ける自信はあります」。

前述の市立浦和戦では個人能力の高さを見せて前半で2ゴール。その後3点を取られて敗れただけに勝負を決める3点目を決められなかったことを悔やんだが、強烈なインパクトを残した。また、昨年の選手権予選2回戦でも武南相手に2得点を決めるなどここ一番の得点力もある。

加えて「味方を生かすスルーパスとかも出せるので攻撃に関してはすべてできると言ったらあれですけど、得意なことは多いです」とフィニッシュあり、味方を生かすプレーありの万能型のFW。現在は組み立てにも加わるため下がり気味のポジションを取ることも多いが、チームとしてアタッキングサードでの崩しが構築されて、及川がある程度前線に張れるような状況が作れれば面白い。潜在能力的には県大会上位校のエースFWたちとも遜色ない能力を持っている。

及川は先日J1川崎入りが決まったDF佐々木旭(流通経済大4年)を輩出した埼玉の技巧派集団・ECジョガドールの出身。及川たちの代はクラブユース選手権でFC LAVIDAを破り関東大会に出場するなど力を持った代で今年矢板中央の10番を背負うFW久野木力丸や静岡学園でスタメンを張る右SB小泉龍之介など県外で活躍している選手も多い。「やっぱり競争が激しかったのでそこで成長できた部分はだいぶある」。その中で及川は1、2年はスタメンで、3年は切り札としてプレー。久野木や小泉とはいまでも連絡を取り合う仲で刺激をもらっているという。

スケール感もあり、本人も「やれればベスト」と語る大学サッカーでのプレーも期待したい選手。ブロック決勝で敗れ涙を呑んだが、選手権に向けて成長し目標とする県ベスト16を目指す。

石黒登(取材・文)

試合結果

東野 3-0 城北埼玉
1(前半)0
2(後半)0