全国高等学校総合体育大会 埼玉県予選決勝 昌平 vs 浦和西
全国高校総体・埼玉県予選決勝は連覇を狙う昌平高校と初の頂点を目指す浦和西高校が激突。試合は浦和西が先制に成功したものの、すぐさま昌平はFW佐相壱明が同点弾を奪うとエースのハットトリックを含む4得点で逆転勝ち。4ー1で2年連続2回目の優勝を果たした。
まず仕掛けたのは関東のリベンジに燃える浦和西。「潰しにいけるところなのにいけなかった」(DF石井優輝)、「プレスバックが遅かった」(MF山下勇希)という昌平のディフェンスとボランチの間にできたギャップを見逃さず。森喜紀、遠藤寛紀の2トップがそのスペースをうまくつきながら、テクニックのあるMF加藤淳志などを絡めて攻撃を展開していく。
前半7分にはMF唐牛七海、加藤で右サイドを崩すと、中央でフリーで受けた遠藤がシュート。これは昌平GK緑川光希の好守に阻まれるも、立ち上がりから王者・昌平に対し一歩も引かない姿勢を打ち出していく。10分過ぎからは昌平がダイレクトプレーなどで連続してゴールに迫っていったが、3戦連続で0に抑えてきた守備陣が中を締めてフリーでは打たせない。
すると前半17分に浦和西が大応援団の声援を受けて先制。左サイドハーフの萩原悠樹が持ち込むと森がエリア内でしっかりとキープ、その落としを加藤が右足で流し込んだ。「あれはもうずっと練習していた形。距離を近くしながら崩して取りたいと思っていたのがうまくハマった」と市原雄心監督。浦和西が全国大会を決めた勢いをそのままに先にゲームを動かした。
しかしリードは長くは続かない。同点弾はそれから2分後。前半19分、右サイドで起点を作ると山下のスルーパスをMF髙見勇太がタッチラインぎりぎりでヒールで残す。一瞬ディフェンスラインの動きが止まったのを見逃さず、走り込んだ山下がマイナス気味のクロスを入れると「あそこにいれば絶対にあいつは見ているな」と思ったという佐相がニアで身体をひねりながらシュート。ボールはゴール左隅に吸い込まれ、すぐさま昌平がスコアをタイに戻した。
さらに昌平は前半のうちに試合をひっくり返す。32分、エリア右でフリーキックを獲得すると、MF原田虹輝のキックを「相手のマンツーマンをうまく剥がせた。良いボールがきたのでしっかり叩いた」という関根がヘディングシュート。関東本大会の日本体育大学柏高校戦でも勝ち越しゴールを叩き込んだ頼りになるエアバトラーの一撃で2ー1として前半を折り返す。
後半も前半の勢いのままに昌平が攻撃を展開。「今日はドリブルも自分の思うところに運べたり、相手の前に入ることもできた。縦パスも何本も入って自信になった」という山下がするするとゴール前に入っていきながら、シュートやラストパスで相手ゴールに迫っていった。
なんとか流れを変えたい浦和西は後半7分、森に代えて準決勝で決勝点となるPKを決めたFW高橋岬生を投入。カウンターから攻撃の糸口を探そうとするが、昌平もハーフタイムでディフェンスライン前の意識のズレをしっかりと修正しており、石井、関根がはじき返していく。
後半23分には昌平に3点目。相手のクリアを関根が前線に頭ではじき返すと、エリア外で受けた佐相が鋭い反転から右足を振り抜いた。「ゴールの瞬間は見えていなかった」ものの、打った瞬間に「これは入る!」と思ったと背番号9。得意の反転を活かすために献身的に走って裏を取る動きを意識して臨んだ今予選だが、この日2得点目はそれが結実した形となった。
終盤にかけて浦和西はヘディングの強さがあるFW朝見海斗、ロングスローを持つMF田村優人を投入してセットプレーに出る。田村のスローで押し込んでいくと、後半36分に右コーナーキックの混戦から昌平ゴールに迫るも、これは原田がライン上でかき出してクリアした。
ここを凌ぎきった昌平は後半アディショナルタイムにさらに加点。左サイドバックの堀江貴大のクロスから準決勝でもこの形で得点した佐相が「イメージ通り」ニアで合わせてダメ押し。「いつもは何点決めるとかは決めていないが、今日は3点取ろうと思って臨んだ」という佐相のハットトリックが決まり、4ー1の逆転で昌平が今年県内3つ目のタイトルを獲得した。
2年連続の優勝で挑むは去年3位に終わったインターハイの舞台。「去年は先輩たちに引っ張られていた立場だというのは自分でも認識している。今年は自分が中盤のボランチに入ってチームをコントロールする気持ちでやっている」と山下。
昨年はMF針谷岳晃、MF松本泰志がこの大会で人生を変えたが、「自分も出ていたのでインターハイの大きさは実感している。プロになるためにここまでサッカーをやってきた。このチャンスを自分の力でものにできるようにやっていきたい」。得点を上げることで他のボランチとの違いを見せたいと意気込んだ。
また同じく昨年を経験した石井、関根のセンターバックコンビにも大会にかける想いがある。「去年は攻撃陣がすごい注目されていたのはちょっと悔しいところもあった」(関根)、「今年は守備もすごいし、攻撃もすごいと全国でも言われるようにやっていきたい」(石井)。右サイドバックの塩野碧斗、守護神の緑川と2回目の大会に挑むメンバーで構成されている守備陣には監督も大きな信頼を置いている。全国の強豪と当たるうえで彼らの活躍は必須だ。
毎試合2得点以上、得点王争いをしたいと語ったエースの佐相は最後に「準備は整いました。やるだけです」と結んだ。今度こそ決勝の扉を開き、『日本一』の称号を持ち帰る。
また決勝では敗れたものの、30年ぶりの全国高校総体出場を決めた浦和西にも期待がかかる。予選を通じてトーナメント仕様のロングボールを主体としたスタイルで勝ち上がってきた古豪だが、決勝で見せたように技術を活かしたサッカーも持っている。サイドプレーヤーにはスピードのある選手が多く、180cm超えを揃えたディフェンスラインは強固だ。終盤の粘り強さもある。「まずは1勝」(市原監督)を狙って戦いの地、宮城に乗り込む。
石黒登(取材・文)
試合結果
昌平 4-1 浦和西
2(前半)1
2(後半)0