第99回 全国高校サッカー選手権大会埼玉県大会 準々決勝 聖望学園 vs 正智深谷
選手権埼玉2次予選準々決勝。正智深谷は4-0で聖望学園を下し、4年ぶりの4強を決めた。
序盤は聖望学園が良い入りを見せた中で、正智深谷はここをキャプテンのDF大塚天翔を中心にしっかりと守ると徐々に流れを引き寄せる。前半13分にはFW佐宗知幸のポストプレーからMF亀山飛来のクロスをMF倉林大河が打点の高いヘディングで相手ゴールに迫っていった。
ずると引水直後にゲームが動いた。前半25分、正智深谷は敵陣右中間でフリーキックを獲得すると、キッカーのMF松山碧はストレート性の相手が反応しずらいボールを選択。これをMF大野涼真がとっさの判断ですらし、大塚がヘディングでキーパーのいないファーサイドに決めた。
さらに正智深谷は前半29分、コーナーキックのこぼれを大野が右足のキャノン砲で打ち抜き追加点。36分には松山の右コーナーキックからDF川井祥馬が下がりながらシュート。こぼれ球を1年生DFの小屋結世が一度防がれながらも再度粘り強くシュートしてネットを揺らした。
一方、攻めるしかなくなった聖望学園はハーフタイムにMF柑子木咲琉、MF黒田龍、FW廣嶋楓汰と怒濤の3枚替え。インサイドハーフを鳥海颯、柑子木、黒田の構成に変え、流れを引き寄せにかかるが、正智深谷の固い守備の前になかなかシュートまで持って行くことができない。
正智深谷は終了間際の後半37分、大野から松山が繋いだボールを途中出場のMF浅見竜輝が決めてダメ押しの1点。4-0で勝利し、2016年大会以来4年ぶりとなるベスト4進出を決めた。
先制点で流れを作ったDF大塚天翔。昌平戦は様々な人の想いを背負ってピッチに立つ
前半にセットプレーから鮮やかな3発で勝負を決めた。「セットプレーはすごく練習していて、サインとかも細かく決めたりしている」というのはキッカーを務める松山碧。まさにチームとして狙い通りといった形だが、この流れを生み出したのがキャプテンDF大塚天翔の1点目だ。
前半25分のフリーキックの場面。目前でMF大野涼真がすらした難易度の高いボールだったが、「(大野が)触った瞬間にすぐに切り替えて中に入る準備ができた」と冷静に対応。「ファーが空いているのが見えたのでもうそこしかないなと思いました」。しっかりとミートしたボールは放物線上を描きながらネットに。直後、右手の中指を天にかざしながら仲間から祝福を浴びた。
いつも試合前には大塚から「良い時間帯に良い先制点を取る」ということを話しているというが、それを地で行くゴール。「仲間が決めても良かったんですけど、やっぱり自分も少しは狙っているぞという気持ちがあった。そこで点を取ったことによってチームとしても活気がでてきたというか、良い方向に向くことができた」と大塚。小島時和監督も「あの1点が(その後も展開を)繋げていったのかなと思います」とキャプテンの一発が大きな役割を果たしてくれたとした。
また守備でも1年生DF小屋結世とともにカバーし合いながら安定感抜群のプレーで零封。学年を超えて互いに信頼し合うCBコンビを中心に今大会はいまだ無失点と守備の力が光る。
次戦は昨年0-5で敗れた昌平との大一番。「本当に自分としても人生で一番悔しい試合だった。個人的にも思い入れも強いですし、チームとしても来週にかける想いというのは本当に強い。Jが内定している選手が4人もいてやっぱり世間から見たら昌平が勝つと思われがちですけど、自分たちもそこでやってやるぞという気持ちを前面に押し出してプレーしたい。Aチームだけの試合じゃない。メンバー外の仲間たちのためにも本気で戦いたいと思います」と大塚。
また昨年のキャプテンDF山田裕翔との約束を果たす時。「尊敬していた先輩。彼が試合後自分が泣いている時に、自分も悔しかったと思うんですけど、まず声をかけてくれて「来年は頼むぞ」と言われた。それに関しては絶対に返さないといけない。本当に思い入れのある試合だと思うので、死ぬ気で戦いたいです」。さまざまな人の想いを背負い、準決勝のピッチに大塚は立つ。
名前は天翔と書いて「カケル」と読む。もともとは翔の一文字だったという中で画数や「天にはばたく」という両親の願いも込めて天翔となったというが、いまの大塚にぴったりの良い名前だ。昌平に昨年のリベンジを果たし、チームとして4年ぶりとなる埼玉の頂「天」へと「翔」る。
けが人続出で生命線のインサイド固定できず
2年連続の4強入りを狙った聖望学園はベスト8で敗退。山本昌輝監督は「ゲーム内容自体はそんなに悪くなかった中でやっぱりあのセットプレー絡みの3失点が痛かった」と顔をしかめた。
今大会は怪我にも苦しんだ。本来のレギュラー核であるMF柑子木咲琉が選手権前に負傷。準々決勝は後半からピッチに立ったが、今大会初出場だった。またMF石田亜斗夢も試合週の練習中に故障してメンバーに入ることは叶わず。そういった中で今予選は生命線であるインサイドハーフを固定することができず、毎試合違う組み合わせにせざるを得なかった事情もあった。
準々決勝では1年生の平野昇成が先発。前半のみの出場となったが、「彼自身にとっては来年に繋げられる良い形にはなったと思う」と指揮官はここで得た経験を来季に繋げてほしいとした。
石黒登(取材・文)
試合結果
聖望学園 0-4 正智深谷
0(前半)3
0(後半)1