第99回 全国高校サッカー選手権大会埼玉県大会 準々決勝 武蔵越生 vs 立教新座

選手権埼玉2次予選準々決勝。武蔵越生は1-0で立教新座を下し、15年ぶりの4強を決めた。


武蔵越生はDF木村一世を中心とした固い守備から良い状態でボールを奪い、そこからのロングボールで攻撃を展開する。前線では石本浩大、寺島啓太、米山大智の3トップがポジションを変化させながら躍動。特に寺島は序盤から積極的にシュートを狙っていくシーンが目立った。

対する立教新座も序盤は押し込まれた中で種田要、石田大河のダブルボランチが中心となって繋ぎながら反撃。前半終了間際の39分には石田のパスからFW風間太希が決定機を迎えたが、ここは武蔵越生の1年生GK関根拓郎が至近距離からのシュートをしっかりとセーブした。

後半は互いにカードを切っていく中でスコアが動いたのは29分だった。武蔵越生は相手のディフェンスラインでのパス回しに対し、寺島が限定をかけていくと、後半途中出場のFW五十嵐大翔がボールをカット。そのままドリブルでキーパーを外し、無人のゴールに流し込んで先制した。これが決勝点となり、武蔵越生が選手権予選では15年ぶりとなるベスト4進出を果たした。

今大会は2回戦から登場となった中でいまだ無失点。木村を中心に石田哲也、松永浩弥で構成された3バックは堅守を誇る。また、今大会はゴールキーパーに1年生の関根を抜擢しているが、その1年生をサポートすべく、3年生のディフェンスにはさらに責任感が芽生えていると西澤浩一監督はいう。準決勝の相手は強豪・西武台。指揮官は「西武台の攻撃はどんどん後ろから沸いてきたり、非常にアジリティセンスの高い子も多い。そういったところにまずしっかりと守備をやり切れるかというところがスタートだと思います」と、やはり守備をポイントに挙げた。

勘の良さが光る切り札が決勝点。FW五十嵐大翔は「スーパーサブ」としての得点王に意欲

勝負を決めたのは「スーパーサブ」だ。武蔵越生FW五十嵐大翔は後半4分にピッチに立つと精力的なプレーで前線を活性化。すると29分、ディフェンスの横パスを「狙って」パスカット。そのままの勢いでエリア内に入ると最後は冷静にキーパーを外し、ネットに流し込んだ。

ゴールシーンに代表されるように勘の良さが光るプレーヤー。西澤浩一監督は「やっぱり洞察力というのがある。ボールを見ていてこのボールはどっちにこぼれるのか、このボールをどういうふうに相手がトラップしていくかというところで、その勘が非常に良い。今日なんかも相手がトラップしたボールのその一個先を考えたような感じで狙いに行くだとか、相手のやろうとしているプレーの一個先を感覚的にできる選手かなと思います」と五十嵐の洞察力を評価する。

今シーズンはその予測能力をうまく生かして前線でボールをさらい、得点を積み上げているという。自ら奪って、そして得点もする。「アシストのつかないゴール」は五十嵐の代名詞だ。

それでももともとそういうプレーヤーだったわけではなかったと五十嵐はいう。「高校1年の時に西澤監督や精二さん(井上コーチ)に相手の状況を見てサッカーをしろと言われて相手を見るようになった。そうしたらそこに行けばボールが来るかなみたいなのがわかってきた」という。それまでは直感に頼ってきた中で目でもプレーできるようになったのが現在に繋がっている。

そしてもうひとつ今大会五十嵐に求められているのが「スーパーサブ」としての役割。前半から出ているメンバーが積極的な守備でジャブを与え、五十嵐や渡辺光陽といった後半から出てくる選手で仕留めるのが今季の武蔵越生のパターンだ。3回戦の国際学院戦では後半頭から投入された中で2得点を奪い、チームの勝利に大きく貢献。ちなみにこの2ゴールもクリアをカットしたのとこぼれ球絡み。そしてこの試合でも少ない時間でしっかりと結果を残して見せた。

途中から出る難しい状況は「最初からゴールを狙っていって、ドリブルも自分から仕掛けに行く。後半は自分が一番ボールを持っているくらいのイメージを持っています」と積極的にボールに絡むことでゲームに乗っていけるとのこと。当初はサブという立ち位置に対し「悔しい気持ちもあった」という中で、いまではこの「スーパーサブ」という役割に誇りを持っているという。

これで2回戦の1得点と合わせ、大会4ゴール目。「最初はあまり意識していなかったんですけど、細田の選手が5点を取っているのでそれを越したい」と得点王レースに向けての意欲も見せた。次戦もスーパーサブとして少ない時間でも結果を残して、武蔵越生を初の決勝に導く。

「力がない代」覆し49年ぶりの選手権8強。森田幹杜主将「この代でサッカーできて良かった」

悔しさがないわけではない。それでも「力のない代」という周囲の声を覆し、チームとして49年ぶりの選手権ベスト8―。立教新座の森田幹杜主将は「やり切った」と穏やかな表情で語った。

今大会は2回戦で2年前に先輩たちが関東予選決勝で敗れた成徳深谷にリベンジ、3回戦では埼玉平成を破るなど、S1チームを連覇。勝つことが自信を呼び、自信がまた成長を促した。

今年は一昨年の関東予選準優勝の代や昨年と比べて「力的にも難しい代」とされてきた中で、その先輩たちも実現できなかった49年ぶりの選手権ベスト8入りで下馬評を覆した。「選手権はいままで勝てなかった中で、その選手権でここまで結果を残せたというのは本当にこの代でサッカーができて良かった。自分たちは力がなくても、ここまで来られるというのを証明できたと思う。下の代は本当に力もあるので、しっかり勝って行ってほしいなと思います」と夢を託した。

石黒登(取材・文)

試合結果

武蔵越生 1-0 立教新座
0(前半)0
1(後半)0