第97回全国高等学校サッカー選手権大会 埼玉県予選会決勝トーナメント決勝 昌平 vs 浦和南
52校が頂点を争った戦いもこれが最後。全国高校サッカー選手権・埼玉県予選の決勝が18日に行われ、浦和南高校が昨年覇者・昌平高校を2ー1で下し、17年ぶり9度目の優勝を飾った。
今季4度の対戦は昌平の4勝。だが今年最後の大一番は浦和南の粘り強さに軍配が上がった。
これまでの戦い同様、昌平は序盤からチーム全体でボールをポゼッションしながらゲームの主導権を握る。原田虹輝、丸山聖陽のボランチコンビの配球からスピードのあるFW西村悠希やインサイドに位置を取ったMF森田翔やMF木下海斗、その絞って空いたスペースを堀江貴大、吉田航の両サイドバックが積極的に駆け上がり、厚みのある攻撃を連続して仕掛けていった。
前半12分には丸山の展開から堀江がドリブルで持ち込み、クロスにニアサイドで森田が合わせるも、ボールはやや足元に入ってしまい枠を捉えることはできず。16分には再び左サイドを抜け出した堀江がエリア内に切れ込んで今度は自分で狙ったが、シュートはゴール上に外れた。
対する浦和南は前線から最終ラインまでをコンパクトに保ちながら相手のパスワークに対応。サイドはやらせても中央は相馬海音、庄司千暁のセンターバックコンビを中心に弾き返して最後の部分はやらせない。前半は3本のシュートを打たれたが、枠内は1本も許さなかった。
すると後半に入り浦和南はギアアップ。構える守備から前線からプレスをかけて高い位置でボールを回収する積極的な守備にシフトチェンジすると、徐々に敵陣への圧力を高めていく。
浦和南が攻勢を強める中、しかし先にスコアを動かしたのは昌平だった。後半11分、中盤でボールを奪った森田が右サイドに出すと、オーバーラップした吉田がドリブルでエリア内に侵入してニアサイド上を撃ち抜いた。浦和南にとっては今大会311分目にして初の失点となった。
だが、これでゲームは終わらない。浦和南は後半21分、MF草野皓のクロスにファーサイドでDF渡辺優人がヘディングシュート。こぼれ球にMF岡田竜哉、さらに相馬が2の矢、3の矢と詰めていく。これはゴールとはならなかったが、直後のコーナーキックの混戦から相手のハンドを誘ってPKを獲得すると、大坂が落ち着いてゴール左下隅に決めて同点に追いついた。
勢いに乗る浦和南はセカンドボールを連続して回収しつつ一気に相手を押し込むと、後半71分にセンターサークルでフリーキックを獲得。キャプテンのMF鹿又耕作がエリア内に高いボールを蹴り込むと、ゴール前の混戦から最後は庄司が右足で突き刺してついに逆転に成功する。
1点を追う昌平は後半投入のMF須藤直輝、MF大和海里の突破力にかけるが、浦和南も全員が粘り強く守って対抗。昌平はアディショナルタイムに原田のコーナーキックからこれまで何度もホットラインを繋いできた関根のヘッドが枠を捉えたが、草野が掻き出してゴールを死守。最後まで集中した守りを見せた浦和南が昌平の猛攻を凌ぎ切り、17年ぶりの栄冠に輝いた。
集団力で勝ち切った浦和南 野崎監督「鬼の云うことを魂を持ってやってくれた」
「感無量の一言。夢を見ているようで現実かな、本当に夢を見ているんじゃないかなっていう、そんな想いでしたね」。母校再建を託されて今年で6年目、野崎正治監督が宙を舞った。
まさに「塊」だ。ひとりひとりの力では敵わなくとも、グループ力、集団力で勝ち切った。
序盤から全体をコンパクトに保ちながら集中した守りで相手の攻撃を跳ね返し続けると、先制点を許した後も連続失点は与えず。同点、逆転に繋げた。終盤は昌平の猛攻に遭ったが、先制点の大坂も戻って守備、サイドで相手のキープレーヤーと対峙し続けたDF狩集洸哉はほとんど決定機を与えず、草野は相手の決定機を掻き出し、鹿又は最後までしっかり身体をぶつけて相手の攻撃を阻止した。各々が各々をカバーしあいながら「南高のゴールを守るんだ!」という魂を持って「自分たちが昌平に対してできるマックス」(相馬)で戦って勝利を掴み取った。
「『塊』は土偏に鬼と書く。じゃあ鬼ってなんだ。鬼は非常無比。『魂』はどう書くか。鬼が云ったことを伝えるんだと。俺やコーチが伝えたことを胸にしまってプレーせよ。それが魂ということ。昭和のサッカーと言われても私が批判を受ければいい。でも子供たちは本当にその通り、鬼の云うことを魂を持ってやってくれたなと思います」と野崎監督は選手を讃えた。
「17年ぶりというのはもう関係ない。新しい歴史を作っているんですから。私の母校なのでやっぱりその辺の魂は繋いでいきたいですが、この子たちには過去にとらわれずに本当に自分たちの歴史を作って欲しいですね」。新しい歴史の幕開け。全国の舞台でも「南高魂」で戦う。
大坂が有言実行の“実質”2点 再びの全国へ「全員が驚くプレーを見せて注目されたい」
PKはキーパーの目を見て冷静に逆サイドに沈めた。埼スタでのゴールは「テレビで見る雰囲気と全然違った。一番は歓声がすごくて気持ちがブワーッとなった」というが、すぐにボールを抱え上げると、落ち着けのジェスチャーをしながらすぐにスポットに戻す冷静さも見せた。
「まだ同点に追いついただけ。点を決めた選手が落ち着けばみんなも落ち着くし、そこは意識しました」。6月のインターハイ予選決勝ではビハインドから大坂のゴールで同点とした後に2失点を重ねて2ー4で敗退したが、その時の経験も心のどこかにあったのかもしれない。
決勝点の場面は自然に身体が動いた。後半31分、フリーキックの混戦からイーブンのボールがエリア内に落ちると、「お互いのゴール前は南高魂で戻ったらゴールを守るし、相手のゴールだったら点を入れる気持ちしかない。そこは魂で押し込みました」。身体を投げ出すようにして頭でプッシュすると、その魂の一押しを庄司が詰めて逆転。終盤は相手のシュートをスライディングでブロックするなど、自陣のゴール前でも魂のこもったプレーで勝利に貢献した。
準決勝の成徳深谷戦は相手の警戒を受けて自由にプレーできず。その鬱憤を晴らすべく「次の昌平は絶対に2点は決めます」と宣言していたが、1点分の価値があった魂のダイビングヘッドを含めれば“実質”2得点で有言実行。初の全国となったインターハイでは0得点と悔しい結果に終わったが、得点への意識を高めた今大会は少ない決定機の中でしっかりとエースナンバーにふさわしいプレーでチームの優勝に貢献、決勝も常にゴールに一番近い選手であり続けた。
自身2度目の全国へ。グティやダビド・シルバのプレーを参考にしているというレフティは「観客も相手も驚くようなパスだったり、ドリブルをして注目されたいですね」と意気込み。1回戦の相手は今夏に敗れた東福岡、さらに同じヤマには尚志、神村学園、前橋育英が名を揃える屈指の組だが、ここを勝ち進んでいくことができれば自ずと注目度も上がっていくはずだ。
関根「リーグ戦で優勝して昌平が年間を通して一番強かったことを証明したい」
「自分たちのサッカーは通用したんですけど、最後までやりきることができなくてこのような形で負けてしまったのが本当に悔しい……」とDF関根浩平は言葉を絞り出した。前半から自分たちの繋ぐスタイルを出しつつ、後半頭に先制点と流れはあっただけに逆転負けを悔やんだ。
不運もあった。準決勝で右瞼を切って4針を縫っていたが、相手が勢いを増してきた後半に接触で今度は左瞼の上をカット。それでもすぐに処置してピッチインし、チームを鼓舞するべく恐れずにヘディングで向かっていったが、後半30分に再出血。主審から一度ピッチ外に出るように言われ、処置を終えてピッチに戻る直前の31分に相手のセットプレーから勝ち越し弾を喫し、「キャプテンとしてその場に立てなかったのは本当に申し訳ないし、情けない気持ち」。
アディショナルタイムにはインターハイの札幌大谷戦の同点弾や今大会の正智深谷戦の先制ゴールなど、これまで何度もホットラインを繋いできた盟友・原田のセットプレーからヘディングシュートは枠を捉えたが、相手の決死のディフェンスに阻まれてゴールとはならなかった。
大会連覇、そして日本一への夢は叶わなかったが、それでも最後にまだもうひとつ、リーグ戦の戦いが残されている。「まだあと2試合残っている。リーグ戦を優勝すれば年間を通して一番強かったのは昌平だっていうことは証明できると思うし、それが来年の後輩たちへの置き土産のチャンスにも繋がる。あと2試合のリーグ戦を全力で戦って、やっぱり昌平は年間を通して一番強かったっていうのを見せつけてやりたいと思います」と気持ちを奮い立たせた関根。
原田も「本当にやってきたことに後悔はない。選手権の後でなかなか気持ちの切り替えも少しできない部分もあるんですけど、そこはしっかりと残り2試合に集中して、本当に最後は勝って自分たちがやってきたことが間違っていなかったと証明したい。それがいまの3年生が残すべきことだと」とリーグ連覇とプリンス関東昇格をプロ入り前のラストミッションに据えた。
石黒登(取材・文)
試合結果
昌平 1-2 浦和南
0(前半)0
1(後半)2