第97回全国高等学校サッカー選手権大会 埼玉県予選会決勝トーナメント準々決勝 浦和東 vs 西武文理

全国高校サッカー選手権・埼玉県予選準々決勝。2年連続の4強進出を狙う浦和東高校と2度目のベスト8に臨んだ西武文理高校の一戦は2−0で浦和東が勝利し、準決勝に駒を進めた。

立ち上がりからはっきりとした狙いを持って仕掛けたのは西武文理だ。サイドを起点に相手を押し込みつつ、敵陣の高い位置でスローインやフリーキック、コーナーキックを獲得すると、今大会10得点中実に7得点を挙げている鉄板のセットプレーから浦和東ゴールに迫っていく。

さらに前半13分にはゴールキックから相手守備のクリアが不十分なところをFW澤田颯太が狙うとキックはミートしなかったものの、ボールはゴール前のMF河田眞之介の足元へ。河田はひとりかわして右足を振り抜いたが、下目を叩いてしまいボールはクロスバーの上を越えた。

一方、序盤は固さもあった浦和東も前半15分過ぎからFW小川翼を起点に攻め込む形を増やしていく。しかしこの日はMF横田遥人、DF青鹿真太郎の左サイドが相手の警戒を受けてなかなか形を作ることができず。中央もDF河村祥栄を中心に粘り強く守られて得点までは至らない。

このままハーフタイムを迎えるかと思われた中で試合は突然動いた。前半37分、浦和東は中盤の混戦でMF安食龍成が相手のバックパスに猛烈にプレスをかけてキーパーのキックを胸に当てると、そのこぼれ球を角度のないところから左足のアウトにかけてネットに突き刺しついに均衡を破った。その後の時間帯もしっかりとゲームコントロールして1点リードで折り返す。

1点を追う西武文理も後半開始1分にビッグチャンス。スローインの流れからDF奥野雄葵の右クロスを河田が落とすと、3戦連発今大会5得点の澤田が右足を一閃するもシュートは惜しくもニアポストを強襲する。7分には切り札のMF橋本健、FW浅見玲緒を投入し勝負に出た。

しかし浦和東もDF上原龍を中心にディフェンスラインが高い集中力を持って、これに対応。シュートは許さない。すると浦和東は後半24分にゴール前で獲得したMF志村直樹のフリーキックから弾かれたボールをMF中野音央が押し込むと、混戦から小川が右足で詰めて追加点。

終盤にはもう一人の切り札、FW山本竜也を送り出し、長身の河村を前線に残してパワープレーに出るなど、最後まで攻める姿勢を見せた西武文理だが、赤の牙城を前にゴールを割ることはできず。2−0で勝利した浦和東が次戦、準決勝で王者・昌平高校と激突することとなった。

平尾信之監督は「準決勝で昌平とやるっていうのは最高の舞台。今年は1勝2敗。だから子供たちも決して全国3位っていうことにビビっていないと思う。戦い方だけ確認して、ノビノビやらせてあげたい。立ち向かっていきたいですね」とチャンピオンチームとの対戦を見据えた。

Nack5の夕焼けを最高の景色に! 小川はエースとしての自覚胸に昌平戦に挑む

「決めたは決めたんですけど、もう一個決定的なシーンがあった。あれを決めないと次は絶対に勝てない。それはちょっと反省点ですね」。大会3得点目も終盤の決定機逸を悔やんだ。

後半24分にフリーキックからのゴール前の混戦を「こぼれ球は常に意識していた。キーパーや周りよりも先に反応できた」と右足で詰めて勝利を決定づけるゴール。しかし、後半37分に中野のパスに抜け出した場面ではキーパーのタイミングの良い飛び出しもあったものの、追加点とすることができずに「あれはマジで決めないと。1週間しっかり練習したい」と反省した。

次週は昌平との大一番。「常に浦東らしいプレーをしないといけない。浦東らしくやって、なおかつ自分ができる一番のプレーをやらないと勝てないと思う」。この『浦東らしさ』というキーワードは今年繰り返し使ってきた言葉。「声、球際、競り合い、そういう気持ちの部分でやっぱり負けたらダメだと思う。そこはしっかりとやっていきたいですね」と小川はいう。

「思い出しちゃいますね…」。そう語るのは昨年大会準決勝の浦和西戦後に見た夕焼けのグラウンドの風景。「試合が終わった後にNack5でこんな感じで見ていたんですよ。(中野)音央と見ていたんですけど、それがなんかずっと残ってて。それを良い景色に変えたいですね」。

今年は怪我による離脱なども経験した中で精神的に一回り成長した。「みんなが頼りにしてくれているところもある。そこはやっぱりもう自覚を持ってエースとしての仕事をやっていく」と小川。今年最大の一番をエースとして勝利に導き、Nack5の夕焼けを最高の景色に変える。

積極姿勢で先制点ゲット! 2年生ボランチの安食「相手が下げることはわかっていた」

後半勝負に絶対の自信を持つ西武文理のゲームプランを崩したのは安食の積極性だった。

前半も残り3分を迎えた37分、相手のゴールキックのこぼれ球に寄せてボールを奪うと、一度は相手にボールを引っ掛けながらも2撃、3撃と詰めて相手にプレッシャーをかける。すると混戦の中で「相手もゴールの方に身体が向いていた。下げることはわかっていました」。バックパスに猛然と詰めると、キーパーのクリアを胸でブロック。すぐさま立ち上がるとライン側にこぼれたボールに走り込み、角度のないところから左足アウトにかけてネットを揺らした。

勢い余って1回転。「点を決めた時、自分はわからなかったんですけど、先輩たちが寄って来てくれて決めたことがわかった」。スタメンで唯一の2年生プレーヤー(ほかは全員3年生)はその後、先輩たちに囲まれて祝福を浴び「みんなで喜べて良かったです」と微笑んだ。

本職のセンターバックで磨いたヘディングが武器。好きな選手だと語るセルヒオ・ラモスのように「もっと積極的にプレーしたい」という安食は「まだ自分には全然足りていない。先輩たちの代からできるようにしっかりやっていきたい」とチームを鼓舞するプレーを誓った。

「仲間たちには素直にありがとうと言いたい」と河村 4強、そして全国の夢は後輩たちへ

「立ち上がりとかの入りっていうのはチーム全体として良い形で入れただけに、ちょっと今日の敗戦は悔しいなっていう気持ちが多いですね」とチームを牽引してきたキャプテンの河村。

チームとして初の4強をかけた戦い。前夜、当日朝と全員で気持ちを高め、強い想いを持って挑んだ一戦は、前後半ともに相手を上回る立ち上がりを見せ、守備でもほとんどチャンスを与えなかったが、「ちょっとやっぱり何かがまだ足りなかったかなと思います」と振り返った。

それでも河村は「いろいろな苦しみとか、楽なことばかりではなかったですし、両親もそうですけど、やっぱり仲間がいなかったら乗り切れなかった部分は大きくあったと思う。ここまで辿り着けたことは本当に仲間に感謝したい。仲間たちには素直にありがとうと言いたいです」とともに戦ってきた3年生たちに感謝。後輩たちには「力はある代。この敗戦を胸に刻んで、来年以降またリベンジしてもらいたいと思います」とベスト4、そして全国への夢を託した。

石黒登(取材・文)

試合結果

浦和東 2-0 西武文理
1(前半)0
1(後半)0