第97回全国高等学校サッカー選手権大会 埼玉県予選会決勝トーナメント準々決勝 昌平 vs 正智深谷

全国高校サッカー選手権・埼玉県予選準々決勝。連覇を狙う昌平高校はDF関根浩平のヘディング弾を含む2ー1で正智深谷高校を振り切って、6年連続6回目の大会4強入りを決めた。


昨季代表校の昌平と2015、16年大会連覇の正智深谷の一戦。昌平はインターハイの布陣と変わらず。正智深谷は5バックに、1トップにオナイウ情滋という陣容でこの一戦に臨んだ。

序盤からボールを持ったのは昌平。J1川崎内定のMF原田虹輝も後方の組み立てに加わりつつ、いつも通りディフェンスラインでボールを回しながら機を見て楔のパスを放っていく。しかし、正智深谷も最終ライン5枚と中盤4枚の2ラインでしっかりと守って決定機は与えない。

主導権を握りながらもなかなか相手守備を崩せずにいた昌平だが、立ち上がりから積極的なプレーを見せていた西村の思い切りが先制点を呼び込んだ。前半21分、相手のクリアミスに猛然と走り込むと、これにたまらず飛び出したキーパーに倒されてフリーキックを獲得。原田の正確なキックからファーサイドで後ろから走り込んだ主将の関根が合わせて試合を動かした。

一方、前半は守勢に回ることが多かった正智深谷は、後半開始からFW田中泰斗を投入してシステムを4ー4ー2に変更。オナイウを主戦場のサイドに移すと背番号11は迫力のある突破から次々とチャンスメイク。これがスイッチとなり正智深谷が徐々に押し込む形を作っていく。

後半22分にはオナイウのクロスから田中が決定機を迎えると、直後のコーナーキックにファーサイドでDF山田裕翔が滑り込んだが、ボールは惜しくも枠を外れ地面を叩いて悔しがった。

流れを取り戻したい昌平は後半26分に1年生10番のMF須藤直輝を投入。須藤が左に入り、FW森田翔をトップに移すと直後に追加点が生まれる。27分、スローインからMF渋屋航平、木下海斗と1タッチパスが繋がると森田が絶妙なヒールパス。「あの形はめっちゃ練習していた。練習通り」とリターンに走り込んだ木下が右足で鋭いシュートを突き刺して2ー0とした。

攻めるしかない正智深谷は後半28分、気迫溢れるオナイウが右サイドで2人をぶっちぎって途中出場の1年生MF山本滉が右足で狙ったが、ボールはキーパーの正面。さらに終盤はセンターバックの福田零雄那を前線に残してパワープレーに出ると後半33分、オナイウのクロスに福田が頭一つ抜け出す打点の高いヘディングを決めて1点を返したが、あと1点が遠かった。

「選手権の借りは選手権でしか返せない」 2年前を知る関根が正智深谷にリベンジ!

「選手権の借りはやっぱり選手権でしか返せない。ここで当たると決まってから一昨年の借りを返したい気持ちはすごくあった。個人的にこの試合にかける気持ちは強かったです」。

そう関根が振り返るのは2年前の選手権予選・準決勝の正智深谷戦。その年の昌平は初出場のインターハイで3位、針谷岳晃(磐田)、松本泰志(広島)と2人のJリーグ内定選手も決まっており、選手権での躍進も期待されていた中で正智深谷にフリーキックから記録上たった1本のシュートを決められ0ー1で敗退。現メンバーで唯一出場した関根も悔し涙を流した。

今年も総体3位、J内定選手を擁する似たような状況で迎えた正智深谷戦。藤島崇之監督はあえてこの1週間その話を口すっぱくし、「強気でいこう」と選手たちを鼓舞していたという。

この日もあの日と同じようにブロックを作られる中で「セットプレーが鍵になると思っていた」と関根。西村がゴールエリア右側でフリーキックを獲得すると「良いポイントだったので1発目で決めてやろうという気持ちでした」。原田のキックに相手が一瞬ボールウォッチャーになった隙を見逃さず、後ろから走り込むと力強く叩き込んでチームに先制点をもたらした。

後半はサイドから勢いを持ってやってくる相手に対し押し込まれたが、空中戦に強い阿部天翔とのコンビで中央はやらせず。1失点はしたものの粘り強く守ってチームの勝利に貢献した。

2年前は敗れた難敵・正智深谷を倒しての4強だが、「この勝ちで浮かれずに、しっかりこういう厳しい試合を乗り越えたことを自信にして、次の準決勝に向けて全力で調整していきたいと思います」。この2年で大きく成長したキャプテンは冷静に、熱く次の戦いを見据えた。

持ち味のスプリントで先制のきっかけを作った西村「次は点に絡めるように頑張りたい」

非公式ながら50mは6秒フラット。昌平の誇る韋駄天が先制点ゲットのきっかけを作った。この日も5バックで固めてくる相手に対し、序盤から鬼プレスをかけていくと前半21分に相手の処理が乱れたところを猛然と詰めてフリーキックを獲得。これがチームの先制点に繋がった。

技術集団・昌平にとってはやや異質だが、その存在は欠かせないものとなっている。「自分は本当にテクニックがないので、裏の抜け出しだったりでチャンスを作れればいいと思っています」。スピードに加えて、何度でもスプリントを繰り返す様は相手守備にとって脅威だろう。

そんな西村が掲げるのが「全力プレー」。「全力でやらないとチームも良い方向に持っていけない。自分が全力でやることでチームの士気も上がると思うのでそこは意識しています」「フルで出たい気持ちもあるんですけど、交代メンバーにも良い選手が揃っているので全力を出して交代するなら問題ないです」と西村。熱量のあるプレーでチームに勢いをもたらしている。

指揮官も「役割を果たしてくれた」と評したが、もちろんフォワード、ゴールへの強い気持ちもある。「やっぱり自分はフォワードなので点を取らないと意味がない。次は点に絡めるように頑張りたいです」。憧れと語るルイス・スアレスのように次はゴールでもチームを助ける。

「やっぱり勝ちたかったですね…」この経験糧にオナイウは上のステージでの活躍誓う

「後半の試合内容は本当に胸を張れる内容だったと思う。後半はみんな勇気を持って、身体を張って正智らしいサッカーができて本当に良かったというのはあるんですけど、やっぱり勝ちたかったですね……」。後半は押し込んでいただけに正智深谷のエースは敗戦を悔やんだ。

主戦場のサイドに移った後半は気迫溢れるドリブル突破でチームを鼓舞。敬愛するエデン・アザールのように何度倒されようともサイドで仕掛け続け、終盤に福田の得点をアシストし1点差と迫ったが、あと一歩及ばず。「あと少しだったので本当に悔しい」と言葉を詰まらせた。

今後の進路についてはさまざまな方面の可能性を含めまだ未定だというが、「プロへの夢は自分の人生そのものと言ってもおかしくないもの。そのためにサッカーをやっていると言っても過言じゃないし、自分はまだまだ諦めるつもりはないのでこれからも頑張っていきたいです」。

「これからはとにかく頑張っていままで応援してくれた家族もそうだし、ああやってスタンドから大きい声を出してくれたみんなの応援もそうだし、ここまで自分を成長させてくれたスタッフのためにももっと上のステージに行って、みんながあいつと関われて良かったなと思えるような人になりたいですね」。この経験をバネにネクストステージでの活躍に期待したい。

石黒登(取材・文)

試合結果

昌平 2-1 正智深谷
1(前半)0
1(後半)1