平成30年度全国高校総体 サッカーの部 2回戦 昌平 vs 青森山田

平成30年度全国高校総体・サッカーの部 2回戦。青森山田高校(青森)と対戦した埼玉第1代表の昌平高校はMF木下海斗の2発などで4ー2と逆転勝利を飾り、3回戦進出を決めた。


先に2失点する苦しい展開もチームにあったのは「やれる」という感覚。最後まで自分たちのスタイルを貫いた昌平がミドルに、連携しての崩しにと躍動して北のタレント集団を下した。

前半11分、U-18日本代表MF檀崎竜孔のシュートなどから右コーナーキックを与えると、同じくU-18代表に名を連ねる194cmの長身DF三國ケネディエブス(アビスパ福岡内定)にヘディングを叩き込まれて失点。さらにその3分後には2年生MF武田英寿にエリア右手前の位置から綺麗な弧を描くループシュートを決められて、開始13分で2点のビハインドを背負った。

早々に追う展開となった昌平だが、キーパーを強襲した前半9分のMF原田虹輝のミドルシュートなど、積極的な仕掛けでリズムを作る。18分には右サイドの木下のクロスに中でMF渋屋航平がスルーし、FW森田翔が一度切り返して狙っていったが、これはわずかに右に外れた。

前半26分には予選でもスーパーサブとして活躍したMF須藤直輝を早くも投入、さらに攻撃のギアを一段階アップさせる。直後昌平は原田を起点に木下が決定機を迎えるも、またしてもGK飯田雅浩が立ちふさがったが、それでもアディショナルタイムについに攻撃が実を結ぶ。

前半36分、青森山田の一瞬の隙を見逃さなかった木下が森田とのワンツーで一気にエリアを切り裂くと、右足でネットを揺らして1点差。後半に向け弾みをつける形で前半を折り返した。

迎えた後半も厳しいプレスを受けながらしっかりとボールを動かしていくと、昌平らしい小気味良いパス回しから同点ゴールが生まれた。12分、守備の足が止まったところに森田、木下と連動して、最後は渋屋が目の覚めるような一発を叩き込んで2ー2。さらに昌平はその2分後に自陣でボールをカットすると、スピード感のあるカウンターから一気に敵陣へ。原田の展開から須藤が左サイドで仕掛けて、中央で溢れたボールを木下が左足で流し込んで逆転した。

終盤青森山田はパワープレーを仕掛けてきたが、昌平もDF関根浩平を中心に献身的な守備で対応。後半アディショナルタイムには全員が上がった相手の勝負どころのロングスローを跳ね返すと、自陣から独走した森田が追いすがるキーパーを振り切り、無人のゴールにダメ押しとなる4点目を流し込んで勝負あり。強豪・青森山田を下し、昌平がベスト16に駒を進めた。

先に2失点するも自分たちの戦いはぶらさず、最後まで昌平らしさで押し切った。「繋ぐことをリスクと思わず、ボールを動かすことでチームとしての良さというか、動き出しの良い選手を生かすことができた」と藤島崇之監督。また「崩さないと打たないという状況からミドルでリズムを作って、相手に嫌だと思わせた瞬間にワンツーを入れたり、逆に言えばミドルがあったから1点目の木下の状況なんかは生きてきたかなと。局面で取るだけじゃなくじわじわ行けたのはうちの良さでもある。その辺りは選手が自分の判断でできていた」と手応えを語った。

積極2発で青森山田を沈めた木下 予選から5戦連続弾は「意識、イメージ」の賜物

大会の山場と見られた青森山田を沈めたのは、予選から得点を重ねる木下の積極2発だった。

まずは2点を追う前半アディショナルタイム。「前半は良い感じで何回も崩せていて、チャンスも作れていた。0ー2にされて苦しかったですけど、点は入ると思っていました」。中盤でボールを持つと、森田とのワンツーから一気に加速してエリア深くに侵入し右足で刺した。

後半16分には渋屋のゴールをお膳立て。すると逆転弾は再び自らの足で決めた。同点弾から2分後の18分、カウンターから須藤が仕掛けて溢れたところを、左足で低く抑えながらネットに運んだ。「あれは最後に溢れてきたところを打っただけ」というが、相手にとって危険なコースに入る嗅覚は本物。これで今大会は3得点、予選から5戦連続とゴールを積み重ねる。

今年は怪我で新人戦、関東予選を欠場。「去年はボランチで捌く系だった」という木下がゴールゲッターとしての嗅覚を覚醒させたのは3年生でサイドハーフにポジションを変えてから。

「離脱中はチームの試合を見ながら、自分が入ったらというのをずっと考えていた」と木下。「イメージ、意識」を研ぎ澄ますと、復帰後は得点を量産。ゴールは自信を呼び、自信はまたゴールを呼ぶ。「打ったら入るみたいな、最近そんな感じになっていて」と好調ぶりを語る。

この全国ではMF針谷岳晃(現ジュビロ磐田)やMF山下勇希(現東洋大学)と、かつてチームを牽引した先輩たちがつけた背番号7を背負う。「でも自分はそんなに何も考えてないです」と言って木下は笑ったが、やはり今年も昌平の「7」はチームを勝たせるプレーヤーだ。

離脱中の筋トレで屈強な戦士に 渋屋「この大会で取り返す」

青森山田撃破のキーマンだ。パワフルな同点弾の他、前線で戦い続けた渋屋の功績は大きい。

木下と同じく渋屋も怪我で出遅れた選手だ。昨年から主力を担い、今年はチームを引っ張る存在と期待されていた中で新人戦を1週間前に控えて無念の故障。チームが成徳深谷にベスト8で敗れた日に入院、翌日に手術を受け、そこから3ヶ月以上プレーできない日々を過ごした。

「何もしないのももったいないなと思って」。リハビリ期間に渋屋が取り組んだのが腕や体幹、胸筋など上半身を中心とした筋トレによる肉体改造。その成果もあり、退院から2ヶ月後の4月中旬には上半身が目に見えて大きく成長した。「最初の方もう重すぎて全然走れなかったので」と笑うが、いまは新しい肉体にも慣れ「個人的にも調子が良い」と手応えを語る。

新人戦、関東予選とチームを外からしか見つめられない悔しさを味わった中で「このインターハイに出られなかったら本当に自分、終わりだなと思っていた」と、この舞台にかけてきた。

そんな中で迎えた青森山田との一番。渋屋は相手のお株を奪うような力強さで、前で守備に、空中戦に躍動した。「もう最後の方は攣るかもしれないなってなったんですけど、でもそこで自分が負けたら競るやつがいない。そこは負けるっていうことは許されなかったですね」。渋屋の奮闘がボディーブローのように効いてか、後半青森山田は明らかに運動量を落とした。

後半12分には「これは自分のパターン」と木下の落としから強烈なミドルシュートを突き刺して今大会初ゴールを記録。「チーム全体でめっちゃ燃えていて、自分もチームに貢献するっていう強い気持ちがあったので、同点ゴールを決められて本当に嬉しかったです」。その後昌平は木下のこの試合2点目、森田のダメ押し弾と得点を重ねて青森山田に逆転勝ちを収めた。

怪我で出遅れた分は「この大会で取り返す」。「この身体ができるまで結構時間がかかったので、この大会は自分のいまの状況を無駄にしないで、チームとしても個人としても良い結果を残していきたいです」と渋屋。新しい武器を手に入れた昌平の司令塔がチームを高みに導く。

石黒登(取材・文)

試合結果

昌平 4-2 青森山田

1 (前半) 2
3 (後半) 0