第95回全国高校サッカー選手権大会 1回戦 立正大淞南 vs 正智深谷
第95回全国高校サッカー選手権大会が12月30日に開幕し、2年連続出場の埼玉代表・正智深谷は31日の1回戦で立正大淞南(島根)に2-1で逆転勝ちし、3度目の選手権で悲願の初勝利を飾った。2日の2回戦で第84回大会の優勝校、野洲(滋賀)を開幕戦で破った初出場の関東第一(東京B)と浦和駒場スタジアムで顔を合わせる。
初出場の第91回大会は準優勝した京都橘に1回戦でPK戦負け。会場は埼玉スタジアムだった。2度目の前回大会も初戦の2回戦で明徳義塾(高知)に0-1で屈した。浦和駒場スタジアムでの戦いだった。
そうして立正大淞南を迎えた3度目の今回は、NACK5スタジアムが舞台だ。埼玉県予選準決勝で優勝候補一番手の昌平を倒した験のいい会場でもある。
ところが前半37分、DF西谷泰賀のチェンジサイドのパスを左で受けたエースFW梅木翼が、右足ループで名手のGK戸田海斗の頭上を破る先制ミドルを打ち込んできた。守備網を崩されたわけではないが、時間帯を考えても嫌な失点だ。明徳義塾戦も前半の失点を取り返せず0-1で敗れている。今回も前半を0-1で折り返した……。
前半が終了する少し前、小島時和監督は「いつもより投入するのは早いが、後半開始から田島(帆貴)を入れてリズムを変えようと考えていた」と打ち明けた。
就任19年目のベテラン指揮官の勘働きがさえた。後半7分、FW玉城裕大の絶妙のスルーパスを預かったFW新井晴樹が左を突破し、低くて速い最終パスを送ると、切り札のMFは左足ボレーで同点ゴールを蹴り込んだ。
相手のGKが161㌢と小柄なことを見越していた田島は、「キーパーが小さいのでループを狙いました。新井とは3年間やってきて互いに感じ合うものがあった。意思の疎通ができていました」と気持ち良さそうに笑顔を振りまいた。
そういえば、あの昌平戦でも田島は後半12分に送り込まれると、1分後に決勝のヘディングシュートを突き刺していた。NACK5スタジアムはやはり相性がいいようだ。
同点劇から3分後、DF金子悠野のミドルシュートに相手DFがたまらず手を出した。ハンドの反則でPKを獲得し、主将のMF小山開喜がGKにコースを読まれながらも、ゴール左隅に決めて決勝点を奪った。
終盤には5本も立て続けに右CKを与えたが、後半に打たれたシュートはわずかに1本。センターバックの田村恭志やボランチの小山を中心に、粘り強く忠実な守りを貫いて攻撃自慢の立正大淞南に得点チャンスをつくらせなかった。特に出足の一歩で先んじ、激しいプレスと的確なカバーリングでピンチを未然に防ぎ、連係の取れた組織守備は安定感があった。
大会前、いずれも今回の代表校とテストマッチを4試合こなし、高校総体との2冠を目指す市立船橋(千葉)や桐光学園(神奈川)聖和学園(宮城)と引き分け、遠野(岩手)には敗れたが、小島監督は「プレスの厳しいチームと戦ってきたので、立正大淞南の激しいチャージにも慣れていた」としたり顔だった。
昨年と今年のチームの違いについて、前回大会を経験している小山は「3年生(のレギュラー)は経験者が多いし、2年生はこの1年ですごく成長した。それがチームの強さです」と解説してみせた。
高校総体で初のベスト4入りした当時のエースFWで今季、J2千葉からJ1浦和へ移籍したオナイウ阿道も応援に駆けつけた。
“3度目の正直”を実らせた喜びがよく伝わってきた。小島監督はいつものようにジョークと笑いを交えながら、いつまでも報道陣との応対を続けたのだ。「この初勝利はめちゃくちゃうれしいですね。(準決勝で)埼玉スタジアムに戻れるように頑張りたいし、勝利の喜びは何度でも味わいたい」と選手権での1勝の重みに浸っていた。
河野正(取材・文)