全国高校サッカー選手権埼玉県2次予選決勝 昌平 vs 浦和西
52校が頂点を目指した戦いもこれが最後。選手権予選決勝が19日に埼玉スタジアム2002で行われ、昌平高校と浦和西高校が激突した。試合は1ー1で迎えた後半31分に MF森田翔が決めたゴールが決勝弾となって昌平が2ー1で勝利。3年ぶり2回目の全国大会出場を決めた。
今年県内3冠(新人戦、関東予選、総体予選)の昌平と、新人戦ベスト8から始まり、関東予選は4強入り、そして総体予選では準優勝で30年ぶりに全国の扉を開いた浦和西。昌平は準決勝と同じスタメン、浦和西はベスト4で決勝点を奪ったFW森喜紀をワントップに、今予選初スタメンのMF楮本颯を左サイドに配置した4ー1ー4ー1の布陣この大一番に臨んだ。
今年を代表する両校の一戦は序盤から互いにチャンスを迎える。前半6分にはDF石井優輝の縦パスから左サイドバックの堀江貴大のクロスに、MF山下勇希が後ろから走り込んで合わせるもシュートはゴール右へ。浦和西は直後、GK斉藤大伽のロングボールをMF田中隆太郎が競ると、スタメン起用の楮本がスピードに乗ったドリブルからエリア内に侵入。最後はMF高橋岬生が狙っていったが、昌平GK緑川光希がしっかりと防いでゴールは許さない。
そういった中で徐々に昌平の時間が増えていくが、浦和西もアンカーに入った田中がゲームコントロールをしながらディフェンスラインの4枚と中盤の4枚がブロックを作って相手に自由は与えず。「今日は絶対に仕事はさせるな!」(市原雄心監督)と厳命を受けていた相手のエース・佐相壱明には福世航大、野口智弘の両センターバックがしっかりと対応した。
前半17分には昌平が波状攻撃。この日高い位置を取った堀江のクロスが弾かれると、相手のクリアしようとしたボールをスライディングでカットした山下が個人技から堀江とのワンツーでエリア内へ。しかし浦和西は野口が足を伸ばしてカットしてシュートは打たせず。その後も昌平ペースで試合は展開するが、後ろを2ラインでしっかりと固めてきた浦和西に対してなかなかボールを前に進めることができない。24分には森田、佐相とつないで中にカットインした右サイドバックの塩野碧斗が狙ったが、シュートはクロスバーをわずかにかすめた。
耐える時間が続いた浦和西だが、前半26分には右サイドでMF遠藤寛紀が起点となって狭いエリアを崩しにいくと、MF加藤淳志の縦パスから高橋がフィニッシュまで持っていく。33分には最大のチャンス。中盤でセカンドボールを拾った森が相手のディフェンスラインとキーパーの間に絶妙なボールを入れると、一瞬のスピードでディフェンスを振り切った遠藤が抜け出してキーパーと一対一に。それでも「ここでやられたらゲーム自体が厳しくなる。絶対に守るという強い気持ちだった」という昌平の守護神・緑川が距離を詰めながら相手の動きにしっかりついていってガッチリとキャッチしてピンチを切り抜け、0ー0のままゲームを折り返した。
後半はラインの位置を修正したという浦和西が前線からプレスをかけながら攻勢に出ていく。7分にはDF田村駿弥のロングスローの2次攻撃から楮本の左クロスに高橋がシュート。さらにその3分後には今度は右サイドで再び田村のロングスローを野口が頭ですらしたボールを遠藤がワントラップから右足で狙っていったが、これは惜しくもゴール右に外れた。
すると直後に昌平が相手のお株を奪うセットプレーから先制に成功する。後半13分、ゴール右斜め前の位置でフリーキックを獲得すると、MF原田虹輝が入れたクロスに「原田からはいつもいいボールがくる。あとは自分がマークを外して決める自信はあったので狙い通り」と語るDF関根浩平がタイミングよく走り込んで2戦連発のヘディングをネットに叩き込んだ。
先制を許した浦和西は後半15分にMF唐牛七海(←遠藤)、21分にFW朝見海斗(←森)、24分にMF石山凌太郎(←楮本)と攻撃的なカードを次々と投入。するとこのままではゲームは終わらない。30分、交代で入った唐牛が重心の低い独特なリズムのドリブルからエリア内にするすると入っていくと、こぼれ球に高橋が右足を豪快に振り抜いた。緑川もこのボールに反応したが、その左手を弾く形でゴール右上隅に突き刺して土壇場で1ー1の同点とする。
俄然浦和西に勢いが生まれてきそうな中で、しかしその流れを断ち切ったのは昌平の「個」。同点ゴールから1分後の後半31分、塩野のスローインをMF渋屋航平が落とすと、森田が右サイドを突進。一度佐相に預けて再び呼び込むと、左足でクッと中に切れ込むトラップで一枚剥がして、さらに相手のスライディングもかわして左足で冷静にゴールに流し込んだ。
「前半はボールに全然関われなくて。後半は仲間と話し合って、もっと中でプレーしようと思った」と森田。ゴール後は立ち上がれず、そのまま交代とギリギリの状態だったが、「なかなかチャンスのない中でこの一本にかけてしっかりと決められました」。今大会では準々決勝の埼玉栄高校戦からスタメンに名を連ね、準決勝の武南高校戦では2ゴールで「自分にちょっと自信がついた」という新エース候補が自信をそのままに2試合連続弾を決めてみせた。
再び追う展開となった浦和西は終盤、田村駿のフリーキックを福世が高い打点で折り返すと、失点後に投入されたMF田村優人が飛び込むもこれはサイドネットに。その後も最後まで攻める姿勢を見せたが、同点ゴールを挙げることはできず。昌平が3年ぶり2回目の優勝を決めるとともに、1992年に武南が記録して以来の県内4冠を達成して今年の選手権は幕を閉じた。
日本一を狙った今年のインターハイで昌平は初戦となった2回戦で敗退と悔しい想いを味わった。その日のうちにミーティングを行い、「選手権を取るぞ!」と再スタートを切った。
増えたのは選択肢の数だ。「インターハイでは前からボールをつなぎにかかりすぎていた」と藤島崇之監督。ビルドアップはチームの武器だが、それができない場面でも原田、古川勇輝のボランチコンビがドリブルで前に運ぶシーンや佐相への一発のパスなど、チームは一本槍になりすぎることなく常に様々な選択肢を持ちながらプレーできており、決勝点となった森田の仕掛けもそれが生きた形。夏の経験を糧にチームはここにきてさらに力をつけてきている。
全国での借りは全国で返す。「やっとまたスタートラインに立てた。借りを返す時がきたな」と緑川。予選では2ゴールと納得のいっていないという佐相は全国でも「点にこだわって」いく。インターハイで人一倍悔しい想いを味わった山下は「最後自分たちが笑って終われるように。日本一を目指せるチームに残りの期間でさらに変わって、強い昌平を、もっと昌平サッカーのいいところを全国の人に見てもらいたい」と語り、キャプテンの石井は「予選のように目の前の一試合一試合にすべてをかける気持ちで戦っていきたい」と気を引き締めた。
一方、浦和西・市原監督は「プラン通りだったので2失点目が悔やまれる。つかみかかったのに離れていってしまった。選手たちは頑張ってくれた。勝たせてあげたかった」。
44年ぶりの選手権出場とはならなかったが、今年は30年ぶりのインターハイ出場に加えて、34年ぶりの選手権予選ファイナリストと数々の歴史を塗り替えた。指揮官が赴任してUWFCのロゴを打ち出してから今年で10年目。節目の1年は西高として新たな時代を感じさせる1年となった。来年は森や唐牛、石山らが中心となって、再びこの舞台に帰ってくる。
石黒登(取材・文)
試合結果
昌平 2-1 浦和西
0(前半)0
2(後半)1