全国高校サッカー選手権埼玉県2次予選準々決勝 昌平 vs 埼玉栄
選手権予選準々決勝のうち2試合が4日、浦和駒場スタジアムで行われた。第1試合は今年県内3冠の昌平高校と埼玉栄高校が対戦。試合はMF渋屋航平の2ゴールを含む3ー0と快勝した昌平が危なげなく準決勝進出を果たした。昌平の4強入りは5年連続5度目。
ゲームは早々に動いた。前半7分、DF塩野碧斗のスローインから抜け出したFW佐相壱明が「森田(翔)がいい位置にいた。相手DFの股をしっかりと狙って」スルーパスを供給。この日スタメン起用の2年生FWがキーパーと重なりながらしっかりとボールを残すと、逆サイドからフリーでスペースに走りこんだ渋屋が落ち着いて右足で流し込んで先制した。
ゴール後は昌平ペースで試合は展開する。得点を挙げた塩野のサイドから何度かチャンスを作ると、前半16分には山下のボール奪取からMF古川勇輝がシュート。これはキーパーの正面だったが、ボールをポゼッションしながら相手を押し込んでいった。また、守備においても山下、渋屋の2人が前線から激しく追い立てて、正確なビルドアップを許さない。
埼玉栄はMF石橋彪のドリブル突破、2回戦の朝霞西高校戦で2ゴールを挙げたFW新井亮士郎へのロングボールでゴール前に迫ろうとするも、「相手の起点の8番(MF福島健太)、あとは10番(石橋)のドリブルは警戒していた」(石井優輝主将)という昌平は石井、関根浩平のセンターバックコンビがしっかり対応。相手にシュートシーンを作らせなかった。
すると前半の最後に追加点が生まれる。40分、MF原田虹輝のフリーキックのこぼれ球を山下がヘディング。関根が突っ込むとこれが結果的にそのままゴールに吸い込まれた。さらに山下は終了間際にGK緑川光希のキックを受けて前を向くと、古川、佐相とつないで強烈なシュート。キーパーの好守に防がれたものの、昌平が2ー0とリードして前半を折り返した。
後半埼玉栄は前半の課題であった後ろからのビルドアップに関して、福島や石橋が受けにいく形から得意のサイドアタックで活路を見出そうとする。しかし昌平も3ラインをコンパクトに保ちながらこれに対抗、各選手がゾーンでしっかり守り決定的なチャンスは作らせない。
その後も昌平がボールを保持しながら試合は後半15分を経過。17分には波状攻撃から山下のグラウンダーのクロスに佐相が飛び込むも「足が下に入って」しまいボールはクロスバーに当たって追加点とはならず。しかしその直後に試合を決定づける3点目が決まった。
後半21分、中盤で原田がするすると持ち上がっていくと、エリア右に入った古川にパスを通す。古川は鋭い切り返しで相手守備2枚を剥がすとグラウンダーのクロス。前線の佐相がディフェンスを引き連れて空いたコースに入った先制点の渋屋がダイレクトで合わせた。
「最近カットインからのシュートの練習をしていて、あのコースは結構練習していた」。直前でハーフバウンドする難しいボールだったが、コンパクトに右足を振り抜いて逆のゴールネットに突き刺した。キーパーは見ていなかったというものの、「当たった感じはミートしたので入ったなと」蹴った瞬間にゴールを確信。そのまま身体を翻すや喜びを爆発させた。
なんとか1点を返したい埼玉栄は中盤でのインターセプトからのクロスに直前に投入されたFW大須賀宣人が飛び込むもあと一歩が届かない。その後も石橋や福島にボールを集めながらサイド突破からゴールを狙ったが、最後まで石井、関根、緑川を中心とした固い守備を攻略することができず。4冠を目指す昌平が最後まで失点0に抑え切ってベスト4を決めた。
「今日はディフェンスが安定してできたこと、取れる状況を全体の流れの中で作れたのは良かった」と昌平・藤島崇之監督。守備陣を統率した石井主将は「(3回戦の)国際学院戦ではセットプレーから取られてしまった。やっぱりディフェンスとしては1点取られたら負け同然だと思っている。今日はしっかりゼロで終えられたということはプラス」と振り返った。
またこの日2得点の渋屋は「埼スタも含めて天然芝は調子がいい。天然芝には何かあるんじゃないかなと思います」。山下がトップ下に入った夏以降は現在の左サイドハーフにポジションを変えたが、持ち前の足元の技術でDF堀江貴大の上がりを引き出しつつ、堀江の上がりをデコイに自らがカットインからシュートに持ち込むなど、左サイドで好連携を披露した。
奇しくも左サイドからのカットイン、そして10番の背番号は昌平OBで現在はサンフレッチェ広島に在籍する憧れの松本泰志と重なる。昨年のチームは松本の中に切れ込んでの得点力というのも大きな売りだった。タイプこそ違うかもしれないが、同じくエースナンバー10を背負うアタッカーのゴールが3年ぶりの選手権出場に向けてひとつの鍵となってきそうだ。
一方、埼玉栄は試合3日前に主将のDF渡邉宰が負傷。「前半は相手のプレッシャーもあってセンターバックがつなぐ場面で迷ってしまった」と稲垣忠司監督。後半は中盤が受けにいくという形で修正したが、「チームとしてそういう気づきを共有できなかった」。今年は石橋、新井をはじめ、この日怪我から復帰しシュート3本と気を吐いたMF塚目海渡など、魅力的なアタッカーが揃っていただけに「正直点が取れなかったことが悔しい」と静かに悔やんだ。
(取材・文)石黒登
(写真)椛沢佑一
試合結果
昌平 3-0 埼玉栄
2(前半)0
1(後半)0