全国高校サッカー選手権埼玉県2次予選準々決勝 武南 vs 西武台

4日に浦和駒場スタジアムで行われた準々決勝。第2試合は武南高校と西武台高校が対戦した。試合は武南が先行するも、後半早々に西武台が同点として延長、PK戦に突入する。PKでは直前に投入されたGK須賀貴大の活躍もあって武南が4年ぶりの準決勝進出を決めた。

序盤は一進一退の展開。互いにロングボールを多用しながら、得意のサイド攻撃のチャンスをうかがう。前半15分過ぎからは西武台がMF板橋涼太、宮田輝の一瞬のスピードや前線からの早いプレッシャーから攻める回数を増やしていった、そんな時間帯にゲームが動いた。

先制したのは武南だった。前半25分、左サイドで相手のクリアを拾ったMF永野駿から同サイドにいたFW金子海斗にボールが渡ると、背番号10は鋭い切り返しから右足でクロス。MF長谷川魁哉は最初ファーへのシュートをイメージしていたというが、「本当にいいボールがきたので早めにジャンプした」。滞空時間の長いヘディングで逆サイドのネットに突き刺した。

もともとはFWだが、スピードを買われて今季途中にサイドにポジションを変えた長谷川。ダイアゴナルに走り込むと、相手DFの視界の後ろからエリア内にするすると侵入して得意の頭で決めた。「クロスも最初の頃は練習でディフェンダーを置かない中でも合わなかったり。そこから1年かけて徐々に精度が上がってきた」。1年の成果をこの大舞台で発揮した。

1点を追いかける西武台は前半32分にFW宇津木陸を投入。早くも最初のカードを切るとその宇津木が抜け出しやワンツーから前線に勢いをもたらしていく。終了間際の38分には宇津木のクロスからMF山口賢人が頭で合わせるも、これは武南GK深澤颯斗が正面でしっかりとキャッチしゴールとはならず。そのまま1ー0と武南がリードした状態で試合は折り返した。

今季リーグ戦では0ー5、0ー4で西武台に敗戦していた武南。ハーフタイムには「正直リードで戻ってきてくれるとは思わなかった。嬉しい誤算を自分たちの勇気にして後半も戦ってほしい」と伝えたと大山照人監督。固さのあったメンバーたちに言葉をかけながらも、再び「一致団結」し「チャレンジャーの気持ち」を持って挑むことを確認して後半に入った。

しかし前半のうちに落ち着きを取り戻しつつあった西武台が後半早々にゲームを振り出しに戻す。再びスコアが動いたのは開始53秒、相手DFのクリアが後方に流れたところに山口が飛び出すと、ドリブルで運んでエリア手前から強烈なミドルシュートを叩き込んで同点とした。

するとこの1点を機に西武台が勢いに乗る。山口、宇津木を起点にリズムを作りながら、次々とサイドから攻撃を展開。それでも武南も「(西武台は)クロスボールを奥の深いところまで蹴ってくる。その対策はしっかりとしてきた」(DF羽田蓮央)「こうなることはわかっていた。ディフェンス陣と声をかけあって、マークを確認しながら耐えるというのは話していた」(深澤)という守備陣がしっかり対応。がっぷり四つで組み合って追加点は許さない。

後半34分には武南がチャンス。カウンターからMF桜井潤人がドリブルで運んで左サイドに流れた長谷川へ預けると、自陣から一気にゴール前に向けて走り込む。長谷川の折り返しを細かいタッチで左足に持ち替えながらシュートを放ったが、ボールは相手DFに防がれた。

その1分後には西武台が決定機。後半から出場のMF小林一貴の粘りから山口がエリア前にラストパス。宇津木は1人を剥がして狙っていったが、これは武南の守護神・深澤がしっかりとキャッチする。後半は武南の2本に対しシュート8本を浴びせるなど攻めた西武台だったが、勝ち越しゴールを奪うことができず。強豪私学同士の一戦は延長戦にもつれ込んだ。

延長も西武台がボールを保持する時間が長くなる中で、武南が最後まで粘りを見せてゴールは割らせない。延長後半9分に武南はPK戦を見据えて3年生GK須賀貴大を投入。アディショナルタイムには混戦から西武台が決定的な場面を迎える中で、代わって入ったばかりの須賀が勇気のある飛び出しを見せてファインセーブ。そしてついに試合はPK戦に突入する。

両校共に2人目まで決めての3本目は互いに失敗。さらに先行の西武台は4人目のキッカーが外し、逆に武南は成功して運命の5人目へ。キッカーに対し正対した武南GK須賀は相手の助走の角度、軸足の動きからキックの方向を読み切ってしっかりとセーブ。厳しい戦いながらPK戦を3ー2と制した武南が2006年以来11年ぶりの頂点へ向けまた一歩前進した。

この日PK専用キーパーとして投入された須賀。6月のインターハイ予選準々決勝の対浦和学院高校戦では1本もセーブできずに6ー7で破れて悔しい想いを味わった。

「周りの人や先生からもっと堂々としていていいと。PKに入る瞬間に(身体が)小さく見えていたと言われた。プレー以前に気持ちの問題であの時は負けていたと思う」。

今夏は猛特訓を重ね、PKにおけるタイミングやコツがつかめるようになったという。そして迎えたこの大舞台での起用にも、堂々とした姿勢でピッチに入っていった須賀。プレッシャーのかかる場面にも泰然自若と挑む姿は相手にとって相当に大きなものに映ったはずだ。

準決勝は目下県内3冠の昌平高校に決まった。今年はリーグ戦で1敗、新人戦でも破れている。「相手の方が格上なのはわかっている。今日みたいにみんなで身体を張って、点を取ってでもPKでも勝てればいい」と長谷川。須賀は「PKになる前に決着をつけるのが理想だが、PKまでいけば勝てる気はある。自信を持って臨みたいと思います」と意気込んだ。

今年の世代は「史上最弱」と揶揄されたこともある。「絶対にそういう声は跳ね返したいですね」というのは主将の岡野颯だ。西武台に続き、インターハイ出場校の昌平撃破となればそんなことをいう人は誰もいなくなるはず。勝って逆風をねじ伏せることはできるか。

石黒登(取材・文)
椛沢佑一(写真)

試合結果

武南 1(3PK2)1 西武台

1(前半)0
0(後半)1
0(延前)0
0(延後)0
3(PK)2