【Jrユース指導者インタビューリレー】創設20周年、初の関東リーグに挑む/クラブ与野・中森翔太監督インタビュー
今年は新型コロナによる活動制限などもあった中で、ジュニアユースおいても少しずつ「サッカーのある日常」が戻ってきている。今後もより一層の注意を払いながらではあるものの、リーグ戦も再開されてきている中で、ジュニアユースの指導者の方々によるインタビューリレーを実施。こんな状況だからこそ、改めて各チームが大切にしていることなどを訊いた。第4回は今年創設20周年を迎えたクラブ与野の中森翔太監督にインタビュー。新たに取り組み始めた「キャリアトレーニング」の話や初の関東リーグ昇格を決めた昨年の戦いなどを振り返ってもらった。(※このインタビューは各クラブご協力のもと、電話取材にて行われたものです)
昨年度から始まった「キャリアトレーニング」で進路選択も変化
―チームの特徴、哲学などを教えてください。
特にサッカーの形は決めておらず、毎年毎年選手が変わるので、その学年にいる「選手たちの特徴が出るようなサッカー」をするというところが特徴です。あとは「サッカーだけでなく、勉強面であったり、人間的なところの育成」にも力を入れてやっています。
勉強面ではクラブのトレーニング施設に学習塾を併設していて、そこに埼玉大学の教育学部に在籍している学生の子たちに講師として来てもらっています。練習が午前中だったら午後に勉強をするとか、その逆もそうですし、試合から帰ってきて塾でちょっと勉強をして帰るだとか、そんな形で時間を有効に使うためにはやっぱり自分たちで場所を持っていないと、なかなかそれは実現できません。強制ではないので家が近い子などに利用してもらっていますが、土日は練習がてらに来られるので結構多くの子たちに利用してもらっています。
―人間育成については具体的にはどういった取り組みをやっているのでしょうか?
2019年度からやり始めた取り組みで、月に1回「キャリアトレーニング」をやっています。自分の将来の選択肢を広げようというところで、提携しているコンサル会社さんから講師の方を派遣してもらい、職業の勉強であったり、自分のやりたい仕事とそれに対しての選択肢がどれくらいあるのか、という話をしてもらっています。本当に将来の就職活動じゃないですけど、やっぱりそこがちょっといまの高校生、大学生を見ていると遅いなというのがあって、それを中学生のうちから習慣づけるというところで、月1回そういう形で取り組んでいます。
基本的には中3のみですが、合宿の時は1、2年生も参加したりもします。そのコンサルの方も就職支援であったり、大学生の面接を多くされている方なので現状をしっかり理解した上でいまの中学生に触れてくれている。だから高校の進路選択もすごく変わったと思います。
どうしてもサッカークラブなので「ここでサッカーがやりたい」というのもあるんですけど、それとプラスαで「将来こういう職業に就きたいのでここに行きます」「これを学びたいのでここに行きます」といった会話が生まれたのはやっぱり違いが出ているなというのはありますね。
フィジカル練で「良い疲れ方」をする身体に。2019年は後期リーグ負けなし
―練習の肝としている「フィジカルトレーニング」について教えてください。
いまは中1が毎週1回、中2が月に3回から4回、中3が月に1回やっています。中3は一番公式戦が多い年代でもあるので、試合の負荷でどんどん身体が勝手に太くなっていく。中1、中2はそのベースを作ってあげて、しっかり正確なところに疲労が溜まると言ったら変ですが、「身体を正確に動かすことができてくると良い疲れ方をする」というところでやっています。
―具体的にはどういうことをやっているのでしょうか?
基本的に中学校1年生の時は柔軟とステップですね。まだそんなに身体もできあがってないので、基礎運動能力のところを重点的にやっていて、特にやっぱり柔軟のところがすごく大きいです。どうしても小学校6年生はいろいろな大会があるので、すごく身体的に追い込まれてしまって、入ってきた時にはみんなボロボロなんですよ。コートの大きさもボールも重さも変わったタイミングなのでそれもあると思いますが、入ってきてからすごくやっぱり怪我が多い。それなので中1の時はしっかり柔軟と怪我の予防、基礎運動能力というところでやります。
中2はある程度そこの柔軟ができあがってくるので、少しずつ負荷を上げていきます。ただそこも重さなどは使わずに全部自分たちの体重、自重での負荷で行います。中3はもう2年間取り組んである程度形ができてきているので、試合に出ている子、出ていない子でメニューや負荷のかけ方は変わってくるんですけど、柔軟系のトレーニングが多いかもしれないですね。柔軟をやりながらトレーニングをするようなイメージです。それも中学校3年生でも筋肉痛はしっかりその次の日には出るみたいなので、意外と結構キツいのはキツいと思います(笑)。
長期休みにはフィジカル合宿のような形で、そこでまた一気に取り組んでやっています。リーグ戦前期で出たフィジカル的な課題を夏3日間くらいで取り組んで後期を迎えるという形では、2018年からその強化合宿を始めて、2019年の後期リーグ戦は負けなしだったので効果は出ているのかなと思います。(2017年が後期4敗だったのに対し、2018年も1敗のみ)。
特にやっぱり夏場だとか、暑い時に足がつる子はほとんどいないですね。足がつって交代というのは2019年度は「0」だったと思います。無理に走らせたりはせず、ランニング系のトレーニングも全部そのフィジカルトレーニングの中に組み込まれている。僕たちが無理やり負荷をかけたりということは一切していないので、疲労も溜まりづらくなっていると思います。
今年で創設20年。県リーグを制し、初の関東リーグに挑む
―初の関東昇格を決めた昨年を振り返っていただけますか。
3年連続で勝ち点1差の2位で、もう優勝しかないというプレッシャーもあった中で、選手たちがこれまでの3年間とは関係なく「自分たちの代で優勝したい」という想いは強く持ってやってくれていたので、そこはすごく大きかったかなと思いますね。
―昨年もやはり最終節までもつれる混戦でした。
残り3節の時点で2位だった中で、1位との直接対決があってそこでひっくり返したんです。残り2試合も勝ち点2差で、うちも最後の3試合はすべて1−0だったので、もう本当に冷や冷やしながら最後までどうなるかわからないというようなリーグ戦でした。
―3年連続で悔しい想いをした中で最後優勝に繋がったのはどのあたりだったのでしょうか?
いままでの学年に比べると守備の意識が全体ですごく強くて、やっぱり失点しなかったというところは大きいかなと思います(失点は18試合でわずかに4)。失点もオウンゴールひとつと、あとはセットプレーの3つだけで、流れの中で取られた失点というのは0でした。そこは本当に子供たちがよく頑張ってくれたかなというのは思います。
―今年は20周年の記念すべき年を関東リーグで迎えます。
本当に未知の世界ですが、いままでやってきたところは変えるつもりはないので、うちらしくやっていけたらいいかなと思っています。無理にやり方を崩してまで残留を目指す(今季は昇格、降格はなしとなった)というよりは、本当に子供たちの成長に、一番比重を置かなければいけないところに、ちゃんと比重を置けたらと思います。負けることもあると思いますが、それも自分たちの成長にとっては必要なこと。そういう考え方でいけたらいいかなとは思っています。
今年の代は思っていた以上にやんちゃな子たちが多くて、上手くいかない時もすごく多かったんですけど、まとまったら力を発揮できるというのはある。上手な子が多いので、そこは上手く選手たちの特徴を発揮させてあげられればいいかなと思います。
―結果も大事だが、成長が一番。
クラブとしてはもちろんこれからもずっと長く続けていく上では成績も大事になってくるとは思うんですけど、「子供たちのこのU-15の年代というのはやっぱりそれぞれ1回しか来ない」ので、そこにクラブの縛りというか、そちらに比重を置くというのはあまり考え方としては僕らはない。「子供たちの成長に対して一番必要なこと」を与えていけたらいいかなと思っています。
J下部注目のシュートストッパー、真中裕都
―今年の一押し選手を教えてください。
キーパーの真中裕都ですかね。いま身長が182cmくらいあって、いろいろなJクラブからも練習参加の打診を頂いています。
去年から試合に出ていたんですけど、(県1部や上のカテゴリで)2年生でひとつ上の学年で出られるキーパーは全国を見てもそうは多くない。そういうところでいうとすごく可能性はある選手じゃないかなと思っています。U-14選手権のベスト16もGRANDEさんとやった時にPK2本を止めていて、その前に参入戦でもPKを2本止めているのでPKも強いです。
―彼の特長は?
シュートストップはすごいと思います。練習でもディフェンスがいないような状態でのシュート練習だとほとんど入らないです。そこにディフェンスが入ってちょっとブラインドがあったり、リフレクションがあったりすると、もちろん反応が遅れたりするんですけど、練習から彼がゴールに立ってくれているだけでフィールドの子たちもやっぱりシュートを打つのにもしっかり打たないと入らないので、攻撃陣にも良い影響が出ています。身体能力が高くて、ジャンプ力や足もめちゃくちゃ速いですし、遠投も飛んでそこから伸びていきますからね。
石黒登(取材・文)