【Jrユース指導者インタビューリレー】生きた目を引き出すための空気づくり/クマガヤSC 荻野熱男監督インタビュー

緊急事態宣言も解除され、ジュニアユースにおいても少しずつではあるが「サッカーのある日常」が戻ってきつつある。今後も一層の注意を払いながらではあるものの、より本格的な再開、リーグ戦の開幕も待たれる中で、クラブチームの指導者の方々によるインタビューリレーを実施。こんな状況だからこそ、改めて各チームが大切にしていることなどを訊いた。第3回は今年街クラブJリーガー輩出ランキングで1位になったクマガヤSC・荻野熱男監督にインタビュー。高校年代以降で大きな伸び率を見せる同クラブの育成などについて話をうかがった。(※このインタビューは各クラブご協力のもと、電話取材にて行われたものです)

―指導において重視していることを教えてください。

やはり将来的に伸びてもらえるよう、この中学年代で大切な心肺機能系やフィジカル的なところもやりますし、テクニックも重要ですし、ボディコンタクトやボールコントロールはもちろん、アジリティなども含めて、必要とされているものはいろいろとやりますね。その中でうちは運動量が多いサッカーだと思うので、走ることは結構やらせています。

また、指導においては個人個人によっても特徴は違うので、「その子の特長を伸ばしていく」というのが考えです。もちろん欠点もそれなりに平らにしていくような形にはなるのですが、得意なところについては失敗を恐れずにどんどんやらせています。

―フィジカル的な強さもクマガヤSCの特徴のひとつだと思います。

それはやはり3学年ともに大切にしています。身体が成長する過程でオーバートレーニングにならないようにしながら、走ることはもちろん、栄養の部分でも講師を招いて1年を通して何が必要かというのはやっています。その中でいつも一緒にいると気づかないのですが、「最初と比べると大きくなったね」「クマガヤの子はしっかり厚いね」と言っていただいています。多少個人差はありますが、全体的に「強い身体を作っていく」のは昔から変わらないですね。

大事にしているのは“空気づくり”。「いかに生きた時間を重ねるか」

そういった中でもちろんトレーニングについても常にスタッフ陣も勉強していっていますが、結局このトレーニングをやったら強くなる、そんなものはなかなかない。トレーニングの質や何をやるか、週末のゲームで足らないところをトレーニングに落とし込むという作業はもちろんやっているんですけども、やっぱりその中で大事に思っているのはその時間の質というか、「子供たちが一番吸収しやすいような空気」。その『空気作り』を一番大事にしています。

どのチームもトレーニングの内容や時間はそんなには変わらない。そこから差を出していくためにはその与えられた内容、時間の中でその空気をいかにトレーニングが終わった後、今日もしっかり「やった感」が残る時間にすることが大事。ダラっとやってダラっと時間が過ぎて今日も終わりではなく、「やったな」という感覚を毎回積み重ねていくということは考えています。

そこに関しては子供たちの顔色やその時の空気を見ながら、締めるところと緩めるところは区別してやっています。また、集団というのは先頭に立つ人間がどちらの方向を向くかによって空気が変わる。キャプテンシーを発揮していたり、グループを引っ張っていく力のある子に対しては、もうあらかじめ「お前らの向く方向でチームも変わってくるよ」ということは伝えていますね。

「いかに“生きた時間”を重ねるか」「“子供の目が生きている時間”をどれだけ過ごしたか」。そのためには子供の雰囲気がわかる距離感にいないとダメだと思うし、それは大切にしています。

街クラブJ輩出ランキングで1位に。「厳しくやる中でタフになっていく」

昨年は日本代表にも選出された松本泰志(写真右)。彼を含め、今年は12人のクマガヤ出身選手がJでプレーしている。

―今季Jリーグでプレーする卒業生は11人(7月1日より津久井匠海が横浜F・マリノスユースからトップチームに昇格となり、12名となった)となり、関東の街クラブではトップの輩出チームとなりました。この結果はクマガヤのどういった取り組みが繋がっているのでしょうか。

もちろん「プロでやりたい」という気持ちを持っている子が入ってきているというのは大きい。それこそ江南南(サッカー少年団)からであれば4種年代から「ここでプロになる!」という強い想いを持ちながら、続けて来てくれているというのはやはり一番大きいと思います。

あとは「厳しくやっている中でタフになっていく」部分もあるのかなと思う。それが良いか悪いかは別として、うちでは多少選手にもストレスをかける部分もあるのですが、それをかけないとタフにならないと思っていて、そこも成長に繋がっているのかなと思います。

また、ほかのチームとは逆なのかもしれないですけども、やっぱりどんな試合も勝ちにこだわらせる。「負けて良い試合はたとえ練習試合でもない」というのは常々言っていて、子供たちにも「ここに来たらスイッチを入れ替えるんだよ」という空気を作りながらやっています。

―その「厳しさ」「勝負へのこだわり」はやはり常に求めている部分ですか?

やはり試合の中でもやらせるために、運動量や球際のところも練習から激しさを求めますね。その厳しさの中でテクニックが磨かれる。プレスがかからないところだと誰でもできるので、トレーニングのディフェンスの部分でも厳しく行かせてというのは徹底的にやっています。

「勝負へのこだわり」についてもボールを繋げたからいいというのではなく、「勝つためにボールを繋げる」ということ。例えばこの3人目の動き出しがというようなものも、でもそれは勝利をするための3人目の動き出しであって、だから勝つための動き出しをしなければいけない。もちろん細々な動きやその狙いは伝えますが、第一に優先順位は勝つことを意識させることです。

うちのスローガンというか合言葉で、何をするにも、最後に「勝つための準備」という言葉を3学年全部でつけているんです。すべてが勝つための準備。そこがうちの一番ベースにある。

また、先程も言ったようにうちでは子供が「生きた目」をしているかというのを一番大事にしています。そしてその目の輝きを出すためのその厳しさでもある。個人によってどこで伸びるかというのはありますが、それを持っていないと結局どこで伸びるもない。「自分はこうなりたいんだ」という強い想いがなければと多分全員が全員プロにはなっていないと思います。

―そういったクマガヤで身につけた「目の輝き」を持ちながら、その後も成長していったことがプロという結果に繋がっているんでしょうね。

そうだと思います。もちろん技術の徹底や勝ちへのこだわり、目の輝きというのは江南南からの延長としてあるところ。自分も小学校の時に松本(ヨウ佑/江南南SS総監督。日本代表FW原口元気など、これまで何人ものJリーガーを育て上げた名将)先生に教わった中で「松本イズム」というのも確実に息づいていると思います。

「点を取る!」という気持ちに溢れていたU-18日本代表FW津久井匠海

クマガヤ時代から抜群の存在感を放っていた津久井匠海。

―荻野監督が前回トップチームを担当された3年前は現在U-18日本代表でプレーする津久井匠海くんの代でした。

津久井の場合は波はありましたけど、「こいつはちょっとなかなか見ない子だな」というのはありましたね。まず「絶対に俺はプロにしかならない」と言っていた。その気持ちの部分が特に強い子で、それに対して決して妥協しない子でした。トレーニングにおいてももちろんそうですし、その強度を落とさなかった。また、非常に勉強もできる子でした。考えていることもちゃんとしっかり先を見据えてやっていて、チームを引っ張っていってくれた子でしたね。

技術的には荒削りな感じでしたけども「点を取りたいんだ!」という気持ちの強い子で、昔はいたかもしれないけど、いまは抑えられてしまって日本人にはなかなか出てこないタイプの選手。もちろんチーム全体を考えた場合にセーブすることもしなければいけないところもあるんですけども、津久井の場合は「これはちょっと違うな」というのがあったのでやらせました。途中壁に当たりながら、彼も彼なりにいろいろなことを考えて、それを打開していったんだと思います。なるべくして現在のような評価をされる選手になっているのかなと思いますね。

そういった中で先程も言ったようにやはり本人の気持ちが一番大きかったと思います。あれがなければあそこまで絶対に行かなかっただろうし、ボールを失った時ももう悔しくて本気で取りに行っていましたから。テクニックにも長けているんですけども、ドリブルもただのテクニカルなドリブルではなく、身体もしっかりと使いながらいまも「重戦車」と言われるようなまさに気持ちを押し出したドリブルで、絶対にゴールまで行くという気持ちの強い子でしたね。

津久井だけじゃない。ユース年代で活躍するクマガヤの注目株たち

昨年はプレミア制覇、選手権準優勝に貢献した内田陽介。

―OBでは津久井くん以外にも今年もユース年代に注目株がたくさんいます。

アントラーズに行った竹間(永和)もそうですし、去年から青森山田のサイドバックをやっている内田(陽介)も今年はどこまでやってくれるのかなというのもある。埼玉県内では西武台で去年から試合に出させてもらっている伊佐山(縁心)や栗田(海飛)もそうですね。ユース年代はその年だけではなく、どの学年も楽しみにしています。

新人戦準V西武台高の主軸を担う伊佐山縁心と栗田海飛。

―伊佐山くんや栗田くんは昨年西武台の5年ぶりの全国大会出場などにも貢献しました。彼らは中学年代ではどういった選手だったんでしょうか?

伊佐山は男っぷりが本当に良い男で、男気があるというんですかね。兄さん肌というか。人間的に好きになるタイプの選手。自分も何年も見ていますけど、なかなかいない感じの子ですよ。

栗田の場合は技術的にも高い子だったんですけども、中学の時は残念ながら怪我が多かったんです。彼はとにかくしっかりとしたボールを蹴れる。津久井もそうなんですけども、思ったところにいろいろなキックで、しっかりとしたボールを蹴れるというのはやはり良い選手を考えた時に非常に重要なウエイトを占めるものだと思います。

アントラーズの竹間はレフティなんですけど、ここ何年かでなかなかいないキックの持ち主で、いろいろな種類の質のボールが蹴れて、キックに関しては素晴らしいものがありましたね。

「全体的なレベルは高い」。アタッカー2人は注目選手

―去年は悔しい結果になってしまい、今年は久々の県リーグからということになりました。

いまの23歳の代で茂木力也(愛媛FC)がキャプテンをやっていた代が県リーグで優勝して、その次の年は庄司朋乃也(セレッソ大阪)や小島雅也(ザスパクサツ群馬)など、結構Jリーガーが出ているんですけど(ほかにもこの代は北海道コンサドーレ札幌の金子拓郎、ツエーゲン金沢の加藤陸次樹、グルージャ盛岡の原山海里といった選手を輩出している)、この代が参入戦で上げてからずっと関東リーグでやらせてもらっていたのでそれ以来ですね。

こんな時期なのでどこから始まるかもまだはっきりとはわからないですけども、もちろんいまできることを目一杯全力でやって、再開の日を迎えて、一戦一戦勝ち点3を取りに行きます。

―今年のチームについて教えてください。

今年のチームも本当に非常に面白いと思います。津久井なんかと比べると特出した選手、個で絶対的なという選手は少ないんですけども、全体的なレベルでいうと技術は高いですね。

むしろ上手さでいったら津久井の代よりチームとしては面白い。だいぶ力強くなってきましたし、あの時(3年前)は特徴が多い子が多かったのでそれを生かしたゲームスタイルになってくるんですけど、今回は上手いからいろいろなことが幅広くできる楽しさがありますよね。

そういった中で今年は久しぶり全国大会を狙えるな、もしかしたら津久井の代以上のチーム成績も行けるかなとちょっと楽しみにしていたのですが、コロナで(クラブユース選手権が)なくなってしまって、前に見た代もちょうど高3なので非常に自分自身はショックを受けて、ちょっと今回は引きずりましたね。でもいまは切り替えて子供たちの進路に向けて動いています。

―一押しの選手はいらっしゃいますか?

キャプテンの川原良介を中心に長短を交えたサッカーができると思うので、運動量も含めて、なかなか面白みがあると思います。あとは木村建貴ですかね。この2人は去年も最後の方はひとつ上の学年に行って関東リーグも経験しているので、とりあえずその2人を挙げておきます。

―川原くん、木村くんはどういった選手ですか?

川原の場合はいままでのクマガヤでもそうはいないボールコントロールに長けた選手。フィジカルはそこまでないんですけど、とにかくボール扱いが上手いのでボールを失わずにサッカーをしてくれる。彼のところで時間も作れるし、個で打開もできるし、リズムが作れる子ですね。

キャプテンを務める川原良介。

木村の場合は特徴的なのは速さ。ステップがもう縦に切っていく感じの子で、抜け出しやターンはいままでの中でもトップの方にいるんじゃないかなと思う。津久井のようなパワフルさとか、そういうのはないんですけど、また変わった感じで面白いですね。

木村建貴は縦に切っていくスピードが自慢だ。

また、ほかの選手たちも遜色ないですし、特徴もみんな違うので、面白い集合体だと思います。

―クラ選は中止となりましたが、開催となれば高円宮杯での活躍を期待しています。

そうですね。行けるところまでやりますよ!

石黒登(取材・文)