高校になると、ゴールを決めるのは難しくなる。だが、その前に確率よくシュートが入る場所を知っているか。【特別寄稿】 WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」

ゴールを決めるには「確率の高い場所」を知ることが第一歩!

ドイツサッカー連盟公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)を持ち、15年以上現地の町クラブで指導を行う「中野吉之伴」。帰国時には、全国で指導者講習会やサッカークリニック、トークイベントを開催し、各地を回る。その中で日本の育成が抱える問題や課題にも目を向け続けています。この企画は、ジャーナリストとしても活動する中野が主筆するWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」が月一で寄稿する育成コラムです。

小中高とカテゴリーが上がるほど、センターラインの守備が強固になる。

だから高校の試合を見ていると、小学校や中学校の時のように、中央突破からのゴールシーンは極端に数が減る。それは守備をするチームが相手を「ゴールから遠ざける」ため、中央エリアにスペースを与えないように人数をかけ、さらにシュートを打たせたとしても「ゴールからの角度をなくす」ため、ボール保持者を外へと追い込むからだ。

実に論理的な守備の考えである。

では、逆に攻撃の立場になって「確率よくゴールを決めるためには、どうしたらいいのか?」を考えたことはあるだろうか。過去、DFB(ドイツサッカー連盟)はFIFAやUEFAの主要大会をあらゆる観点から分析し、こう結論づけている。

「ペナルティエリア内からのダイレクトシュートが一番ゴールにつながる」

つまり、決定力を上げるためには次の2つの考え方が重要なのだ。

▼どこから、どのようにシュートを打つことが有効か?
▼シュートのときにどのコースを、どのように狙うべきか?

その中で最もゴール数が多い場所が、ペナルティスポットとゴールエリアの「両角付近」だ。このデータを参考にすれば、攻撃における具体的な目的地が明確になる。さらに掘り下げると「いかにこのスポットにシュートスペースを作り、いかにタイミングよくこのスポットにボールを運ぶか」が、確率高くゴールを決めるための秘訣だということだ。

そこで、JFAの公式YouTubeチャンネル「JFATV」で「U-18サッカープレミアリーグ2018」の第4節までのダイジェストをすべてチェックしてみた。すると、大部分のゴールシーンがこの条件に当てはまっている。また、DAZN Japanの公式YouTubeチャンネルでイングランド・プレミアリーグのベストゴールシーンも数節分を確認してみたが、見事に合致していた。

しかし、日本とイングランドのゴールシーンには大きく2つの違いがある。それは「ゴール確率の高いスポットにシュートスペースを作り、タイミングよくボールを運ぶか」というバリエーションの豊富さと、シュートレンジの広さだ。それを冷静に捉えると、日本の高校生年代ではペナルティスポットとゴールエリアの「両角付近」にボールを運んでのシュート練習が、どのくらいの頻度で、どんなバリエーションで行われているのかと疑問に思う。

味方が絡んでいるのか、敵がいるのか、試合に近い状況を作れているのか…。どのカテゴリーでも、よく練習後にシュート練習に取り組んでいる。それ自体はいいことだし、ゴールパターンを増やすためにも大事なことだが、「絶対に決めなければならない状況から確実にゴールを決める」ことが、優先順位の最上位であるべきではないのだろうか。「簡単だ」としても徹底してやらなければならない。なぜなら、試合のプレッシャーの中ではそう簡単に決められないものなのだから。

ゴール確率の高いスポットでのドリブルシュート
ゴール確率の高いスポットを狙ったサイドからのシュート
ゴール確率の高いスポットを使ったクサビからのターンシュート …etc

ただ「こなす」のではなく、ハイスピードのドリブルで、シュート並みのパスをダイレクトでゴールに流し込む。そして、DFと競り合いながら目の前の状況で最適なタイミングとスピードで動き出し、なおかつシュートを決めることを目標にしなければならない。

先日開催されたUEFAチャンピオンズリーグ準決勝の両試合でも、サイドを突破してからペナルティスポット付近へのマイナスのグラウンダークロス、あるいは相手守備が整う前にGKと守備ラインの間を通すクロスが頻繁に仕掛けられていた。また、一度ゴール前を横切るクロスを送り、そこから折り返してシュートに持ち込むというパターンも見られた。

日本の高校生年代は小学校年代、中学校年代と比べると年間スケジュールが整備され、ずいぶん落ち着いたリーグ戦が実行されるようになった。だからこそ週末の拮抗した試合に向け、「相手に勝つために、ゴールとその過程をどうトレーニングしたか」は大切だ。ゴールを決めるためには、必ずチームがボールをどうコントロールするかと向き合う。そうすると、ゴールまでの過程にはチームとして4つの段階をどう踏むかが必要になる。

【攻撃=チームがボールをコントロール】

1.ビルドアップ
2.ゲームメイク
3.チャンスメイク
4.ゴールメイク

前回のコラムでも説明をしたが、サッカーにおいては、この4つの段階を含めて常に順序立ててプレーしなければならないわけではない。例えば、ビルドアップをしようとパスを回していたら、相手の守備組織を整えるのがうまくいっていない。それなら味方が完全にフリーで相手の裏に抜け出せそうなら、一気にパスを送る方がいい。チャンスメイクの局面までうまく持ち込めても、相手がその後うまく対応してきたら無理をせずにもう一度ゲームメイクからし直しても構わない。試合の流れや段階のつながりを常に見極め、選手たちが主体となって臨機応変にプレーできるようになってほしい。その先に見据えるものは最終的にゴールであり、それを果たすための目的地は確率の高い場所であることが最優先になってくる。

そのために、指導者はトレーニングを構築しなければならない。

もう一度DFBが分析した上での結論を記しておく。「ペナルティエリア内からのダイレクトシュートが一番ゴールにつながる」。その中でも、最もゴール数が多い場所はペナルティスポットとゴールエリアの「両角付近」だ。だから、指導者がトレーニングメニューを考える上で指針となるのは、「いかにこのスポットにシュートスペースを作り、タイミングよくボールを運ぶか」をうまく活用することではないだろうか。

そのためにビルドアップやゲームメイクのトレーニングがある。よく「主導権を握る」という言葉が使われているが、具体的に主導権を握っている状態とはどういうことをいうのだろうか? 「ボール保持率が高い低い」で判断されることが多いが、そこが大事なわけではない。ボールを持っていても相手守備を攻略できず、ただいたずらに横パスやバックパス、あるいは苦し紛れの縦パスばかりしているようでは「主導権を握っている」とは言えない。

そこには、たどり着くべき場所でゴールを決めるというはっきりとした目的がある。高校生年代では、指導者がその点を理解して毎回のトレーニングをプランニングできたら選手たちの成長度合いも高まるのではないだろうか。

文・木之下潤(WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」管理人)
WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」