第95回全国高校サッカー選手権大会 準々決勝 青森山田 vs 正智深谷

 第95回全国高校サッカー選手権大会第5日は5日、川崎市の等々力陸上競技場などで準々決勝4試合が行われ、埼玉代表の正智深谷は今年度のプレミアリーグ・チャンピオンシップを制した前回4強の青森山田に1-3で敗れた。武南が第71回大会でベスト4入りして以来、埼玉県勢として24大会ぶりの準決勝進出はならなかった。7日に埼玉スタジアムで行われる準決勝は、東海大仰星(大阪)-青森山田、前橋育英(群馬)-佐野日大(栃木)の顔合わせとなった。

20170105高校サッカー選手権
相手が高校生年代の王者だからといって、正智深谷は奇をてらった戦略など取らず、いつも通り球際で激しくぶつかり合い、忠実で粘り強い守備とスピード豊かな外からの攻撃で互角に渡り合った。

そう、内容的にはちっとも負けていなかったのだ。1-3というスコアだけでは想像できないが、シュート数は6本対5本と上回り、決定機の数でも多かった。しかしそれでも負けた。王者との違いはほんのちょっとしたところなのだが、それが1-3という得点差と結果に結び付いてしまうのだから、小さいようで実は大きな差と言える。

小島時和監督は「強いチームというのは点を取られないし、取るべき場面で取ります。その差がうちと青森山田の差だと思う」と検証した。

3失点した内訳を見ても分かるように、よどみのないパスワークで守備網を崩壊されたわけでも、驚異的なスピードで守備が混乱したわけでもない。ごくごく平均的なクロスやロングスローが起点だった。

前半13分の1点目は、右スローインを預かったMF高橋壱晟のクロスをFW鳴海彰人が胸で上手にトラップし、左足で蹴り込んだもの。鳴海へのマークが甘かった。後半13分の2点目はMF郷家友太が左からロングスロー。186センチの長身DF三国スティビアエブスが、頭で落としたボールを高橋に決められた。同21分の3点目は、右クロスをクリアミスしてしまいオウンゴールによる失点だ。

小島監督は悔しさと喜びを交錯させながら熱戦を振り返った。「後半の2失点がなければ完ぺきな内容だった。あれだけ警戒していたロングスローからやられたし、特にアンラッキーな3点目が重くのしかかった」と述べ、「それでもあきらめずに最後までゴールを目指してくれた。感動した。うれしかった」とイレブンの奮闘に感慨深げ。

先発の陣容は、快勝した創造学園(長野)との3回戦から2人が入れ替わった。ボランチには2回戦で一発退場となり、3回戦は出場停止だった2年生の谷口瑛也が復帰。右の2列目には快足の2年生・西澤悠人が初のスタメンに名を連ねた。

前半26分に退場していた谷口は燃えていた。「ほぼ2試合休んでしまったので、みんなの分まで走り切ろうと思った」と話した後、次の試合で代役を務めた同級生のMF海老塚宝良について触れ、「活躍してくれたから自分はきょう戦えた。あいつの分まで頑張ろうと気合を入れました」と仲間を気遣った。

西澤は前半30分、MF鈴木涼太からの好パスを受けてからシュートしたが、バーの上を越えていく。谷口の一撃は同点弾になりそうなくらい惜しかった。後半8分、DF金子悠野がヘッドで前方に送った球を運んで強シュート。仕留めたと思われたがGK廣末陸に足で止められ、さらにFW玉城裕大がこぼれ球をたたいたものの、枠を捕らえられずに絶好機を逃してしまう。

谷口はJ1FC東京入りが内定している廣末について、「ファーポストが空いていたので狙ったが、気がついたらコースを消されていた。レベルの高さに驚いた」と言う。

青森山田は放った5本のシュートで2本を奪ったが、正智深谷は3度の決定機をものにできなかった。こういったところを解消していかないと、全国では上位に進めない。それを肌で感じ取った大会ではなかったか。敗れてなお、収穫は多い。

しかも同じ敗戦でも、得点できたかできないかでは大きく違う。既に勝敗の大勢は決していたが、意地を示したあのゴールは、後輩たちに引き継がれる財産になったはずだ。

後半33分、右CKを短くつなぎ、主将のMF小山開喜が上げたクロスをDF田村恭志がヘディングシュート。ゴール右隅に転がっていった。関西大学リーグの強豪、阪南大に進学する小山は「0-3になってほぼゲームは決まってしまったけど、みんなが最後まで走ってくれてうれしかった。みんなに助けられた大会でした。感謝したい」としみじみ語った。

3度目の出場で初勝利した余勢を駆ってのベスト8進出。小島監督は「歴史のないチームに歴史をつくってくれた。ベスト8は誇れる。胸を張って埼玉に帰れます。またいいチームをつくって出場し、暴れたいという気持ちが強くなった」と実りある大会に満足そうだった。

河野正(取材・文)