第99回 全国高校サッカー選手権大会埼玉県大会 準決勝 武蔵越生 vs 西武台

選手権埼玉2次予選準決勝。武蔵越生は西武台をPK戦の末に下し、初の決勝進出を決めた。


ともに3-4-3でスタートした中でボールを握ったのは西武台だ。MF村田智哉を中心に幅を使って攻撃を展開。それに対し武蔵越生はリスクを負わずに全体がスライドする形で対応する。最終局面では今大会無失点の木村一世、松永浩弥、石田哲也の鉄壁の3バックが立ち塞がった。

前半はなかなか攻撃に出ることがなかった武蔵越生だが、後半開始から3回戦、準々決勝と途中出場から決勝点を挙げている“スーパーサブ”のFW五十嵐大翔を投入すると一気にスイッチ。続いてもう一枚の切り札、10番のMF渡辺光陽を送り出し、攻撃への姿勢を打ち出していく。

それでも依然として西武台ペースという形だったが、武蔵越生は後半27分、五十嵐が前線からプレスをかけていくとキーパーのキックを中盤でMF永倉歩夢がカット。すると永倉のパスから「今日はお前の番だ!」と西澤浩一監督に送り出されていたという渡辺は前を向くと迷わずに右足を一閃。直後強烈なシュートがキーパーの頭上を越して、ゴールネットに突き刺さった。

残り10分で1点のビハインド。それでも勝利への執念を見せる西武台は途中出場のMF福沢安莉のシュートからコーナーキックを奪うと後半35分、DF栗田海飛のキックにファーサイドでFW岡﨑大志郎が頭で合わせて土壇場で同点に。勝負はついに80分を越えて延長戦に突入した。

勢いに乗る西武台は延長前半7分、岡﨑がヘディングシュート。キーパーが弾いたところにDF細田優陽が詰めたが、ここはゴールカバーに入った木村がライン上で決死のクリア。さらに延長後半2分には細田がドリブルでタッチライン際を抉り、クロスに岡﨑が完璧なヘディングを合わせたが、1年生GK関根拓郎がビッグセーブを見せ、追加点は許さない。その後も最後の局面で松永が足を出すなど、武蔵越生が粘り強い守備で防ぎきり、決着はPK戦にもつれ込んだ。

PK戦では後攻・西武台の3本目を関根がしっかりと読み切ってセーブ。その後、両チームともに1本ずつ外した中で武蔵越生の5人目MF石井悠斗のシュートが決まり、勝負が決した。

武蔵越生は初の決勝進出。「新人戦で4強に入らせてもらったというプライドもある。一人一人の練習に向けての意識が高くなった」木村主将。悲願の選手権予選制覇まであと1勝だ。

1年生GK関根拓郎が大仕事!直前に抜擢されたビッグセーバー。決勝・昌平戦は「楽しみです」

全員の奮闘があったのはもちろんだが、やはり1年生キーパーの活躍は見逃せないだろう。武蔵越生のビッグセーバー関根拓郎は準決勝で好セーブを連発。初の決勝進出に大きく貢献した。

中継を見ていて「この選手は誰だ?」と思った方も多いだろう。今大会は期限ぎりぎりでの選手登録でプログラムにも載っていない。ということで先にプロフィールの方を紹介しておきたい。

身長は183cm。長い手足を生かしたシュートストップが武器だ。小中は武蔵越生高のグラウンドも使用するSSカンテラで育った。もともとはフィールドプレーヤーの出身だが、小学校5年生の時にキーパーに転向。「初めてやった時から「自分はもうこのポジションをやらなきゃいけないんだ」と、それが使命だと思いました」。直感的にこのポジションで生きていくんだと感じたという。憧れの選手は浦和レッズのGK西川周作で、特にキックを参考にしているとのこと。

今回の抜擢は本人にとっても驚きだったという。「正直選手権の始まる2週間前まではメンバーに入る雰囲気はまったくなかった。2週間前くらいにスタートで出させてもらってからはスタートになっていたので、その時に心は決まりました」。西澤浩一監督は関根の起用について、「やっぱり大きいボールを放り込まれた時にどうしてもディフェンスの3枚頼みになってしまうことが多かった。その上での負担を和らげる意味で抜擢しました」と、その選出理由を説明した。

「メンバーに入れなかった3年生も、同じキーパーの3年生もみんなエールを送ってくれた。そこはすごく嬉しく思いましたし、やらなきゃいけないなという責任感も芽生えました」と関根。先輩たちにも温かく迎え入れられた1年生GKは前に構える3年生の3バックにも支えられながら今大会伸び伸びとプレー。そしてこの西武台との準決勝で大仕事を果たすこととなる。

特に同点とされた後は西武台の猛攻を浴びたが、後半ラストの相手の決定機を防ぐと、延長戦でも2つのビッグセーブを披露。特に延長後半のシュートは決定的だったが、「あの場面はクロスが上がった瞬間にシュートが来ると思いました。来たシュートにしっかり手を出せて外に弾けたと思います」。心構えができていたからこそ、急に来たシュートにも焦ることはなかった。

そして背番号17はPK戦でも魅せた。「あれはもう完全に自己流。絶対に動かないと決めています」。泰然自若、動かざること山の如し。相手がキックするまで絶対に動かない「静」のスタイルで見極めると1、2本目は決められたものの、しっかりとコースには飛んでいた。そして迎えた3本目、「自分の勘に素直に応えた」と左に飛んで見事にシュートストップ。最後は相手のキックミスで決まったが、これにもしっかり反応しており、枠内に収まっていたとしても関根の手にかかっていたことだろう。結果的には4本すべてに合わせるなど、「読み」の良さも光った。

決勝は昌平との対戦だが、「自分も須藤(直輝)選手など、すごいレベルの高い選手と試合をしてみたかったので楽しみです」。1年生のビッグセーバーは強敵との対決を心待ちにしていた。

「このままじゃ9番の意味がない」。西武台FW岡﨑大志郎は魂の同点弾も勝利に導けず

「前半は全然調子が上がらなくて、チームもためにも全然できなかったんですけど、ハーフタイムにチームメイトから「お前が決めてこい」と言われた。(そういった中で)先に点を取られてしまって、このままじゃ9番を背負わせてもらっている意味が全然ないなと…」。

西武台FW岡﨑大志郎は1点を追う後半35分、コーナーキックの場面でニアポストに立つと、DF栗田海飛のキックと同時にゴールの中を回ってファーサイドに移動し、ボールの落ち際を超低空ヘッドで合わせて同点弾。「練習していた形とまったく同じようにできた」。

その後も積極的なプレーで後半ラスト、延長前半、延長後半と3度の決定的なシュートを放ったが、いずれもキーパーのビッグセーブに阻まれ、逆転弾を奪うことはできず。「チャンスが何度もあったのに、自分が決めきれなかったのがふがいないです」と唇を噛んだ。

今年はサイドバックからウイングバック、そしてFWと3度のポジションチェンジを経験。「FWがやりたいと思っていたのでできたことは嬉しいですけど、監督にやらせてもらっていたのにもかかわらず、結果も残せずに終わってしまったのは悔しいです」と悔やんだ。

石黒登(取材・文)

試合結果

武蔵越生 1(4PK2)1 西武台
0(前半)0
1(後半)1
0(延前)0
0(延後)0
4(PK)2