全国高校サッカー選手権埼玉県大会準々決勝 昌平 vs 正智深谷

第98回全国高校サッカー選手権埼玉県大会準々決勝(3日、駒場スタジアム)。昨年も同舞台で対戦した昌平と正智深谷の天王山は5ー0と大勝した昌平が7年連続の4強入りを決めた。

注目の一戦は昌平が強さを見せた。立ち上がりは互角の攻防といった様子の中でゲームが動いたのは前半13分。昌平は左サイドのMF紫藤峻がドリブルで仕掛けて相手守備をつり出すと、DF大竹琉生のクロスにファーサイドでFW小見洋太がヘディングで沈めて試合を動かした。

さらに小見は前半16分にボールに回り込みながら右足を一閃して追加点、その1分後にはMF鎌田大夢からのフィードに今度は左足を振り抜き、開始17分でハットトリックを達成した。

正智深谷は後半7分にMF津川勇作がPKを獲得したが、FW波多野晟愛のシュートはグランデ同窓のGK牧之瀬皓太がしっかりと読み切ってセーブ。すると昌平は11分に紫藤のアーリークロスに反応した小見がキーパーの前でカットし、無人のゴールに流し込んでこの日4点目とした。アディショナルタイムには途中出場のFW大和海里が高速ドリブルでエリア内にカットイン。混戦となったところをこちらも代わって入った1年生MF篠田大輝が決めてダメを押した。

FW小見洋太4発の衝撃! 昌平の“JOKER”は開始17分でハットトリック達成

まさに「小見劇場」である。そう表現していいくらいFW小見洋太の4得点は衝撃的だった。

前半13分に自身ファーストシュートをヘディングでネットに運ぶと、「あそこで振り抜けるのがストライカー」と一番満足度の高いシュートに挙げた2本目はボールに対し回り込みながら右足で豪快に蹴り込むゴラッソ。「2点うまく取れたので自信を持って打てた」という3点目は後方からのフィードに、ボールの落ち際を今度は左足で射抜いてゴール上方に突き刺した。

僅差のゲームが予想された中で開始17分の3得点で正智深谷のゲームプランを破壊したエースストライカーは、後半11分にもアーリークロスに得意の裏抜けでキーパーよりも早くボールに触り、最後は無人のゴールに流し込んだ。高校の公式戦でのハットトリックは初、4得点は中学年代のFC LAVIDA時代にもないという。そんなプレーをこの大一番で発揮した背番号11は「自分でも今日は調子が良くておかしいなくらいの感じでした」とはにかんだ。

ちなみに1点目の後に手で作った「J」の文字は現在上映中で家族も好きだという映画「JOKER」を意識してのもの。「自分も昌平のJOKERになりたいと思っていてやりました」。

バットマンの敵役ながら不思議な魅力で見るものを惹きつけるJOKER。昌平のJOKERもまた本家とは違った意味で人を惹きつけるものがある。「クラスでも良いキャラをしていて、サッカー部内でも愛される選手。おっとりした正確なんですけど、試合になると男になる」とは一緒に行動することが多い須藤の弁。ゴール後のセレブレーションで指揮官や仲間たちが愛おしそうに撫でる坊主頭は毎試合前夜に気合い入れの意味も込めて自らバリカンを入れている。

「今回はこういう良い形で勝てたんですけど、まだ全国という大きな目標を達成できていない。そこに向けて一戦一戦しっかりと戦っていきたいと思います」と小見。初見参となるNack5スタジアムでもゴールで、アシストで、昌平のJOKERが見るものを自らの劇場に連れて行く。

まさかの結末も最後まで火花を散らした2人 須藤「最後まで1対1は勝てなかった」 山田「昌平といえば須藤直輝」

今季は「埼玉の顔」として火花を散らしてきた昌平MF須藤直輝と正智深谷DF山田裕翔。最後はまさかの幕切れとなったが、試合後は互いに対するリスペクト、感謝の言葉を口にした。

同じアルディージャジュニアユースの出身。山田の方が1学年上だが、須藤がトップに絡んでからはチームメイトとして切磋琢磨してきた。高校ではライバルチームに所属し、2年にわたって死闘を繰り広げてきた。互いに実力も弱点も知り尽くす間。須藤は以前、山田とのバトルについて「裕翔は埼玉県でも屈指のDF。やる時はいつもバチバチになります」と話していた。

そんな2人は今季も幾度にわたり“バチバチ”の戦いを繰り広げてきた。新人大会では昌平が正智深谷を3ー0で下し優勝。須藤も途中出場から1ゴールを決めた。かと思えばインターハイ予選では今度は山田率いる正智深谷が昌平攻撃陣を完封して、新人戦のリベンジを果たした。

そして迎えた選手権準々決勝。リーグ戦の対戦も終了しており、これが高校年代では最後の対決となった。試合は昌平が早々に3点を先行すると、後半須藤の抜け出しを阻止しようとした山田のプレーがレッドカードの判定となるなどまさかの結末となったが、この日もバチバチの1対1を繰り広げ、死力の限りを尽くした2人は互いに対するリスペクトの言葉を語った。

須藤は「やっぱりジュニアユース時代から裕翔にはすごいよくしてもらって、いろいろなことを教えてもらったり、1対1を手伝ってもらったりして、自分は裕翔に育ててもらったというのはある。(山田が下がる際には抱擁を交わしていたが)「俺が頑張るから」と声をかけました。でもやっぱり裕翔には最後の最後まで1対1で勝てなかったのでそこは悔しいですね」。

それに対し山田は「直輝は本当にうまい。昌平の時も、アルディージャの時も、自分が1対1で負けることもあった。やっぱり昌平といったら須藤直輝だと思う。本当にそこはリスペクトしていますし、素直に優勝してほしいなっていう気持ちがありますね」とエールで返した。

山田は来年から大学サッカーに進み、ふたりのライバル物語はここでひとまず幕を下ろすが、いつかまたピッチで再会する日が来れば、その時も“バチバチ”の戦いを繰り広げるのだろう。

石黒登(取材・文)

試合結果

昌平 5-0 正智深谷

3(前半)0
2(後半)0