全国高校サッカー選手権埼玉県大会2回戦 武南 vs 川口北

第98回全国高校サッカー選手権埼玉県大会2回戦(19日、与野八王子会場ほか)。関東予選覇者でこの試合が初陣となった武南高校は2ー0で川口北高校を下し、3回戦進出を決めた。

試合は簡単なものにはならなかった。開始からボールを握った武南だが、守備を固めてきた川口北をなかなか崩せず。相手キーパーの攻守もあり、ネットを揺らすには至らない。

前半はこのまま終わるかと思われたが、それでも武南は39分、左サイドをMF飯塚翼がMF金子秀一郎とのワンツーで割ると、クロスにニアで合わせたMF鈴木豪流のシュートはキーパーに弾かれたが、そこにストライカーらしい嗅覚で詰めたFW大谷涼太が決めて試合を動かした。

後半も武南が攻勢を強める中で追加点は16分。直前にピッチに入ったMF矢地柊斗が右サイドで仕掛けると、その落としに後方から走りこんだDF安野天士が左足を一閃。直後弾丸のようなミドルがキーパーの手を弾きながら、クロスバーの下を叩き、ゴールネットに突き刺さった。

川口北はこの試合を通じて好守を連発したGK門馬翔輔を中心にしっかりとディフェンスラインと中盤の2ラインで守り、隙があればFW福間陸やFW川合健心がカウンターを放っていくなど、開始35分はほぼ狙い通りといっていい戦いを展開したが、前半終了間際の失点が響いた。

名門・武南にとってもやはり選手権の入りは難しいもの。内野慎一郎監督は「練習からこういう雰囲気になったり、のまれたり、うまくいかない、しっくりこないということもいろいろ想定して選手には言ってきたが、あまりリアルに伝わっていなかったというのが現状。ただ後半は交代選手も含めてよく理解してやってくれたのでそこは良かったかなと思います」とした。

次戦は大一番の昌平戦。両者が選手権予選で戦うのは2016年の準々決勝以来のこと。武南がペースを握るも0ー1で敗れた。指揮官宅のビデオデッキにはまだあの日のビデオが残っている。

「この3年は長かった。あの時のビデオはまだデッキに残っているし、夜中ポッと起きていきなりつけたりするとあのビデオがあったりする。あのビデオはもう100回以上見ています。選手たちにもミーティングで見てもらって「このユニフォームで涙を拭いているんだからな」と。だからなんとか持っていきたいし、想いが詰まったゲームにはしたいと思っています」。

連続ゴールが期待される大谷は、後期リーグ戦で2点を先行したものの追いつかれた試合を振り返り、「やっぱり意識するのは3点目。前回は2点奪って2点取られているので、やっぱり3点目っていうのが大事になってくると思う。自分がハットトリックを決めるだったり、3点目の決定的な1点を取ったりしてチームに貢献したい」と、3点目を勝負のキーに挙げた。

弾丸ミドルで追加点を挙げた安野 高校3年で大きく成長した超攻撃的SBが集大成へ

武南の誇る超攻撃的SB安野天士は後半16分、矢地の落としに後ろから走り込むと鋭く左足を一閃。力強いシュートでネットを揺らし、波に乗り切れないチームに追加点をもたらした。

「サイドバックなんですけど、常にゴールを狙っているつもり。なかなか試合で点を取ることはできないんですけど、今日はこういった形で取れて良かったかなと思います」。その言葉にたがわずチーム最多タイの4本のシュート。またこの日は得点には結びつかなかったものの、正確なキックも武器で、ゴールに、アシストに、セットプレーは大きな得点源となっている。

そんな安野だが、昔からいまのスタイルだったわけではない。柏レイソルJrユースに所属していた中学校年代はどちらかといえば守備型の選手。「サイドから上がるっていうのは中学の時はあまりしていなくて、どちらかというと守備型で、相手の戦術に合わせて守備を固めたい時とかに出るっていうことが多かったです」。当時からキックには自信はあったというが、チームには今季ユースから昇格を決めたFW鵜木郁哉がおり、それを披露する機会はなかった。

「変化」が始まったのは武南に入学してから。県内でも攻撃的なサッカーを志向する武南でまず意識の変化が起こる。「守備はもちろん点を取られないっていうことが大事なんですけど、それ以上に点を取らなきゃサッカーは勝てない。FWをサポートしたり、攻撃の厚みをかけるとなった時に、中盤も大事なんですけど、サイドからの上がりもないとサイドハーフも孤立してしまうので、縦の運動量は増やすべきだなと思って、そういう考えになってからはいまの攻撃的な形になりました」。さらにフリーキックにも磨きをかけ、武器となるように鍛え上げた。

プレーの変化は精神の成長にも繋がり、今季は副キャプテン、金子の不在時にはゲームキャプテンを務める。内野監督も「まだまだですけどね」としながらも「いまの姿を見ると、前のレイソルの人たちはみんな「えっ!」みたいな感じになりますよね。あいつはうちに来てくれて本当に良かったなと思うし、本当に育ってくれた選手のひとりだと思います」と目を細める。

そしてそれ以上に本人が武南での3年間で変わったと感じていること―。

「技術的な部分も変わったんですけど、『誰かのために戦う』っていうところを持つようになったのが一番大きく変わったことかなと思います。高校生になっていろいろと学んで、いろいろな人の話を聞いて、もちろん自分が試合に出て活躍するのが一番ですけど、それ以上にベンチで応援してくれている人とか、監督、やっぱり一番は両親のためにも、そういった支えてもらっている人たちのために戦えるっていうのがやっぱり一番成長したところかなと思います」。

ゴール裏にはメンバーが考えたというそれぞれのキャッチフレーズが書かれたボードが飾られるが、安野のところに記された文字は「破天荒」。普段の姿からは想像しにくい言葉だが、仲間たちはもしかしたら安野の変化を恐れない姿勢に「破天荒さ」を感じたのかもしれない。

高校3年間で心技体とも大きく成長した名門の超攻撃的SBが復活を期すチームを引っ張る。

石黒登(取材・文)

試合結果

武南 2-0 川口北

1(前半)0
1(後半)0