[選手権]昌平、武南との激闘制し2年ぶりV!後半ATに長が劇的弾、“もっと歓声が上がるサッカー”掲げて冬へ
苦境続きだった予選を乗り越えて、冬はもっと観客を沸かせるサッカーを――。第104回全国高校サッカー選手権埼玉県予選決勝が16日に埼玉スタジアムで行われ、昌平が後半ATにMF長璃喜(3年)の劇的ゴールで1-0と武南を下し、2年ぶりの7回目の全国出場を決めた。

王座奪還を狙う昌平と、14年ぶりのファイナル進出からの19大会ぶりの冬の全国大会進出を目指す武南の好カード。注目の埼玉新旧強豪対決となった決勝は今大会屈指の激戦となった。
序盤から激しいボールの奪い合いとなった中で武南は、前線から積極的にプレスをかけ囲い込みからボールを奪取。10番MF有川達琉(3年)がエリア内に潜り込んでチャンスを作った。
内野慎一郎監督は「こういうのを強度が高いチームでも表現できるっていうのをずっと目指してきた。どこでプレスをかけるのか、どこでどういうふうにボールを取るのか。ボールが出た後のパックの仕方だったり、2人で取る、2人で対応するっていうのは、やっぱりガチガチに力を入れすぎないで、脱力感のある中でそういうことをやり続ける」ことを意識したと話す。
それに対し昌平は個が力を発揮し、12分にはMF飯島碧大(2年)のスルーパスからU-18日本代表MF長璃喜(3年)が抜け出し、ディフェンダーを交わしてシュートを放つが、ここは怪我で準決勝はメンバーから外れた守護神の金昶銖(2年)が好反応を見せてストップする。
武南は22分、右サイドの攻撃でSBの田中理月(3年)のフィードからMF関口海龍(3年)が裏に走り込み、切り返してクロス。準決勝で決勝ゴールを挙げたMF平野琉斗(3年)主将がゴール前に入り込んで右足でシュートを狙っていく。昌平も準決勝に続き、2戦連続のスタメン出場となった左SB古川雄規(2年)の縦パスから長が右足シュートでゴールに迫った。
昌平は長の数的不利をものともしない突破やMF人見大地(2年)が持ち出し、高い位置を取ってプレーしたU-16日本代表DF笠原慶太(1年)がエリア内に切り込みチャンスを探る。
武南は37分、敵陣でボールを回収した関口が有川とのパス交換からエリア内に侵入。関口のクロスから有川と繋ぎ、FW藤森隼叶(3年)が収めて左足で狙ったが、果敢に前に出た昌平の守護神、小野寺太郎(3年)が好ストップ。さらにこぼれ球を有川が詰めたが、決めきれない。武南は39分にも速い寄せでボールを奪い、MF小山一絆(2年)がエリア内に侵入して決定的な場面を作ったが、ここも小野寺がファインセーブを見せてゴールは割らせなかった。
昌平は相手の組織的に守る守備に苦戦し、ロングボールが多くなり前線が孤立。セカンドボールを拾えず、悪循環に陥る場面も。芦田徹監督は「間違いなく、パスルートがなかったわけではないんですよね。そこの球離れの遅さとか、プレーの判断、そこらへんがやっぱりもっと簡単に運び出せるシーンがいっぱいあったと思っています」と攻撃が停滞した理由を説明する。
昌平は後半3分、FKの2次攻撃から長がシュート。さらにこぼれを準決勝で2ゴールを挙げたU-16日本代表FW立野京弥(1年)が右足シュートで狙うが、決めきることができない。
武南は小山が果敢にドリブルで持ち上がりチームを進めるプレー。10分には平野のボールカットから有川がカットインシュートを狙っていく。昌平は12分、古川の縦パスに湘南内定の10番MF山口豪太(3年)が完全に抜け出したかと思われたが、シュートは武南DF倉本健二(3年)が決死のブロック。武南は13分、有川が狙うが、小野寺がしっかりとキャッチした。
昌平は14分、FW齋藤結斗(3年)を投入。武南も16分、藤森に代えてFW安藤大翔(3年)、さらに21分にはMF鞭馬小太朗(2年)と両チームともに交代の切り札を切っていく。
昌平は20分、飯島を起点にした攻撃で長、立野とワンタッチで繋いで齋藤が左クロス。長がゴール前に走り込んだが、ここでも倉本がスライディングで食らいつき、金がキャッチした。
中盤以降は互いにショートカウンターを仕掛け合うオープンな展開へ。武南は26分、DF八百川尚輝(3年)がミドルシュートを狙う。さらに31分には小山を起点にボールを繋ぎ、関口が右足で迫ったが、小野寺が至近距離のシュートをしっかりと防ぎきり、三度チームを救った。
昌平は37分、ペナルティエリア内で立野が切り返してシュートを放つが、倉本とともに武南の守備を支えるDF田村大地(3年)が身体を張ってブロック。武南は40分、鞭馬の仕掛けからのシュートがDFに当たって浮き上がったボールを安藤が頭で狙ったが、バーの上だった。
試合はそのままアディショナルタイムに突入。延長戦かと思われた矢先の40+2分、ついにゲームが動く。昌平は古川が縦に入れたボールに対し、長がファーストタッチで相手SBを外してドリブルでゴール前に侵入すると、左足のコントロールシュートで突き刺して均衡を破る。
芦田監督は「後半はよりオープンになってしまって、シュートまで持って行かれるシーンも多くなって、その部分では臨んだ試合展開ではなかった」としつつ、「長璃喜の本当に個の部分、そこはスペシャルだと思いますし、最後あそこで本当に結果に繋げる部分はさすがだなと思います」と今大会は怪我明けながらチームを救うパフォーマンスを見せたアタッカーを讃えた。
武南は189cmの長身FW千葉龍ノ介(3年)を投入。終盤にはロングスローから千葉が高さを見せるが、小野寺を中心にしっかりと1点を守り切った昌平が1-0で接戦を締めくくった。
主将を務めるDF伊藤隆寛(3年)は「本当にいまはすごくホッとしていて、嬉しい気持ちがあります」と安堵の笑顔。今年の高3は系列のFC LAVIDAで夏冬と全国を逃し、悔しい想いをしてきた代。さらに昨年は先輩たちが夏に日本一となりながらも、冬に選手権出場を逃した姿も観てきた中で「本当に苦しいというか、そういう状況が続いて、いろいろ周りの声とかも聞こえますし、プレッシャーもある中で優勝できたっていうのは本当に嬉しいです」と話す。
今大会は浦和学院戦、成徳深谷戦と先制点を奪われる形となった中で、PK戦、延長戦と厳しい戦いを勝ち上がっての栄冠。芦田監督は「埼玉県の県予選がこれだけ苦しいものなんだなっていうことは私自身も実感している中で、やっぱりこのカップ戦は勝って全国に行くっていうことがまず1つスタートラインに立つ上で必要で、そうなった時に本当に諦めずに、粘り強く試合を進めていくっていうところは本当に成長したんじゃないかなと思います」と振り返る。
その中で「でも、もっと良いゲームをしたいですよね」という本音も。「やっぱり彼らの良さっていうのがもっと出るゲームっていうところであったり、彼らがもっともっと躍動して、今日これだけお客さんが見に来てくれて、そういった意味では本当にもっともっといろんな歓声が上がるようなゲームがしたかったなってところは、終わってみれば、やっぱりその気持ちの方が強いかなっていう感じがします」。スタッフはもちろん、選手も内容には満足してはいない。
「やっぱり須藤(直輝)くんの代だったり、本当にあれはワクワクしました」(伊藤)というように、昌平のサッカーといえば見ている人たちを魅了するようなサッカーだ。もう一度自分たちのサッカーを突き詰めて、全国ではそこら中で歓声が上がるようなサッカーで勝ち上がる。
石黒登(取材・文)
試合結果
昌平 1-0 武南
0(前半)0
1(後半)0


