全国高校サッカー選手権1回戦 昌平 vs 広島皆実

全国高校サッカー選手権1回戦。3年ぶり2度目の出場となる昌平高校は12月31日、NACK5スタジアム大宮で広島皆実高校(広島)と対戦した。昌平は1ー1で迎えた後半ロスタイムの危機を守護神の緑川光希がビッグセーブ。その後のPK戦を4ー3で制して選手権初勝利を果たした。

やりたいことがすべてできたわけではない。それでも同点とされた後も集中力を切らさず、夏は手にできなかった全国での勝利、そして選手権での記念すべき1勝目を全員で掴み取った。

序盤昌平はMF原田虹輝が最終ラインでのボール回しに加わりながら左右に展開して好機をうかがう。そんな中で前半19分に先制。右サイドバックの塩野碧斗がボールを持つと、飛び出しを警戒して引き気味にきた相手守備に対し「碧斗が蹴るまで我慢して、瞬間的なスピードで抜け出した」というFW佐相壱明がニアに飛び込んでヘッドですらしてゴールに流し込んだ。

その後も昌平が優勢にゲームを進めたが、前半34分に左サイドを崩されるとグラウンダーのクロスに対し、一度は弾き出したものの、混戦を押し込まれて1ー1で試合を折り返した。

迎えた後半13分、昌平はMF山下勇希を投入。この日はコンディション不良によりサブに回ったが、「短時間であれば彼の持ち味も発揮できる」(昌平・藤島崇之監督)と切り札としての役割を与えられると得意のドリブルで攻撃を加速させる。

31分には山下が佐相とのワンツーで抜け出すとエリア手前で倒されてファールを獲得。コースを狙った原田のフリーキックは惜しくもポストに嫌われたが、38分には再び山下が切れ味鋭い突破でエリア内を切り裂いた。

しかしなかなか決めきれずにいると、後半ロスタイムに最大のピンチが訪れる。41分、右サイドの突破を許し、相手MFと緑川が一対一に。万事休すかと思われたが、「やられたかなというシーンを何回も止めてきた」(藤島監督)昌平最後の砦は、至近距離からのシュートに鋭く反応。弾くとポストに当たって跳ね返ってきたボールをしっかりと掴み、敗戦の危機からチームを救った。

「あそこまできたら自分が止めるしかない。強い気持ちで対応できた」と緑川。

このまま80分で決着はつかず。大会規定により試合はPK戦に突入した。互いに2本ずつ決めての先行広島皆実の3本目。1、2本目と逆に飛んでいた緑川だが、「(それまでの2本は)落ち着いていない部分があったが、3本目でメンタル的に修正できた」。短い助走から左に蹴られたボールに飛びつくと、またしても弾いたボールはポストに跳ね返って枠外に外れた。

その後互いに1本ずつ外したが、昌平は5人目の原田がキーパーの動きを見て冷静に右上隅に決めて勝負あり。4ー3でPK戦を制した昌平が嬉しい選手権初勝利で2回戦に駒を進めた。

昌平高校として、そして現役時代は習志野高校で玉田圭司らとプレーした指揮官にとっても初めての選手権での年越し。「やっぱりホッとしました。選手権1勝という壁というのがあった中で、しっかりと結果を出せたのは良かった」とし、「あとは今日できなかったことを反省しながら、ただ良さは絶対に出せるという自信を持ちながらやっていければいい」と語った。

この日2本のスーパーセーブでチームを救った緑川。PK戦の前には「みんなが自分のことを鼓舞してくれた。監督からはお前なら絶対に取れる。お前がヒーローになってこい!と言われた」。PKは全校応援に来ていた昌平応援団の前で行われたが、応援席からの緑川コールに「これは絶対に止めるしかない!」と気持ちも上がったという。ストップのシーンは「PKに入る前にキーパーコーチからボールだけじゃなくて全体を見ろと言われた」と明かし、「(キッカーの)角度がちょっと浅かった。全体を見て落ち着いて対応できた」と胸を張った。

藤島監督からも「緑川がいなかったらこういうチームになっていない」と全幅の信頼を置かれる守護神は茨城県のFC古河出身だ。地元でプレーするか、はたまた他県強豪でチャレンジするかを悩んでいる時に「昌平だけが声をかけてくれた」。1年次からゴールマウスを守り続け、それから3年間、幾度もチームのピンチを救ってきた。どうしても前線ばかりが注目されがちだが、強豪との連戦となる今後、緑川の存在は否が応でも大きくなってくるはずだ。

また予選ではサブだったDF吉田航、MF伊藤雄教も好プレーでスタメン起用に応えた。昌平ではサイドバック、センターバックを担うことが多かった吉田は、中学校以来だという公式戦でのボランチ起用にも迷いなく対応。セカンドボールの奪取、試合の流れを読んでの守備でチームの勝利に大きく貢献した。ボランチとしての理想はレアル・マドリードのブラジル代表MFカゼミーロ。テクニシャン揃いの昌平の中盤で「守備の人」として最少失点を支えた。

トップ下に入った伊藤は持ち味の前への推進力を発揮しながら、スピードに乗った仕掛けやシュートなどで前線で躍動。運動量高く攻守で走り、「相手にとって嫌な存在になれたかな」と手応えを口にした。2人は1週間前のスタメン組との練習試合でサブ組としてプレー。吉田は中盤底でスタメン組をシャットアップ、伊藤は1得点を決めてサブ組を勝利に導いて指揮官の目に止まった。ここから先は短期日程で強豪校との連戦が続く。勝利という結果はもちろん、ここにきてのチーム力の底上げは目標とする選手権制覇に向けて大きな収穫となりそうだ。

昌平は2回戦で清水エスパルス内定FW高橋大悟擁する神村学園高校(鹿児島)と対戦する。

石黒登(取材・文)

試合結果

昌平 1(4PK3)1 広島皆実(広島)

1(前半)1
1(後半)0
4(PK)3