全国高校サッカー選手権埼玉県2次予選準決勝 浦和東 vs 浦和西
選手権予選準決勝。もうひとつの決勝切符をかけた第2試合は浦和西高校と浦和東高校のダービーとなった。試合は浦和東が早々に先制したものの、後半同点に持ち込んだ浦和西が39分に途中出場のFW森喜紀が決勝弾を決めて逆転勝ち。昌平高校の待つファイナル進出を決めた。
今年最後の東西決戦。また公立校同士のベスト4ということで高い注目を集めたこのゲーム。今季両チームは新人戦支部決勝、インターハイ予選準決勝で激突して浦和西の2勝。しかし、いずれも80分では決着がついておらず、迎えた大一番での一戦もやはりタフな試合となった。
試合はいきなり動いた。先制点は浦和東。準々決勝の浦和学院高校戦同様、ワントップの小川翼にボールを当てながら展開していくと前半6分、GK高草木天平からのロングキックに競った小川に対し、浦和西はセンターバック2人が重なってしまう連携ミス。これによって開いた後方のフリースペースに抜け出したMF根本駆が左足で落ち着いて決めて試合を動かした。
出会い頭の一発をもらう形になった浦和西だが、それでもその後はすぐに落ち着きを取り戻す。市原雄心監督が「キーパーソン」と語るMF加藤淳志が中盤で縦横無尽に動きながら攻守でチームに勢いをもたらしていくと、前半19分には右サイドでMF石山凌太郎、DF田村駿弥との連携から狭いエリアを崩してシュート。20分以降は浦和西がペースを握る中でセカンドボールや田村駿のロングスロー、さらにフリーキックなどからゴールに迫ったが、浦和東の中を固めてくるディフェンスをなかなか崩すことができずに前半は0ー1のまま終了した。
中盤以降は盛り返しながらも、自分たちのミスから招いた失点での1点ビハインド。沈んだ表情で帰ってきた選手たちに、ハーフタイムには普段はあまりない指揮官からの喝が飛んだ。
「やっぱりあのシーンが頭にあった」というのは24年前の選手権予選準決勝だ。NACK5スタジアム大宮の前身である大宮公園サッカー場で浦和西は浦和南高校に0ー1で破れ、全国にはあと一歩手が届かなかった。当時2年生FWとして臨んだ市原監督の胸に残る大きな悔い。「このまま負けたら一生悔いが残るぞ。俺はそうだった。だから変えなきゃ!」。
すると指揮官の想いに選手が応える。同点ゴールは後半5分だった。左サイドから田村駿がロングスローを入れると、一度は跳ね返されたものの、二次攻撃からMF遠藤寛紀のクロスに「無我夢中だった」というDF福世航大が相手を右手で制しながら左足で豪快に叩き込んだ。
一度弾き返されての形。普段であれば戻る場面だが、「(先制されたシーンは)完全にセンターバック2枚で失点してしまった。もう自分が取るしかないという気持ちだった」と福世。「1点以上の価値のあるゴール」(田中)が決まり、浦和西が試合を振り出しに戻した。
ここからゲームは一気に加速する。直後浦和西は石山の横パスからMF高橋岬生が個人技で1枚剥がして決定的なシーンを迎えるも、ここは武南GK高草木がゴールに立ちふさがる。
対する浦和東は後半11分に10番のMF青木兵吾をトップ下に投入して勝ち越し弾を狙いにいく。この交代で再び攻撃のスイッチが入ったチームは16分、MF横田遥人が緩急をつけたドリブルでエリア内に侵入するもシュートは浦和西GK斉藤大伽の正面に飛んでゴールならず。
後半17分には再び浦和西に好機。前線でFW朝見海斗がパスカットするとフリーの高橋へ。落ち着いてひとり交わして右足で狙ったが、GK高草木が左足に当ててゴールを死守した。
その後、浦和西はMF唐牛七海(←遠藤/後半20分)、FW森喜紀(←朝見/30分)、MF蓮見優太(石山/37分)、浦和東はMF野口滉平(←根本/23分)、MF前田祥玲(←横田遥/35分)と互いに次々と攻撃的なカードを切っていく中でついに勝負は最終局面に突入する。
誰もが延長戦を考え始めた後半39分、浦和西は途中出場の2年生2人が勝負を決めた。自陣でボールを受けた唐牛が独特のリズムを持ったドリブルで敵陣中央を切り裂いてゴール前にラストパスを供給。「もうシュートしか考えていなかった」という森はボールを受けるや否や利き足の右足に持ち替えることなく、そのまま左足を振り抜いてゴール右隅に突き刺した。
最後に意地を見せたい浦和東はアディショナルタイムにGK高草木のパントキックをMF鈴木健太が競ると、野口がドリブルからの鋭い切り返しで相手ディフェンスを外して右足を振り抜く。シュートは枠を捉えていたが、浦和西の守護神・斉藤が至近距離からのシュートをパンチングでセーブ。こぼれ球にDF小林雄太が詰めたが、ボールはサイドネット外側をかすめた。
大会初のダービーで劇的逆転劇を演じた浦和西が62回大会以来34年ぶりの決勝進出を決めた。
「公立校同士、浦和同士の戦い。今日は『意地』というテーマで入った」と市原監督。同点ゴールの福世には「(ハーフタイムには)セットプレーで絶対に1点取り返してこいと言った。意地を見せてくれた」。また最後まで集中力を切らさなかった選手たちには「今日は選手がすごく頑張った。こっちが思っている以上に能力はあるのかな」と最大級の賛辞を贈った。
また決勝点の森も指揮官が爆発を期待していた選手のひとり。今年は県選抜の一員として唐牛とともに韓国遠征を経験、185cmの長身に加え足元やシュート技術も高いものがある。「自信を持ってくればすごい能力を持っている」(市原監督)。チームを決勝に進めただけでなく、この一戦が選手として大きく成長するひとつのきっかけになればと嬉しそうに語った。
前回王者・正智深谷高校を破った準々決勝に続く逆転勝ち。チームの強さについて主将の田中は「サッカーだけでなく、私生活や学校生活をしっかりとやってきた成果」だと語る。「自分たちは1年の頃からずっとグラウンド整備だったりをやっていて3年になってもやってきた。反感だったりもあったが、そういうのを全員でやってきたのがいまの成果につながっていると思います」。そういったところで得た一体感、3年間続けてきた粘りこそがチームの強さだ。
決勝は総体予選に続き昌平に決まった。「浦和の誇りを持ってしっかりと埼スタで勝ちたい」と森。中盤の核となる2人は「相手のパス回しにしっかりと粘って食いついていきたい」(加藤)、「必ず自分が結果を出すつもりで、たくさんボールに触って、自分でチャンスを作ったり、味方と連携したりして得点に絡むつもりでやっていきたい」(遠藤)と意気込んだ。
今年は30年ぶりのインターハイ出場をはじめ、数々の数字を塗り替えてきた西高イレブン。浦和の代表として、そして公立校の代表として、勝ってまた再び新しい歴史の扉を開く!
石黒登(取材・文)
試合結果
浦和東 1-2 浦和西
1(前半)0
0(後半)2