全国高校サッカー選手権埼玉県2次予選準々決勝 正智深谷 vs 浦和西
選手権予選準々決勝の残り2試合が5日に行われた。第1試合はインターハイ出場校の浦和西高校と3連覇を狙う正智深谷高校が対戦。試合は1ー1のまま100分を終えても決着がつかず、PK戦を5ー4で制した浦和西が22年ぶりのベスト4進出を果たした。
序盤は互いにリスクを取らずに、ロングボールからシンプルな攻撃を展開。その中で正智深谷はトップの梶谷政仁がサイドに流れながら起点となり、2列目の海老塚宝良や両サイドハーフのアタックを引き出していく。前半31分には右サイドのMF鎌田翔太郎のクロスからDF清水銀河、MF萩原駿が波状攻撃を仕掛けるもネットを揺らすには至らない。
対する浦和西はアンカーの田中隆太郎が中盤のフィルターとして機能。「相手はロングボールが多いというのは聞いていた。それに対して引かずに、しっかりとラインを上げて、前の選手が挟みにくるというのを徹底した」(田中)。その言葉通り、うまくゲームをコントロールしながら、コンビを組む加藤淳志とともにボールを拾っては攻撃につなげていく。
前半36分には田中のカットからFW高橋岬生がシュート。前半のシュートはこれ一本に終わったが、同時に相手にも大きな決定機を作らせないまま0ー0で折り返した。
しかし迎えた後半3分、一瞬の隙をついた正智深谷が先制点を奪った。左サイドで梶谷がボールを持つと、萩原とつないで海老塚が絶妙なクロス。待ち構えていた鎌田は胸でボールを収めると、ディフェンスに寄せられながらも冷静に右足で流し込んでゲームを動かした。
その後も正智深谷がサイド攻撃から攻め込んだが、浦和西も気持ちを切らさずに戦う姿勢を見せていくと、後半12分に同点弾が生まれた。DF田村駿弥、MF石山凌太郎と左サイドの2人が連続ヒールパスでチャンスを作ると、加藤がドリブルの緩急で一気にエリア内に侵入。中をしっかりと見ながら右足で丁寧なパスを送り、「ファーストタッチがよかった。あとは振り抜くだけだった」というFW朝見海斗が右足を振り抜いてゴールネットに突き刺した。
「前半は固くなっていて、全然いいプレーができなかった」というが、ハーフタイムには「仲間や監督、コーチから喝を入れられて。前半のことは忘れて点を取ってやろうと思っていた」(朝見)。直後に交代となったが、ラストワンプレーで大仕事をやってのけてみせた。
以降、両チームは浦和西がFW森喜紀(←朝見/後半13分)、MF楮本颯(←石山/18分)、MF田村優人(←MF遠藤寛紀/31分)、正智深谷がFW西澤悠人(←FW佐藤亘輝/21分)、MF石橋未宇(←萩原/25分)を投入。一進一退の中で攻撃的なカードを切っていく。
後半32分には正智深谷に決定機。西澤がスピードに乗ったドリブルで右サイドを持ち込むと中央にグラウンダーのクロス。これに梶谷が飛び込んだが、「もう止めてやるという気持ちしかなかった」という浦和西の守護神・斉藤大伽が相手と交錯しながらも身体を張ってゴールを死守する。さらにアディショナルタイムには石橋が狙っていくが、斉藤が落ち着いてセーブした。試合は80分を終えても決着がつかず、10分ハーフの延長戦に突入した。
迎えた延長も両軍の勢いは衰えない。浦和西は延長後半1分、加藤のクロスがそのままクロスバーを直撃。こぼれ球を田村優が右足で叩いたが、これは正智深谷GK三本杉永遠がファインセーブ。さらに9分には左サイドを切り裂いた楮本がエリア内でひとり交わして右足で浮きパス。触って入ればという場面だったが、高橋のヘディングはあと一歩と届かない。
延長後半は再び正智深谷が攻める。9分には左クロスを梶谷が頭ですらすと、裏にはMF谷口瑛也がいたがタイミングが合わず。アディショナルタイムにはMFオナイウ情滋のロングスローからDF孫大河が競って最後は再び谷口が寄せたが、押し込むことはできなかった。そしてついに両軍は100分を戦いきり、勝負の行方はPK戦にもつれ込むこととなる。
迎えたPK戦。お互い1人目のキッカーが決めての先行・正智深谷の2本目を斉藤がセーブ。一本のリードを奪うと、その後も残り4人がしっかりと決めた浦和西が5ー4でPK戦を制し、1995年大会以来となる22年ぶりの準決勝行きを決めた。一方、エース梶谷を中心に3連覇を狙って今大会に臨んだ正智深谷は残念ながらベスト8で姿を消すこととなった。
「今日は挑戦者というテーマでゲームに挑んだ。そんな中で前の選手も後ろの選手も本当にチャレンジしたなと。勝つのはこれしかないなという勝ち方だった」と選手を讃えた浦和西・市原雄心監督。PK戦は「今年はトーナメントで1回も負けていない。あいつ(斉藤)が必ず一本取るから全員決めろ」と送り出したという。その上で「OBやいろいろな人が応援に来てくれた。そういった人たちの後押しがあったんだろうな」としみじみと語った。
そんな中で市原監督がこの日のMVPと語ったのが主将の田中だ。「やらせるところはやらせてしまったので50点」と自己評価は厳しめだったが、技巧派が揃う正智深谷の中盤をつぶすことを自らの任務と課しながらほぼ100分間それを完遂。またゲームコントロールという意味でもラインをうまく押し下げしながら、玄人好みのプレーで勝利の立役者となった。
田中は一度キャプテンマークを外したことがある。新人戦は主将として臨んだが、「春過ぎに調子を落とし、メンタル的にも落ちていた時があった」。真面目な性格も手伝って、自らを追い詰めてしまい、「自分にキャプテンが務まるのかな」と、その重圧に耐えかねて監督の前で涙を流したこともあった。インターハイでは1年生時に主将をやっていたDF佐藤功大に腕章を託し、自らは一度「サッカーを楽しむ」という原点に立ち返ることを選んだ。
そんな田中が再びキャプテンマークを腕に巻くことになったのは選手権直前のこと。指揮官は「お前が中心になってやれ!」とただ一言だけ伝えて、田中にその腕章を託した。
「いままで自分はキャプテンとして何もできていない。監督の期待に応えられるように、西高を勝たせられるように」。もうキャプテンとしての重圧はない。「今日みたいにチームが辛かったり、本当に苦しい時に先頭に立って声を出していけるのがキャプテン。自覚を持ってチームが苦しい時にこそ声を出していきたい」と堂々と語る姿にはもう弱さは感じられない。
準決勝は浦和東高校との『浦和東西ダービー』となった。「浦和のプライドにかけて負けられない」と田中。今夏の高校総体では30年ぶりの全国出場を果たしたイレブンたち。再び新たな歴史を塗り替えるために。まずは12日、ライバル・浦和東を破って決勝行きを決める。
石黒登(取材・文)
椛沢佑一(写真)
試合結果
正智深谷 1(4PK5)1 浦和西
0(前半)0
1(後半)1
0(延前)0
0(延後)0
4(PK)5