みんなを安心させられる第2GK。“PKキーパー”として選手権へ、西武台・中嶋望が語った覚悟
2戦連続の緊張感のかかるシーンだったが、西武台の“PKキーパー”中嶋望(3年)はこの日も自分に与えられた「役目」をきっちりと全うし、チームを悲願のプリンス関東1部昇格に導いた。
初戦の桐蔭学園戦に続き、関東第一との決定戦も中嶋に出番が回ってきた。後半21分、FW松原海斗(3年)のゴールで同点に追いつくと「今日回ってくるな」と心構えを整えていたという。
「前回勝ったんですけど、相手が外して勝って、止められなかった悔しさがあったので、PKキーパーとしてちゃんと止めて勝ちたいなと。今日は止めてやると自分の中で言い聞かせていた」。
その後攻められる場面もあったものの、守備陣が必死にシュートブロックに入るなど相手に勝ち越し点は与えず。初戦に続き、GK淺沼李空(3年)が相手エースの決定的な1対1をシュートストップするなど「繋いでくれた」ことも「絶対に止める」という気持ちを強くしてくれた。
交代の際には「ありがとう」と声をかけピッチへ。そして迎えたPK戦。1本目から触っていくと、最後まで動かず、相手のキックの瞬間までしっかりと見て2本目を右に飛んでセーブ。それでも「それが自分の『役目』なので当たり前かなと。1本止めたところで「よっしゃあ!」という気持ちよりも、また1本止めて味方に思い切って蹴ってもらえるように、という気持ちの方が大きかった」というGKは4本目も同じく最後まで見て右で仕留め、勝利に大きく貢献した。
勝利の瞬間にいち早くかけ寄ってきたのは盟友のDF原田蓮斗(3年)だ。小学校の時から対戦することも多く、互いを認識しており、高校で再会し、親友と言い合える存在となった。原田は「やっぱりあいつが止めてくれると思うからキッカーも別に外してもいいくらいの気持ちで蹴っていると思いますし、自分もボールをもらう時に「別にお前が外しても俺がまた止めるからいいよ」と言ってくれて、その言葉がでかくて、思い切り振り切れました」と中嶋への信頼を語る。
関東予選ではメンバー外だった中嶋に対し、原田が「いつも自主練にも付き合ってくれて、感謝もあるし、本戦に行かせてあげたい」と言い、友の想いを背負って臨んだファイナルで決勝アシストを決めたが、今回は関東本大会が行われた山梨で中嶋がプリンス1部に導く格好となった。
今年は怪我に泣いた1年だった。3月に腰を疲労骨折すると、復帰のたびに故障を繰り返し、そこから丸々5ヶ月間プレーすることが出来ず。本当の意味での復帰は8月になってからだった。
新チーム発足当初は出場する機会もあったが、チームはこの期間にもうひとりのキーパーである淺沼が急成長。関東予選は無失点V、本大会制覇にも貢献した淺沼が守護神として定着した。
悔しい気持ちがないわけでもない。それでも同じキーパーの仲間として「人一倍努力しているのを見てきた」。ライバルの成長をやっかむのではなく、「俺自身も淺沼を尊敬するみたいな感じになっていった」という。その頃には口には出さなかったが、「逆に俺がもう後ろでいつでも待っているぞという気持ちになった」。得意のセービングを生かすべく、「PKキーパーで行くぞ」と言われた際には「淺沼が試合でうまくやってくれるために、後ろにつこうじゃないですけど、最後は俺がいるからみたいな」と守護神を安心させられるような第2GKになることを誓った。
また、守屋保監督はピッチ外でも「怪我の期間中もいろいろ、ほかの選手の面倒を見ていてくれたりだとか、サポートしてくれたりだとかしていたので、周りの信頼度も高い」と話し、三沢雅人GKコーチとともに第2のGKコーチのような存在になってくれていると信頼する。中嶋は「第2キーパーというポジションの中で何が出来るか」を考え、それも自分の「役目」だと語る。
プレーモデルは2つ上の代でインターハイ出場を果たした代の“PKキーパー”高橋クリスだ。
「2年前のインターハイを見ていたんです。スタンドで応援していて、あの時はもうPK戦までいけばクリスさんがいるから勝てるみたいな雰囲気がスタンドでもあった。選手権もそのクリスさんじゃないですけど、『PKまでいけば中嶋がいるから』そこまで頑張ろうと。そこまで頑張ってもらって、自分の番が回ってきたら絶対に止めて、ベスト4以上に行きたいと思います」。
選手権は1回戦から準々決勝までは80分ゲーム(前後半各40分)。勝敗が決しない場合はそのままペナルティーキック方式となるため、中嶋の出番が回ってくる可能性は高い。自分に与えられた場所で自分の「役目」を果たす。守護神を安心させられる第2キーパーがいるチームは強い。
石黒登(取材・文)