「長い道のりでしたけど…」大切なことに気づいた正智深谷FW渡辺友斗が仲間たちの想いを乗せた無心のゴールで決勝弾
「絶対に負けないという想いを持っていた中で正直やられる時もあったんです。でもやっぱり仲間を想う気持ちを使って、疲れていてもいけた。長い道のりでしたけど、正智のスローガンがどれだけ大事だったかということにやっといま気づきました」とFW渡辺友斗(3年)はいう。正智深谷の掲げる「一致団結」。3年かかってしまったが、いまだからこそその真意がわかる。
プロ志望の渡辺は関東予選からインハイ初戦となった2回戦の成徳深谷戦まで「個人の結果だけ」を意識してきたという。しかし「個人」を意識するあまり自分で自分を追い込んでしまい「最終的に潰れていった」。成徳戦はスタメン出場したが「不甲斐ないプレーをして全然活躍出来なかった」という渡辺は途中交代。以降2試合、出番は回ってこなかった。
そういった中で主力の怪我により、準決勝でスタメンが巡ってくる。相手は強力アタッカー陣を誇り、プリンス関東で無敗を続ける昌平。対面は今年からSBに転向した実力者のDF篠田大輝(3年)であり、渡辺も前半からサイドで守備でのハードワークを強いられる。
またこの日は盛夏のような暑さであり、渡辺も徐々に疲弊していった。その中で背番号9の目に飛び込んできたのはスタンドで見守る仲間の姿。「仲が良い友達がいて、そいつが頑張ってと俺にエールを送るような素振りを見せてくれて、そこでまた気持ちが再燃したというか、燃え始めて体力的にきつくても走れました」。その友人とは普段から一緒に自主練をしており、頑張っている姿も見てきた。その友が声が出せない中でも大きな身振りで応援を送ってくれている。止まりかけた足がまた動き出す、折れかけた気持ちが再び立ち上がるー。
そして迎えた後半10分、ゴール前のこぼれ球に鋭く右足を一閃。実は得点シーンはあまり覚えていない。「こぼれてきたボールに反応して、身体が勝手に動いたという表現が一番近い」というまさに無心のゴール。そこにはもしかしたら仲間たちの想いも乗っていたのかもしれない。渡辺も「あの瞬間も無心でいられたのは仲間が応援してくれていて、そこでやっぱり心に火がついていたのでそれが最後足を動かしてくれたみたいな感じです」と感謝。その後も足が吊りかけていたという中で最後の瞬間まで走れたのは仲間のおかげだとした。
次戦決勝に勝って全国大会出場を決めれば渡辺が目指すプロへの第一歩にもなるが、いまは以前とは違う見え方をしているという。「プロを第一に意識するんじゃなくて、やっぱり仲間を、一致団結を意識して、一致団結した結果にプロがついてくる。そういう感じでいきたい」と渡辺。大切なことに気づいた背番号9は、決勝も仲間たちを想いピッチに立つ。
石黒登(取材・文)