関東高等学校女子サッカー選手権直前!末貴光(花咲徳栄女子サッカー部監督)インタビュー
関東高等学校女子サッカー選手権が11月10日開幕。埼玉第1代表で出場する花咲徳栄高校の末監督に、大会への意気込み。これまでの指導についてお話をお伺いした。
―今年は昨年3冠を取ってということでかなり難しい入りだったと思います。
そうですね。本当にどのチームも本当に研究をしてうちの高校の良さを出させないようなサッカーをよくいろいろ考えてやってきているなというのがわかっていました。勝ち続けるということもないと思うので負けの覚悟はしておいて、ただ負けた時に悔いが残らないように絶えず新しいものを追い求めながらやらないと難しいのかなというふうには思っていましたね。
今年は特に上背があったり、スピードがあったり、特徴のある選手が多かったので、そこを生かしたサッカーと戦術とスタイルというところで約束事を作りながら、個も十分に生かしていかないといけないかなと。個と組織のバランスということは常にやっぱり言ってきました。
―県では盤石の戦いをする中で関東では初戦で悔しい敗戦となりました。
正直言って分析が足りなかったかなというところもあります。県大会と同じ戦い方で行くか、または2年前も星槎国際とは当たっているんですけど、その時のようにブロックラインを敷いて戦うか。県大会で盤石すぎるくらいの戦い方をしてしまったので、逆に過信があったかもしれません。実際大敗したんですが、前半のシュート数は5本、5本。ただ相手は5本のシュートで3点というようなところで。後半も切り替えられず、もうちょっと選手のいいところを出させてあげられなかったなという私自身の反省はありますね。
―この夏はディフェンスもかなり取り組んできたと。
改革のひとつはやはりキャプテンの大沼(歩加)をボランチからディフェンスにコンバートしたこと。それ以前もとても粘り強くディフェンスもしていたんですけど、ただやっぱり関東クラスになると速い選手がいるので、まずはそこのスピードに対応できなければいけない。センターバックもある程度スピードのあるプレーヤーじゃないといけないというので、いま2人はスピードのある選手に替えたというようなところです。
攻撃面ではロングレンジのシュート、ゴール前に飛び込むスピードだとか、決定力アップというのは課題意識としてやるようになりましたね。入れられた点数も前半の3点のうち2点はロングレンジからのシュートでした。やっぱり県大会と違って関東、全国はシュートを打ってくるその距離が遠い。だからキーパーのディフェンス面でもミドルレンジであと一歩寄せる、前に出る力だとか、そういうところは今大会でもキーワードになるかな思います。
―選手権では1、2年生の底上げも見られました。
若い力が出てきたのですごく楽しみでもあります。また関東大会はどうなるかわからないですけど、コンディションが良くて、気持ちが強くて、戦える選手でスタートを切れればと思っています。やっぱり高校スポーツなのでメンタル面の強さというか、そういうところは目に見えない技術のひとつでもあります。そこでいうと1年生は怖いもの知らずというのもあるし、未知のパワーということもあるし、相手にも研究されてない。おそらくフル出場ではないと思うんですけど、ピンポイントで使っていけるかなと思っています。
―1、2年生をスタメンに持ってきて経験値のある3年生を切れるのも今年の強みです。
やっぱり試合経験だとかそういうことを考えれば3年生はもうなくてはならない存在というか。困った時は3年生で札を切っていくような形になるかなというようなところで、勝負どころではやっぱり3年生というようなところはあると思います。
途中から出てくる新井優紀なんていうのは本当に素晴らしい選手。意識が高いというか、途中出場でも何をしなければいけないかということも一番よくわかっていて、リーダーシップをとって、声を出して熱く戦うので、本当にゲームを変えられる力っていうのがあって、とても面白い選手ですよね。やっぱりそういう精神的な強さというのは3年生じゃないと出せないのかなと思いますし、そういった意味では本当に期待の高い選手が多いですよね。実はなかなかうまくいかない時もあったんですが、3年生の頑張りも見えてきているので、とても期待していますし、またやってくれないと困るので(笑)。
―そういった中で今年も埼玉3冠を決めました。
勝ち続けるというのは難しいと思うんですけど、そういった意味の結果が出ているのはもっともっと上を目指せということなのかなと思います。一応全国には3年前はインターハイで、2年前と昨年は選手権というような形で3年連続で形を変えていってはいるんですけど、でも逆にいうと2分の1の大会ではどちらかかが関東止まりで全国には行けていない。正直県大会優勝は嬉しいですけど、まだまだ戒めていかなければ埼玉のサッカーレベルというようなところでも、都内や地方の資金力のあるチームに選手を取られてしまうというところがやっぱりまだまだ実情です。もっともっと魅力がある、ここに行けば本当に伸ばしてくれるというところでは、なでしこリーガーの輩出だとか、そういったことも望まれてくるのかなというところですね。やっぱり強豪校の出身者はみなさん大学で活躍していたり、なでしこリーグで活躍していたりというところで、本校はまだようやくここ1、2年で大学で活躍しているような子も出てきたというところなので、今後はそこが望まれてくるのかなと思います。
―末監督の指導理念を教えてください。
やっぱり人がやることなので、人間力をつけるというのがまず一番かなと思います。そういった意味では勉強もやらせますし、部活動と勉強の両輪だということで、初代の理事長がよく言われていたんですけど、どちらか片方だけ進んでも車は前に動かないよと、両方頑張らなければいけないと。また頑張れる子っていうのは両方頑張れる。勉強でも我慢強くやるということは、スポーツでもやっぱり我慢強くやらなければ高みを目指せないというところに繋がる。オフの生活でもしっかりと日常生活を真面目に生きていく、生活していくと。高校生でいえば授業をしっかりやるということは大事なことだと思います。うちもそういうところができるようになってきたのは、少しずつ結果としても出てきているのかなというふうにも思っています。
あとはサッカーのことでいえば基本技術の向上というのを大事にしています。基本の延長線上にやっぱりゲームはあると思うので、そこはうるさくやっていますね。基本1タッチでどこに置くか、1ミリとまでは言わないですけど、1センチ、2センチをやっぱりこだわれる選手じゃないとダメだし、シュートを決めてもただ決めて喜んでいるだけじゃなくてどこに決めたかというところまでこだわれる、そういう選手がやっぱり良い選手だというように思うんですね。やっぱり相手があることなので、そういうところも気にできるというか、そういうところを意識してできるような、そういう選手を作りたいなというふうには思っています。
チームとしては連動というような形で勝負していくことと、守りの約束事については、特に口うるさく言っていてこれは個人でもそうですね。ボールを取られたら即座に取り返すということの意識だとか、ひとりで守れなければグループで守るというようなことを徹底させることが、技術ということで考えるといまうちにとって必要かなというようなところなんですよね。県大会も失点はしているんですが1失点、その前のインターハイ予選も1失点かな。というようなところでチーム作りに関しては守りっていうようなことから結構入っていきますね。
―監督は何年前から徳栄で指導を?
もともとは男子の顧問というような形でやっていましたんですが、女子の創部に合わせ平成18年に私の方で立ち上げたという形です。始めはもう本当にすべてを出さないというか、のんびりとやっているのが女子だなと。ただ120%は出さないんですけど、大して面白くない基本的な練習をコツコツコツコツ一生懸命やるなという、そういう粘り強さは感じましたね。
やっぱり当初作った時はゲームなんてできないようなレベルですから、結構長い時間基本的なことをやる中でよくやるなと。それでいて教えたことに対して一生懸命やってくれるので、「女子のサッカーを指導するのは面白いな」ともうすぐにもうハマってしまったというか。
当然公式戦に出れば10点ゲームで負けてしまうんですけど、その当時は当時ですごい楽しかったです。1、2年目で出ると大敗の時も楽しかったですし、ちょうど3年、4年目というようなところで、当時は25チームしかなかったんですけど、そこで何回かベスト8に入るようになって、そこはそこでまたベスト8というその響きが良くてそこはそこで面白くて。
―初優勝は5年目の新人戦でした。
もう本当に忘れないです。やっぱり初優勝っていうのは一番痺れたというか。ちょうど川越の陸上競技場でやって、電光掲示板も出るようなピッチで、すごい雰囲気も良くて、スタンド付きの素晴らしい会場でやらせていただいて。2月の大会だったんですけど、その1ヶ月後に東日本大震災があった激動の年だったんですね。そしてその6月になでしこがW杯に優勝しているんですよ。そういう年だったのでもう忘れようにも忘れられない年で、職員もかなり多くの職員にお祝いしていただいて、初優勝っていうのはすごいお祝いしてくれるもんだなと思って。
学校もすごく良くて、いろいろなクラブがたくさん応援に来てくれるんですよ。実は県の決勝とか関東大会になると野球部やサッカー部の子たちで何百人と応援に来てくれて。去年の選手権関東予選で修徳高校とやった時にも、もうドラフトにかかっていて今年プロに行った2人も来てくれて。そういうところがうちの学校の良さかなと。我々も野球部の応援にいくんですけど、女子サッカーにも野球やサッカーの子たちがたくさん声を枯らして応援に来てくれる。それでとても喜んでくれるんですよ。「面白かったよ先生」「また応援に行かせてください」って授業の時に言われたりするんですよ。それがすごく嬉しくて。本当に喜んで来てくれて、大きい声でもう本当に励みになるような応援もしてくれるので力以上のものが出ますよね。
―初めて新人戦を取った時というのはサッカー初心者の子も?
初心者から経験者に少し変わり始めたところでしたが、初心者もたくさんいました。実はその優勝した後も新人戦だったので即入学には繋がらずに、次の24年、25年、この2年間が関東大会にも出場していない年で、ここは逆に苦労したというか、素人が半分以上でチームを作っていたので結果も出ていなかったかなというようなところでした。
この一番苦しい時に実は松本(真季)コーチが入ってきてくれたんですよ。やっぱり女性が入ってくれたので、深く女子の中に立ち入ってくれる人ができたのは大きかったです。彼女がどんどんどんどん入っていってくれるので、そういった意味では助かりましたね。やっぱり私は男性なので指導していってもどこかで妥協の部分が入ってきてしまうんですけど、ここは甘いと、もっとやって大丈夫だということはコーチから逆に教えてもらえるというか。そういった意味では徐々に結果が出てきたのも彼女の力が大きいかなというのは思いますね。
―そういった時代を乗り越えた中で平成27年のインターハイで全国初出場を果たします。
もうこの年もまず県の優勝というのはもう考えてなかったくらいでした。素人だったキーパーを始め、中学校で初めてサッカーをやったとか、そういう子がいた中での大会だったんですね。当時山村学園との決勝だったんですけど、相手はもう本当に経験者で固まっていて、ちょっとかなう相手じゃなかったんですけど運良く優勝できたんですね。
これがあれよあれよという間に関東大会で準優勝したんですよ。これはもう本当に自分でも信じられないというか。後にも先にもここしかインターハイは出ていないんですけど、本当に選手としては恵まれてなかった代で、関東で準優勝したのに優秀選手にひとりも選ばれなかった年なんですよ。本当にここは不思議な年だったなと、一生懸命頑張れば県大会で優勝できたり、関東で準優勝できたりできるんだなと思ったのがこの年だったですね。
―ここを境に県大会でも常に上位に立つようになりました。
本当に練習会にも質の高い子が来るようになってきて、すべてではないですけど少しずつ入学してくれるようになった。28年度入学がいまの新井や大沼の代ですよね。そこが10名入ってくれて。当時は2桁っていうのがすごく多く感じたんですね。
27年の関東準優勝メンバーも3年生が5人しかいなかった。ただその時の下級生の中にも足だけはすごく速い子がいたり、それがいま東洋や日大に行って活躍している子たちが1年生で入ってきた時でした。根岸里歩、佐々木葵、これがディフェンスをやっていたんですよね。
―その彼女たちが中心となっては初の全国選手権も決めました。
一昨年は無我夢中でやっていたので、もう本当に感無量というか。7位決定戦で勝つと全国という時に校長先生に連絡したらミーティングをやれと言われて。ちょうど宿泊と食事場所が違うところで、5分くらい歩いて食事場所に行っていたんですね。夜風に当たりながらご飯を食べに行って、美味しいご飯を食べて。その後にみんなに発言させたんですけど、みんなで「3年生と絶対に全国に行くんだ!」とか想い想いのことを熱く語ったんですよね。
勝ち、負け、負けときているところで熱く語って、みんな涙あり笑いありのミーティングになって、良い気分転換になったんですよ。美味しいものを食べてみんな言いたいことを言って。
7位決定戦は本当に見たことがないような点数ばかりでしたね。実はセットプレーで3点取ったんですけど、神がかっていましたね。先に1点取られて嫌なムードが立ち込めたんですけど、本人たちは意外とそうでもなくて。前半のうちに佐々木葵がコーナーキックでもうすごい、見たことがないような1メートル以上のジャンプをしたんですね。こんなに高く飛んじゃうのかなと思うようなヘディングシュートが入って。それを蹴ったのが大沼だったんですけど。2点目、3点目も大沼のコーナーキックに今度は新井優紀がヘディングで取って。コーナーキックもピンポイントで全部ここというところにいって3ー1でひっくり返して全国を決めました。
去年はまた違って明らかに全国ということを狙いに行った初めての選手権ですし、今年ももちろん狙っていかなければいけないと思います。1回戦から強豪ですけどなんとかもぎ取って、それもできたら2戦で決めて最高順位を目指したいですね。またその力も十分あると思います。
―1回戦の相手は神奈川県第2代表の湘南学院に決まりました。
湘南学院はひとつ目標にしてきたチーム。練習試合、公式戦なんかでも何回も門を叩いていったので、そういった意味ではお互いにやりたいことはある程度わかっている。向こうもわかっているのでやりずらいなというようなところで抽選会の後も話をして(笑)。
―ヤマ的には2回戦は日本航空あたりがターゲットとなってきそうですが。
9月の関東Liga studentで公式戦で当たって、この時もホームだったんですけどなんとか勝つことができたので十分選手たちもやれるっていうふうには思っていると思います。
あとは思い切ってやるだけですね。他の指導者の方々からも「また大変なところを引いたね」と言われるんですけど、でもうちも今年は本当に面白いチームだと思うので、そういった意味では楽に勝てるところとは当たらないような気もしていたんですよ。もう決まった以上はやるだけなので、良い準備をして臨みたいと思います。
―キーワードは守備というところになってきそうでしょうか?
そうですね。やはりどちらも身体を張れば県大会の決勝もそうでしたけど、本当にちょっとしたところで決まってくると思う。失点を少なくなければ関東でも上位はいけないと思うので、まずはそこから入っていきたいなと思います。
―キープレーヤーと奮起を期待したい選手は?
やっぱり大沼は一番期待したいなと思います。あとはやっぱり3年生ですかね。交代で必ず決定的な仕事をしてくれるやっぱり新井、それからチームを引っ張って行ってくれる大沼、この2人ですかね。本当にチームを目に見えないところで引っ張って行ってくれるので、2人といえばその2人になってくるのかなと思います。
―改めて地元開催の関東大会に向けての意気込みをお願いします。
もうとにかく初戦に勝たないといけないので、もう毎日が決勝戦のつもりで頑張ります。
(埼玉開催ということで)変に選手にはプレッシャーをかけたくないなというのもありますが、それは本人たちが一番わかっていると思う。本当に力を100%出せるように毎日練習をしっかりするしかないと思います。当然全国出場は最低限の目標で行きたいなと思っています。相手は強豪ですけど、十分戦えると思う。繰り返しになりますけど力を発揮させたいなと思います。
(2連勝も)今年のチームは十分できると思うので、狙っています。選手権の関東予選ではいままで2連勝というのはないですし、最高順位、本当にやるからには関東でも優勝を目指してやっていきたいなと思いますし、僕は可能性は0ではないなと思っています。
石黒登(取材・文)