世界と戦うために必要な「考える力」<指導者インタビュー・GRANDE坂口代表>

グランデ フットボールクラブ
坂口照幸代表

2002年の日韓W杯以降、急成長を遂げる日本サッカー。しかし、A代表は未だW杯ベスト16の壁を越えることはできていません。その一因は「考える力」にあった? 幼少期から考える力を養うことの意味、本場スペインで感じたギャップ、日本、そして埼玉のサッカー界への想いを、グランデ フットボールクラブ(以下グランデFC)・坂口照幸代表に語ってもらいました。

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その先を考えられる選手に

——グランデFCでは小学校低学年までは、ポジションを固定していないとお聞きしました。

坂口:例えば小さい頃からディフェンスをやっていた子は、守ることがサッカーだと覚えてしまいます。でも、現代サッカーでは守備も攻撃をしないといけないし、攻撃も守備をしないといけないですよね。オフェンスに関して言えば、ポジションどうこうより、どうやったら点を獲れるかが重要です。真ん中にいて点が獲れるんだったら、センターにポジションをとればいい。そこを当たり前のように考えて、その時その時でボールがある位置に対して、自分でポジションがとれるようになってほしいと思っています。

——確かに複雑化している現代サッカーでは、一人一人に与えられるタスクも多いですよね。

坂口:今は少年サッカーでも『ポゼッション』と『ビルドアップ』が主流になってきています。でも、何のために開くのか、何のために落ちてくるのかを、理解しないでやっているという子が多い。その〝何のために〟の部分が実は一番大事。そこに対するひらめきや想像力を養うためにも、小さいうちから考えさせるトレーニングが必要です。

——そういったベースがあって、初めて個人スキルが生きてくると。

坂口:結局サッカーを理解していないのに、技術があってもしょうがない。一人二人抜く技術はあっても、それが何のためで、どうしてそこで抜く必要があったのか考えないと意味がないですよね。その部分を疎かにしてしまうと、ただの上手い選手で終わってしまう。グランデFCとしては技術はもちろん、その先を考えられる選手を育てていきたいと思っています。

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外国人コーチの指摘、留学で感じたギャップ

——グランデFCでは毎年、海外のコーチを招聘しているそうですね。

坂口:今年もRCDエスパニョール(スペイン1部所属)のコーチに来てもらいましたが、やはり『考える力』を大事にしていました。そのコーチ曰く「日本人選手は技術は高いけど、サッカーを理解していないから、どんどんレベルが離れていく」と。僕もそう思います。2002年の日韓W杯以降、日本のサッカーはA代表も始め急成長を遂げていますが、結果という意味ではベスト16の壁を打ち破れていません。それはそこも一因なんじゃないかと。個の戦術能力であったり、個の理解度であったりというところを、小さい頃から突き詰めてやっていけば、もっと結果が出るんじゃないかと思っています。

——日本と世界の差は「考える力」の他にもありますか。

坂口:そうですね。去年の4月にうちの子たちを連れて、エスパニョールのカンテラに留学に行きました。一応2週間の予定ですが、1週間でダメだったらそこで終わり。ほとんどがダメと言われて、残った子は一人だけでした。その子は環境に馴染む力であったり、適応能力が高かったからこそ、2週間残れたんだと思います。あとはそこのコーチに「日本人は感情が豊かじゃない」と言われましたね。向こうの子たちは自分で判断したプレーが上手くいかなかったらすごい悔しがるし、逆に上手くいった時はすごく喜ぶ。多分技術的には日本の子の方が高いと思いますが、そこに対して向こうの子は一つ一つのプレーに感情があるから、どんどん上手くなっていくのかなと感じました。

——トレーニングはいかがでしたか。

坂口:うちで練習しているより、はるかに難しかったですね。考えてやらないとできない。ゲームをやるにしても、いろんな条件をつけてやっていました。例えばグリットを6個に分けて選手によって行っていい範囲が決まっていたり、そこの中で4対4プラス2をやるにしてもその2にも複雑な制限があったり。常にボールだけじゃなくて、人を見て考えてやらないといけないメニューばかりでしたね。

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海外に出て活躍できる選手を育てたい

——最後にクラブ運営への想いを聞かせてください。

坂口:チームとしては2006年の立ち上げ時から変わらず、すべてにおいて日本一のクラブ作りを目指しています。結果はもちろん、指導や設備・環境面なども含めて、みんなから「いいクラブだよね」と言ってもらえるようなクラブにしていきたいですね。また、それと同時に海外で活躍できる選手を育てたいという想いもあります。ただプロを育てるだけでは日本代表は強くなっていかない。やっぱり海外で活躍する選手を多く育てることによって、埼玉や日本のサッカーのレベルが上がって、日本代表が強くなっていくと思う。

——そういった想いがあるからこそ、小さいうちから『考える力』を養っていく必要があると。

坂口:そうですね。そういった能力を小さい頃から身につけることができれば、海外でも物怖じせずにやっていけるだろうし、活躍できる場は広がるのかなと思っています。

——子供たちに目指してほしい選手像はありますか。

坂口:できれば細く長く、「うわっ、こいつ渋いな」みたいな選手になってほしいですね(笑)。例えば元清水エスパルスの伊東輝悦選手(静岡県清水市生まれ/現J3・ブラウブリッツ秋田所属)のような。伊東選手は小学校の時から地元で注目されていて、41歳になった今も現役を続けられているじゃないですか。そういった選手が埼玉にはいないような気がします。

——確かにそうかもしれません。

坂口:埼玉って少年も強いじゃないですか。ただ、今みたいなガチガチな試合の中では想像力は生まれない。少し東西に行くだけで全体のレベルは下がりますが、そういった自由な環境の中からイマジネーションを持った選手が現れて磨かれていくのかと。逆にこっちでは磨かれる前に削りあいで、試合に出るのが目標というような子が多いですね。そういった部分ではなんとかして環境を変えられればというところで取り組みを行っています。グランデFCからいい選手をもっと排出することで、埼玉サッカー全体にいい影響をもたらせればなと思っています。

(取材・構成:石黒登)