チームを流れる強烈な「一体感」何度も跳ね返された南稜が3度目の正直で公式戦初制覇!

「徳栄さんに何度も跳ね返されて、何度も跳ね返されて、やっと今日なんとか届きました」と桑山秀家監督。かつて何度も跳ね返されてきた決勝を制し、南稜が公式戦初のタイトルを飾った。

南稜が学校総体の舞台でファイナルに進出したのは過去2回。1度目となった2018年大会は0-7の大敗、2度目は翌年に訪れたがスコアレスからのPK戦の末に敗れた。そしてその両方で花咲徳栄が相手だった。現在の3年生はそのPK負けを目の前で見てきた世代。2年前の決勝で途中出場した主将のFW山中薫子は「先輩たちの想いも背負って、後輩たちにこの後を繋げられるように、しっかりと覚悟を持ってやっていました」と、この一戦に臨んだ想いを語った。

前半はやはり花咲徳栄が押し込んでゲームを進めた。この日は4-3-2-1で試合に臨むと、武器であるサイドアタックから左SBの三尾心々美が突破力を生かしてゴールライン際を抉りながらチャンスメイク。また、そこで得たコーナーキックやフリーキックからゴールを狙う。

南稜は攻められる場面が多かったが、守備陣が集中を切らさずに粘り強く対応。また、中盤で高い回収力を見せていたMF小澤楓咲やMF野村実紀が起点となり攻撃に出る場面も作っていた。

すると南稜ベンチが動く。前半32分に右SHの田村果凜、ハーフタイム明けに左SHの四潟心絆と本来のレギュラーハーフを投入し攻撃にかかると、後半開始早々にスコアが動く。山中のパスからゴール前の混戦を投入されたばかりの1年生MF四潟が右足で決めて先制ゴールとした。四潟は「決めた瞬間は頭が真っ白になった。決勝という大舞台で決められて嬉しい」と喜んだ。

しかし、花咲徳栄もすぐさま反撃。連続してゴールに迫っていくと後半13分、三尾のアシストから1年生FW正木佑奈が右足で対角のネットに突き刺して即座に同点に追いついてみせる。

これで花咲徳栄がペースを握ると思われたが、南稜はCFを務めていた山中をCBに配置転換。中学2年以来のCBとなった山中は「緊張した」としながらも「途中で監督に覚悟しておけと言われていたので気持ちはありました」。すると、これが奏功してディフェンスが安定。「あまり言葉で発するタイプではないんですけど、今日はプレーでキャプテンの仕事をしてくれたんじゃないかなと思います」と指揮官も認める山中の頑張りもあり、再び流れを取り戻す場面もあった。

試合は延長戦へ突入。花咲徳栄は延長後半2分、左サイドで仕掛けた10番FW滝沢美結がMF下園舞桜に一度預け、リターンを左足で狙ったが、シュートは惜しくもクロスバーを叩いた。

そして勝負は2年前と同じPK戦にもつれ込むことに。「正直『マジか』となりましたけど、やってやろうと。先輩と同じシチュエーションで次は絶対に勝ち切ろうと思いました」という山中がまず最初の1本を決めると、2番手のDF桑田栞も成功。さらに2年前を知らない1年生の小澤、四潟も臆することなく挑みネットを揺らした。守ってはGK豊田理穂がストップはできなかったものの1、2本目と方向を的中させて相手にプレッシャーをかけ4、5本目のミスを誘った。

優勝を決めた瞬間は「ちょっと現実かどうかわからなかった」(山中)「本一とか徳栄に毎回敗れていたのでいまでもまだ実感がないです」(野村)と一瞬反応が遅れるなど初々しさも見せたが、すぐに仲間たちとその瞬間を喜び合った。「今日はもう全員の勝利なんだと思います」と選手たちを称えた桑山監督は就任10年目での優勝。当時公式戦で1勝もしたことがなかったチームは10年の時を経て埼玉県の頂点に立ち、「積み重ねがあったからこそ、ここまで来れた」とした。

チームにはジュニアユース年代、いわゆる強豪チームでやっていたトッププレーヤーはほとんどいない。途中出場のMF大塚未来は卓球部の出身。中学時代、男子サッカー部だった選手もいる。そういった中で決勝は7枚のカードをフルで使うまさしく「総力戦」で勝利を掴み取った。

チームの核を流れるのはその強烈な「一体感」だ。山中は「1年生から3年生まで学年ごとに出ている人がいる中で、3年生だけではなくて、チーム全体としてしっかりみんな切磋琢磨してできている」と強調。野村は「スタートで出られない人やベンチメンバーの人たちが日頃から自主練がすごいんです。全員努力がすごくて、諦めない」と、練習でのチームの雰囲気の良さを語る。

1年生の四潟も「学校説明会に行った時からすごく雰囲気が良くて、ずっと入りたかった」とその雰囲気に惹かれて入学した選手。上級生と下級生の間に余計な壁は一切ないことも強みだ。

関東大会ではその一体感を生かし、上位進出を狙う。チームを牽引する山中は「去年の選手権で暁星国際にボコボコにやられているのでその分もしっかり勝ち切りたい」とリベンジを誓った。

石黒登(取材・文)

試合結果

花咲徳栄 1(3PK4)1 南稜
0(前半)0
1(後半)1
0(延前)0
1(延後)1
3(PK)4