第97回全国高等学校サッカー選手権大会 埼玉県予選会決勝トーナメント2回戦 浦和西 vs 埼玉平成
全国高校サッカー選手権・埼玉県予選2回戦。昨年のファイナリスト・浦和西高校は埼玉平成高校と対戦し、今大会からエースNo.14を背負うFW森喜紀のPK弾で1ー0と競り勝った。
「もう今日は相手がうまいのはわかっていた。すごくやりにくい相手。今年の平成は本当に粘り強い」(市原雄心監督)。終盤までもつれた“難敵”との我慢比べを制し、昨年大会準優勝の雪辱に燃える浦和西が今年度初の2回戦突破、そして武南高校の待つ3回戦へと駒を進めた。
立ち上がりにペースを握ったのは浦和西。セットプレーなどから186cmのDFオージ・ヴィクター・シラタ、森の高さを生かしてゴールを狙うが、なかなかネットを揺らすことができない。
対する埼玉平成も中盤以降は持ち前のポゼッション力でペースを握り返す。後半開始直後にはMF佐藤匠のクロスを1回戦1ゴールのキャプテンMF斎藤司真がドンピシャのヘッドで合わせたが、これはGK金澤昇悟に正面でキャッチされてゴールならず。後半は埼玉平成が攻める時間が増えたが、浦和西はダブルボランチで中を切りながら、粘り強く守って得点は許さない。
両軍ともになかなか決め手を欠く中、スコアが動いたのは後半30分のことだった。浦和西は右サイドを駆け上がったDF古山貴翔のクロスにアタッカー陣が一気にエリア内の3点になだれ込むと、このプレーが相手のハンドリングを誘ってPKを獲得。これをエースの森がゆっくりと助走を取りながら冷静にゴール左に突き刺した。残り10分を切って浦和西がついに均衡を破る。
終盤は1点を追う埼玉平成が反撃に出たが、浦和西も最後まで集中力高く挑んでシャットアップ。ウノゼロ(イタリア語で1ー0の意)ゲームをものにした浦和西が16強入りを決めた。
大会前にはロシアW杯で日本代表を決勝トーナメントに導いた同校OBの西野朗・元代表監督のW杯での話を聞いて刺激を受けた。キャプテンのMF唐牛七海は「西野さんもさすがに2週間という短い時間でチーム作りをするのは難しくて、そこは選手主導でやっていたと言っていた。選手がこうしたい、こうしたいという意欲で、自分たちで話し合ってやっていたというのを聞いて自分たちにも刺激になりました。指導者に言われたことだけをやっているんじゃダメで、やっぱり最後は自分たちで考えたり、そういうのが大切なんじゃないかと学びました」。
この日チームは主に守備の面でその主体性を発揮。ポゼッションしてくる相手に対し常に危険な中央のエリアは切りつつ、そのことで空いてくるサイドについてはピッチ内で話し合いながら修正、対応。アタッキングエリアで相手に自由を与えなかったことが難敵撃破に繋がった。
塚原、矢部のボランチコンビがしっかりと中のエリアを締めて勝利に貢献!
今年度浦和西を悩ませてきたディフェンス問題だが、解決に向かってきているのかもしれない。そのひとつのキーになってきそうなのが塚原育汰、矢部竜麻のダブルボランチの存在だ。
2回戦の相手は技術の高い埼玉平成。「中央で相手の7番(佐藤)や8番(小宮山蓮)、14番(斎藤)になるべく触らせたくなかった」(市原監督)というこの日は細かいミスこそあれ、2人で危険な中のエリアを消し、80分間にわたってそれをほぼ完遂。失点0に貢献した。
今夏までBチームでプレーしていた矢部は指揮官曰く「この夏でグンと伸びて」トップチーム入り。「特に何かができるようになったわけじゃないんですけど、細かいところの質が少しずつ上がっている感じ」と自らの成長を語る。塚原と矢部は1年生の頃はずっと一緒にやっていた仲。リーグ戦で再びコンビを組むとすぐにお互いに感じ合うものがあったという。「久しぶりにやってその初戦で「僕たちいいな」みたいな感じになった。やりやすいです」と塚原。
次戦は2回戦で春日部東を相手に5ー0と高い攻撃力を見せた武南との対戦だ。最終ラインはもちろん、中盤でいかに相手の攻撃を摘み取ることができるかも大きなポイントとなる。
矢部は「頼り甲斐のあるキーパーもいるし守備に不安はない」とし「外から出た課題もあるので修正して絶対に勝ちたい」と意気込む。塚原は「まず守備から入って、取れるところでしっかりと取りたい」と、この日はなかなか見せることができなかった攻撃面での貢献も誓った。
エース森が2戦連発の大会3点目! 「チームを勝たせるゴール」で狙うは得点王
指揮官も「やっぱりうちは森」と期待を寄せる。今大会から西野氏もつけた浦和西伝統の14番を背負うエースが1回戦の2ゴールに続き、2回戦も決勝PKを決めチームを勝利に導いた。
この日は前半から長身を生かした競り合いで相手の脅威となると、チームは後半30分にクロスから相手のハンドでPKを獲得。キッカーの森はたっぷりと時間を取りつつボールをセットすると、ゴール左に突き刺して大きく咆哮。これが決勝点となり、浦和西が3回戦進出を決めた。
「今年は2回戦で全部負けていてここが山場、ここで勝ったら勢いに乗れると思っていた。インハイの時も自分個人としては点も取れていたんですけど、やっぱりチームを勝たせる点っていうところで勝たせることができていなかったので、今回はそれができてよかったです」。
今年は1回戦からのトーナメントだが、「その分、自分としては点が取れるので」とプラスに捉える。目標は毎試合複数得点。その上で「やっぱり得点王を狙っていきたい」と意気込む。
今夏は関東強豪大学のセレクションに参加。周りはJクラブ下部組織や全国常連校の出身者といった中で高評価を得た。186cmの長身に50mを6秒前半で走るスプリント、足元のしなやかさなど、伸びしろの部分も含めてポテンシャルを評価してもらった形だが、「全然レベルが違った」と現時点での力不足も認める部分でもある。だからこそ、この選手権で証明したいと森はいう。
「いろいろな人の支えがあった。その気持ちにも応えなきゃいけないし、この大会で実力っていうのを証明していかないといけない。この仲間たちとやれるのも最後。最高の形で終わって悔いなく自信を持って次のステージにいきたいなっていう風に思っています」。
次のステージに気持ちよく一歩を踏み出すためにも。狙うは得点王&昨年は果たせなかった埼玉の頂点だ。
石黒登(取材・文)
試合結果
浦和西 1-0 埼玉平成
0(前半)0
1(後半)0