[選手権]止まっていた針を再び動かし始めた北部の雄 正智深谷が初優勝を狙った浦和学院を退け、8年ぶりの冬の全国へ!

北部の雄が8年ぶりのV! 第103回全国高校サッカー選手権大会埼玉県大会の決勝が17日に埼玉スタジアムで行われ、正智深谷と浦和学院が対戦。前半18分にDF佐藤飛友(3年)が決めたゴールが決勝点となり、1-0で勝利した正智深谷が8年ぶり4度目の全国出場を決めた。

試合後の集合写真撮影での一幕、ある選手がつぶやいた。「こんな景色だったんだ」とーー。正智深谷は2012年に選手権に初出場し、15、16年にも連続して全国大会に進出。16年には新井晴樹(水戸)や梶谷政仁(秋田)、オナイウ情滋(仙台)を擁し全国8強入りも果たしている。

2021年には3度目の全国高校総体にも出場。今年も関東大会予選を制しているが、選手権は全国8強入り以降の7年間決勝進出を果たせず、冬の全国からは遠ざかっていた。その中で「信じて、巡ってきたチャンスをつかんだ」(監督)イレブンが止まっていた時計の針を再び動かした。

立ち上がりは一進一退だった中で正智深谷は17分、右MF赤川空音(3年)がドリブルで運び、10番MF近藤七音(3年)を経由して、エリア左でMF小西聖七(3年)がフリーで抜け出す。シュートは浦和学院GK岡本悠汰(3年)の好守に遭い、ゴールとはならなかったが、「正智らしい形」(監督)から完全に崩してチャンスを作ると、そこで取ったCKからゲームを動かす。

18分、今季得点源となっているDF鹿倉颯太(3年)の左CKからの混戦でMF大和田悠(3年)主将の足に当たって外にこぼれたボールに対し、「この舞台で決めたいっていう気持ちはあった。本当にたまたまこぼれてきたので、打つだけでした」というDF佐藤飛友(3年)が右足を強振。ディフェンスに当たってコースが変わったシュートがゴールに吸い込まれ、先制した。

一方、準決勝で西武台を下し、37年ぶりの決勝進出からの初優勝を目指す浦和学院も後ろから丁寧にビルドアップをしながら10番MF平瀬優真(3年)や左WBの佐藤大心(3年)が得意の仕掛けからチャンスメイク。15分には佐藤のドリブル突破からFW橋本秀太(3年)が迫る。

後半も攻撃的に仕掛け、10分にはMF平昭一哉(2年)のクロスから佐藤がドンピシャのヘディングを放っていくが、ここは正智深谷GK森穂貴(3年)が好捕。24分にはMF坂間真翔(3年)の左CKから橋本が得意のヘディングで狙っていくが、惜しくも決めきることができない。

正智深谷は後半もどっしりと構えながら「しっかり行くところと行かないところをはっきりさせるのと、横ズレ、縦ズレのスライドのところをしっかりみんなで確認しました」(大和田)。中盤での守備を明確にしながら、行くところではしっかりとプレス。最終ラインでは佐藤とDF岸田永遠(3年)が強さを見せ、右SBの外山達也(3年)も相手のキーマンである佐藤大の突破に粘り強く対応。そしてこの日も守護神の森が最後方でハイボールに、セーブに立ちふさがった。

そして歓喜の瞬間。両の拳を掲げた森は「最高でしたね。小さい頃から選手権っていうのは自分の中で夢だったので。ずっと勝てるか不安で、勝つってずっと思っていたんですけど、最後まで何があるかわからなくて。最後(笛が)鳴った瞬間ちょっと解放された感じでした」と振り返る。

8年ぶりのタイトル。現在の高3はまだ小5の時で「彼らにとっては初めてみたいなもの」(監督)。「自分たちは本当に行けるのか」。葛藤もあっただろう中で選手たちの目には涙もあふれた。

小島時和監督も「長かったですよね。なかなかやっぱりこの7年間、チャレンジをするチャンスがたくさんあったんですけど、ことごとく準々で負けたり、16で負けたり、そんなのが多くて。コロナも間に入ったりしてちょっとやっぱり病んだ時期もありますよね」と心の内を明かす。

「このまま行けないのかな」。そんな想いが浮かぶ時もあったという。それでも今年の高3は3年前の全国高校総体に出たのを見て入って来た代。「「正智で全国行くんだ!」っていう高い目標があり、だから勝負の年だったんです」。「今回やっぱり信じて、自分たちは全国に行くんだっていう、そういう想いがみんなあったと思うし、スタッフもそうだし、そういう気持ちでいると、やっぱりチャンスは巡ってくるんだなって。だから信じていろんなことをやって、巡ってきたチャンスを見事つかめたなって思いましたね」と今年還暦を迎えた指揮官は感慨深そうに話した。

リーグ制覇へ“崖っぷち”の一番を制し「力があるんだな」と実感 全国もチャレンジャー精神で

今年は新人戦1回戦で優勝した西武台に敗れ早期敗退したものの、後半は狙いとしていたサイドの形も出たこともあり、指揮官も手ごたえを口にしていた。関東予選は昌平、西武台がいない中でしっかりと勝ち切って2大会ぶりの優勝。本大会でも2試合で登録選手すべてを使い切りながら経験を積んだ。総体予選は準決勝で西武台にPK戦の末に敗れたが、「良さが出てきた」。

順調にチーム作りを進める中で、夏は大和田主将が鎖骨骨折するなど離脱者も出るなど、チームとしてはなかなか結果に結びつけることができず苦しい期間もあった。それでもその苦境を乗り越え、最大目標であるリーグと選手権に向け準備。9月末に行われたS1第14節の首位・聖望学園戦は負ければ終戦という中で土俵際の粘りを見せて5-3で勝利。「もう崖っぷちを勝ったあの時に、この子たちは力を持っているんだなっていうのを実感した」と小島監督は話す。

今大会もチームスローガンである「一致団結」を掲げながら、同時に「君たちはチャレンジャーだぞ!」と常に声をかけてきたチームはチャレンジャー精神を持って大会へ。3回戦の市立浦和戦では先に先制されるも逆転勝ち。準々決勝以降はすべて1点差ゲームと粘り強さが光った。

オナイウ阿道(オセール)や梶谷のような点取り屋はいないが、「誰が出てもっていうことを言ったので、スタートだからとか、途中からだとか、出られないだとか、そういうチームの違和感は絶対なくそうって言ってきた」。“チームとして”結果を残しているというのはひとつの強みだ。

「もちろん先輩たちのベスト8っていうのがあるので、(目標は)それ以上なんですけど、連続で行った時はいわゆる上昇気流に乗った感じですって言ったんですけど、今年の子たちは、いまの清水和哉コーチの時に初めて行ったんですけど、一戦必勝、ひとつひとつ登ってるっていう、そういうところと一緒なので、全国でも目の前の相手にみんなで団結して、相手を研究して、それに対して勝利のために、みんなが勝利に向かってそれぞれが力を出すと、そういうところを徹底していって、埼玉県代表としてひとつでも多く勝って行けるように、ここのところ埼玉はベスト4は入っていないので、そこまで行けるように責任を持ってというのは考えています」(監督)

「僕たちは全国の舞台をまったく知らない中でやってきたので、まずはもうこの経験のあるコーチたちの指導に感謝したいですし、8年ぶりの全国っていうことはもう“チャレンジャー”として行くようなもの。昌平が夏、全国を取っているので、僕たちも全国をしっかりと取らなきゃいけないと思うので、僕たちも全国制覇を目指して頑張っていきたいと思います」(大和田主将)

12月29日の1回戦の相手は長崎の強豪・長崎総合科学大附に決まった。止まっていた針を再び動かし始めた北部の雄が“一致団結”“チャレンジャー”として8年ぶりの冬の全国大会に臨む。

石黒登(取材・文)