「球際、切り替え、運動量」。2度の怪我を乗り越えた「粘り強い市船」の象徴 MF町田雄亮(クマガヤ出身)
ライバル・流通経済大柏を破っての3年ぶりの千葉県タイトル奪還。キーワードはチームの「市船化」だ。その中心選手、象徴としてチームを牽引したのがキャプテンのMF町田雄亮だ。
「『球際』『切り替え』『運動量』、市船はそこが根底にある。そこの部分で勝てたっていうのが、結局はそこに戻ると思います」とは試合後のインタビューで町田が繰り返した言葉だ。
今年は夏は準決勝敗退、プレミアリーグもなかなか結果が出ず千葉の名門は苦しんでいた。「夏までの戦いはどこか粘り強さ、逞しさがないようなところがあった」と波多秀吾監督はいう。そういった中で「市船としてどうあるべきか、市船になろう、市船化しよう」とチームとして原点回帰。するとリーグ戦は第13節から破竹の4連勝、迎えた選手権も準決勝で専大松戸を下すと、決勝も流通経済大柏に対し2度追いつかれるも引き離して3年ぶりの栄冠に輝いた。
そのチームの中心として「粘り強い市船」を体現しているのが町田だ。「自分は運動量やキワの部分では負けちゃいけない選手だと思っていますし、そこは強みなので、そこはずっと意識していました」。この試合でも抜群の運動量と球際でセカンドボールを回収。シーソーゲームの様相となった中で連続失点をしなかったのはこの中盤のフィルターの役割も大きいだろう。
熊谷市出身で少年時代は江南南サッカー少年団、中学年代はクマガヤSCでプレー。ちなみに江南南でスイーパー、クマガヤSCでボランチというのは東京五輪候補の松本泰志(サンフレッチェ広島)ら先輩たちも経験した県北の黄金パターン。「江南南では松本(ヨウ佑)監督に泥臭さだったりを教えていただいて、クマエスでは根性の部分をすごく叩き込まれた。そこが球際であったり、切り替え、運動量という、いまの自分のベースになっているんだと思います」。
身長は165cmと小柄だが、中盤でのボール奪取力は目を見張るものがある。「小さくてもキワの勝負で勝てるんだぞというのを見て欲しい。自分の得意なプレーのひとつとしてヘディングの競り合いがあるんですけど、タイミングや飛び方を磨けば小さくてもヘディングはある程度は勝てる。小さいからこそ逆に球際とかで負けず嫌いなところが出て、磨きがかけられたんだと思います」。今年はエースNo.5を受け継ぎ、これまで錚々たる選手がその名を刻んできたキャプテンに就任。「(キャプテンマークを)背負ってわかったんですけど、岡井(駿典)さんとか(杉山)弾斗さんはすごいプレッシャーを背負っていたんだ」とその重みを噛み締めた。
そんな中で気持ちを新たにしていた折の2月初めに左足の第五中足骨を骨折。5月中旬に復帰したが夏休み前に今度は左足の内側靭帯を伸ばしてしまい、夏を棒に振った。1回目の怪我を克服し、少しずつ調子が上がっていた中で2度目の長期離脱。いまは「本当はぶっちゃけた話、2回目の時はメンタル的にも結構きていたんですけど」と笑って話すが、当時の心境を考えればショックは相当なものだっただろう。それでも「キャプテンがそういう姿を見せるわけにはいかない」と気丈に振る舞い、自分にできることを率先して行いチームをサポートした。
だからこそ今大会に懸ける想いは誰よりも強いものがあった。「試合終了のホイッスルが鳴った直後は本当に嬉しいっていう気持ちだったんですけど、ちょっと経って落ち着いてきたら『良かった』って、いろいろプレッシャーがあった中でホッとした気持ちが大きかったです」。試合後は倒れ伏す仲間ひとりひとりに歩み寄り「ありがとう」と感謝の言葉をかけたという。
待ち望んでいた流経とのファイナルを制し、いざ選手権の舞台へ。「やっと本当のスタートラインに立てた。プレミアも含めて勢いよく勝てているので、この勢いを落とさずに、むしろ上げる方向に練習から持っていって、良いスタートダッシュが全国大会でも切れたらいいなというふうに思っています」と町田。「粘り強い市船」の象徴として全国でもチームを引っ張る。
石黒登(取材・文)