「さいたま市から女子サッカーをさらに盛り上げる」SAITAMA GIRLS MATCHに込められた想い

「UPSET SAITAMA GIRLS MATCH 2021」が2021年5月3日から5日にかけて浦和駒場スタジアムほかで行われた。9回目の開催を迎えた「SAITAMA GIRLS MATCH」に込められた想いとはー。

第1回大会が行われたのは2013年度。その背景についてさいたま市スポーツ文化局スポーツ部・スポーツ振興課主査・黒川夏美さんは振り返る。

「サッカーに限らずですが、中学校の部活動の抱えるいろいろな問題、働き方改革による指導者の不足、生徒さんのニーズが多様化しているというような背景と、あとは女子サッカー特有の課題として小学校まで男子と一緒にやっていて、高校は部活があるけれども、中学でやる場がないという背景があり、2012年度に市の事業として試行的にいろいろな中学校の校区をまたいだ練習会をやろうという話が立ち上がりました。その練習会で集めたメンバーで試合をする場が必要ということで練習会のメンバーと近隣市の中学校の部活動の子たちを集めて、数チームで交流試合を始めたのがSAITAMA GIRLS MATCHの始まりです」。

2017年度からは故・松沢喜久夫理事長のもと、女子サッカーに力を入れていこうとしていたさいたま市サッカー協会も主管として運営で参加。現在は小池友良理事長のもと運営をすすめ、クラブチームも加わるようになり現在のような形となった。

昨年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会が中止に。今年度は関東地区の21チームを招待しての開催を予定していたが、東京都における緊急事態宣言の発令や埼玉県、千葉県などのまん延防止等重点措置の実施を受けて16チームに縮小する形で開催された。

その中で今年度はトップリーグとチャレンジリーグにカテゴリーを分けて実施。その狙いについてさいたま市サッカー協会・理事の鈴木雅義さんはこう語る。

「トップのレベルの高いチームを呼んで大会を実施することも重要なんですけど、やっぱりサッカーが好きで、そんなに上手じゃなくても試合に関わりたいという子たちの場も作ってあげないといけない。逆にそっちの方がサッカーの裾野を広げるという意味では重要かなと思っています。そのカテゴリーをわけているところがすごく重要で、そこは続けていきたいし、今年は呼べなくなってしまった子たちを呼んで、今後もぜひやっていきたいと思っています」。

さいたま市サッカー協会・理事の鈴木雅義さん

チャレンジリーグでは「すべての女子中学生が気軽にサッカーを楽しむことができる場を増やしていくこと」を目的に開催している「スマイルプロジェクト」の選手たちや、「⼩学⽣年代の⼥⼦を対象とし、育成・強化をはじめとして⼥⼦サッカーの普及・拡大」を目的に開催している「さいたまシティサッカー・夢プロジェクト」の選手たちも参加。トップレベルのバチバチとした戦いと違い、真剣な中でも楽しむサッカーが展開され、会場には様々な笑顔の花が咲いた。今後もチャレンジリーグの出場チームの数を増やしていきたいという。

また、今回は中止となったものの、WEリーグの選手とのふれあいや海外招待チームとの交流など、「試合がどうだったかということよりも、選手たちが楽しめるようなことを引き続き考えていきたい」とさいたま市サッカー協会事業委員長の藤森賢太さん。今後は高校生に審判をしてもらったりすることで指導者としての道や、今大会を通じてサッカー業界で働く様々なプロを身近に感じることで、先の選択肢の提示も行っていく。

さいたま市長 清水勇人

「2013年度に、市の主催として始まった「SAITAMA GIRLS MATCH」が、さいたま市サッカーのまちづくり推進協議会やさいたま市サッカー協会をはじめとした多くの皆様に支えられながら、これまで9回開催されたことを非常に嬉しく思います。今年度の大会は、残念ながら規模縮小を余儀なくされ、当初の予定よりも参加チームは少なくなりましたが、最後まで戦い抜いた選手の皆さんの顔は、どれも晴れ晴れとしていたように感じました。

2021年9月にWEリーグが開幕し、本市から「三菱重工浦和レッズレディース」と「大宮アルディージャVENTUS」の2つのプロサッカーチームが新たに誕生しました。このことは、サッカーをしている子どもたち、その中でも特に女の子にとっての夢や目標、ロールモデルになるものと、大いに期待しているところです。

本市では、健康で活力ある「スポーツのまち さいたま」~笑顔あふれる日本一のスポーツ先進都市の創造~を将来像として掲げ、これまでも浦和レッズや大宮アルディージャ、関係団体等と連携をしながら、「サッカーのまち」としてのまちづくりや市内のスポーツ振興を進めてまいりました。その中でも、女子サッカーの普及、発展に向けた取組として、市サッカー協会やプロサッカーチームと連携しながら、小・中学生年代を中心とした「スマイルプロジェクト」や「夢プロジェクト」など、女子サッカーの活性化に向けた様々な取組を実施しています。

WEリーグも開幕し、女子サッカーをさらに盛り上げていくためには、女子サッカーの裾野を広げる活動も重要であり、本大会の意義はとても大きいものであると感じています。今後もさいたま市サッカーのまちづくり推進協議会及びさいたま市サッカー協会の皆様と手を携えながら、より一層、本大会を盛り上げてまいります」。

参加者の声

クラブ与野 中森秀明 代表

―大会開催の想い

中学生の女の子がやる場所が少ない中で、Aチーム、Bチームができる大会はほかにないので、すごくそれはありがたい。Aチームで出られない子もそうじゃない大会(チャレンジリーグ)もあるので、一緒にできるというのはすごく魅力を感じています。あとは、さいたま市はWEリーグ所属の2チームがあるので、その2チームとも交流ができる。同年代の子たちが、WEリーグの下部組織の選手たちのプレーを間近で見れて比較ができる。そうすると自分たちがもっともっと頑張らなきゃいけないというモチベーションにもつながる。なかなか普段は、そのチームとも練習試合もできないですので、貴重な経験になるので良いですね。あとは普段交流ができないような色々な地域のチームとも交流ができる。(指導者同士もそこで交流を持って)コミュニケーションを取って、その後、練習試合をやったりだとか、私たちも茨城の方に行ったりだとか、そういう交流ができはじめています。それも魅力だと思います。

―与野Lも参加された中で選手たちの反応、変化は

やはりAチームの子たちは自分たちの基準が上がります。ジェフ千葉さんもいましたし、そのような強豪チームと対戦をさせていただいたり、試合を見たりする中で自分たちもこのままじゃいけないと、練習での意識が変わったり、基準が上がったので、それはすごく助かりました。Bチームの子たちは自分たちのレベルに合った対戦相手とチャレンジリーグの方でやらせてももらったので、楽しそうにやっていました。中学校のチームもあり、うちのチームでその中学校に通っている子たちが、学校の仲間と試合ができたということもありました。裾野を広げるためのチャレンジリーグはすごく良いと思いました。女子の世界は強化育成と普及をやっていかなければいけないと思います。WEリーグが始まって、その試合を見に行かせるようにするにはそういう子たちにもサッカーを続けてもらうということはすごく大事。全員がWEリーガーにはなれないので、そうするとサポーターも増やさないといけないですし、WEリーグは女の子のサポーターも必要になってくると思います。その強化と普及を一緒にやれる大会は、他では聞いたことがないですし、なかなかないと思います。ほかには聞いたことがない。あのような形を取ることによって、はっきりチャレンジリーグという形にしたのは良いと思う。しっかりとチャレンジリーグという大会にしていることが、普及にとってはすごく良いことだと思います。女の子はまだ強化の方の試合をAとBで2チームエントリーしたとしても、すごい点差が開いてしまう。チャレンジリーグがあれば、力の差はないので、普及の意味はすごくある。強化と普及を両方やっているのが、この大会の一番の魅力だと思います。

―中学校女子年代の課題

U-15はソフト、ハードともに、まだ中途半端だと思います。まだまだ手探りなところがある。はっきりWEリーグという目標が見えてきていないので、男子のように、例えばその先に世界があるよとか、そこを目指せるよとか、女の子たちはまだそのイメージはあまりないと思います。その先のイメージが見えてくるとまた変わってくるのかと思います。

ただ埼玉県に関してはソフトの部分に関しては、プレーする女の子は多くなってきていますし、中学校年代で続けたいという子も増えていると思います。ハードの面は、練習環境的にはまだまだだと思います。学校の校庭を借りたり、ナイターとか、うちもそのようなところで練習をしていますので、今後、市と協力して少しずつ環境を改善していければいいと思います。ガールズマッチは、そのきっかけになる大会になってくれれば良い。ソフト面に行政を絡めて発展できたらと思います。加えて、アルディージャとレッズを絡めて行政とやって、U-15のところまで、アカデミーの年代もできたらいいなと思います。

大会が発展していくと同時にさいたま市の女子中学生のサッカーをやる人口も増やして、そこから選手を出すために、普及と強化の両方ができるようなモデルケースになっていったら良いと思っています。両方やることが僕はすごく良いことだと思う。強化だけになってしまうと取り残されてしまう女の子がたくさん出てきてしまうので、それを取り残さないことがWEリーグの発展にも繋がると思います。だから両方できるように、さいたま市とか行政、WEリーグと絡めてできたら一番良いと思います。

小美玉FA・藤田総監督

―大会に参加して

今回の大会に初めて参加させていただいて、まず参加チームがWEリーグも発足した中でWEリーグの下部組織のチームがいることや、歴代の大会の結果や参加チームを見てみると関東近郊でその後選手権大会とかで名を馳せたチームが多くいることから、強化・育成というところで非常に実りの多い大会だなと、参加チームのところを見て感じました。

3位決定戦では浦和駒場スタジアムでやらせていただきました。素晴らしいグラウンドコンディションの中やらせていただいて、子供たちも口には出していなかったですけども、普段出来ないような体験をさせていただいて、表情がウキウキ、ワクワクしていました。子供たちも浦和レッズレディースさんのトップチームがやっているグラウンドだったり、昔であればレッズのトップチームがやっていた競技場だというのはわかっていたりするので、そこに立てたということは貴重な経験になったと思います。

加えて、トレーニングの内容を見て、いいねと思ったことを聞きに来てくれたりだとか、その現地に行ったところで出会った人たちとトレーニングの内容でコミュニケーションを取ったり、救急の対応のところでコミュニケーションを取らせていただいたり、そこからまた人脈が広がっていく輪が感じられたので、そこも非常に楽しい大会だったと感じております。

―強化と普及というところを2軸で求める大会もあまりないですが

女子中学生が輝ける場所をどんどん大会などで作っていくというのは非常に面白い取り組みですし、それも行政とWEリーグ下部組織のチームたちがちゃんと話し合いつつ、やっているというのはひとつ面白い官と民の融合だと思いますし、きっと理想の形なのかなと、勉強させてもらったところがあります。

普段対戦出来ないチーム同士で対戦して、関東リーグに所属するようなチームはプレーで示す。逆に関東リーグに所属していない子たちはそういう子たちと対戦することによって、自分の現在地だとか、どのくらい差があるのかというのをコーチの言葉ではなく、実体感で経験出来ている場があったのかなというところで、育成としても意味があったと自分は思っております。

―子供たちの変化については

予選リーグで浦和レッズさんと対戦させてもらって、思ったよりは大差はつかずにやれることもあったということを感じられたのと、あとは3位に入る中で素晴らしいピッチコンディションの中である程度トレーニングの成果が出せたという実感があったみたいなので、1年生から3年生までそれぞれ見えている視野は違いますが、自分がもうちょっとやれるかなとか、もうちょっと上を目指してもいいのかなとか。あとは上を目指した時にこういうスタジアムでやりたいなみたいなビジョンみたいなものが少し描けたのは、その後のトレーニングの中でも上を目指すというところでひとつスイッチが入ったかなとは思います。表彰式もあって、なかなか見えにくいサッカーの評価、数値化できないサッカーの評価というものが、メダルだとか、そういったものをもらえて、一過性のものはあるんですけども、そこから次の1週間、2週間というのはそのモチベーションの下、やれたのかなとは思います。

―中学校女子年代の課題

自分がやりたいサッカー、哲学があるのは非常に素敵なことだとは思いますが、それがゆくゆく子供たちの成長をゴールとして、WEリーグ、生涯スポーツ、そういったものに繋がっているというところで、指導者自身も自分の今あるその3年間の子供だけではなく、縦に伸ばして未来を設定した時にどうえるべきなのかとか、お互いでコミュニケーションを取った上で哲学の違いを尊重しあえることがあると、金太郎飴みたいな選手ばかりじゃなく、FWで全然守備をしないけど、すごい点が取れるだとか、そんな選手が生まれるかもしれない。コミュニケーションを取っていき、違いを認め合えれば、よりよい育成が出来るのかなと思います。

さいたまスポーツコミッション 遊馬良太さん
「中学生になって環境がなく、サッカーが出来なくなってしまった子たちが「久々に試合が出来て嬉しかったです」とか、あとは気軽にサッカーをしましょうということをコンセプトにしてやっていますので、陸上部の子は「たくさん走るポジションにしてもらえて楽しく走れた」とか、全体的に「試合が出来て楽しかった」という答えが多かったです。(中学生女子の課題としては)合同部活動でも練習場所の確保などが難しいとお聞きするので、そのあたりの環境から見直していかなければいけないかなと思います」。

浦和レッズレディースジュニアユース 百武江梨さん
「急遽2チームに編成を変えた中で、逆に選手が試合出場出来る機会が増えたりと、臨機応変に対応していただけたことは本当に良かったです。(決勝は1と2の姉妹対決に)普段レディースのトップの選手が使っている駒場スタジアムで、今度は自分たちが運営する立場じゃなく、選手としてピッチに立てるというところで、とてもモチベーションが高かったですし、そういう意味でも普段の紅白戦とは違うような形で、とても良い経験になったんじゃないかなと思います。やっぱり選手が一番成長するのは試合なのかなと私は思っていて、参加させていただいたこの大会の間だけでも、大会前と大会後で、私たちの選手も大きく成長した部分がありましたし、やっぱりこういった大会はあるということがとても大事だと思うので、ぜひ続いていってほしいなというように思っております」。

ジェフ千葉レディース  伴さん
「普段公式戦に多く出られる子と、出られない子がいる中で、試合数が少ない子たちをメインに考えて連れて行ったので、多くの試合経験を積めたというところで良かったなと思います。子供たちの反応も良かったです。あとは勝ち上がれたことで最終的に強いチームと出来たというところで、普段のリーグ戦だと対戦できないような相手と試合を出来たことは子供たちにとって良い経験になったと思います。(今年から関東リーグのトップチームのほかに、千葉県のリーグに参戦していますが)こういうところで関東の強いチームと出来る機会があったというのはありがたかったです」。

ポルターラ水戸 柴山真由美さん
「今回初めて参加させていただきました。3年については昨年度、関東大会が茨城県で開催されたこともあり、ボールパーソンや大会運営で参加させてもらっていたので、そこで見たチームと対戦ができるということで、すごく貴重な経験を積ませていただけた大会になったなと思います。子供たちにとっても基準が知れたということが大きく、強豪相手にも「一矢報いたい」「何か出来ることがあるんじゃないか」と実際に取り組み方が変わってきているのも感じています。また、ガールズマッチをきっかけにたくさんのチームとの交流を持たせていただくきっかけになったという意味でも、大変ありがたい大会になりました」。

椛沢佑一、石黒登(取材・文・写真)