「100回大会で全国」「埼玉一の左SBに」の夢結実! DF安木颯汰が西武台を11年ぶりの頂点導く劇的V弾
決勝点のシーンを見てなぜこの位置に左SBがと驚いた人もいたかもしれない。しかしあそこは背番号3にとって通常のプレーイングエリアだ。西武台DF安木颯汰(3年)は延長後半7分、右クロスにゴールエリア中央まで走り込み、ヘディングでチームを優勝に導く決勝弾を決めた。
西武台は後半2ボランチに変更。おぜん立ては整った。「もともとサイドに振ると弱いという分析だったので、自分のところからアシストとかゴールは狙いたいなと思っていました」という安木は、左サイドを駆け上がり武器のひとつであるキックから正確なクロスを送り込んでいく。
すると試合を動かしたのは延長後半7分。「延長後半でやっぱりみんな結構苦しい時間帯で、浦和南に入っても西武台に入ってもいいような状況の中で自分もほぼディフェンスは後ろの武笠(隼季)に任せて前線でゴールかアシストを狙っている位置で、丸山(実紀)が良いクロスを入れてくれて、自分は走り込んで押し込むだけだったので、チームメイトには感謝したいです」。
中学時代に所属したForza’02からの盟友、MF丸山実紀(3年)から絶好のクロスが入ると「ボールが上がった瞬間にもう自分しかいないな」と思ったという背番号3は中に切り込んで飛び上がる。相手DFもしっかりと身体を当てていたが、その上から行く打点の高いヘッドで今大会これまで437分間無失点だった浦和南守備陣、そして名手・黒田海渡(3年)の牙城を破った。
「打った瞬間は何とも言えない感じで。キーパーが触るのも見えて、でもネットが揺れた瞬間はもう嬉しすぎてとりあえず走りました(笑)」。咆哮とともにゴール裏を回りながら仲間たちから祝福を浴びると、その足で「同じクラスの子も見に来てくれていた」というスタンドへ向かい、喜びを分かち合った。試合終了のホイッスルを聞くと膝を突き、感情の昂ぶりを抑えきれず涙した。
小学校年代はFW、Forza’02でも攻撃的なポジションを担っており、決勝点のゴール前への入るプレーは真骨頂だ。西武台ではボランチやトップ下でもプレーした中で左SBにコンバート。しかし、当初は1対1のディフェンスに難があり、出場機会を得るまでには至ってはいなかった。
それでも守屋保監督は「体育の時間でも本当に何でもこなす。バスケットボールをやっても、バレーをやっても野球をやっても上手で、空中のバランスが良い」と評価。「これはひょっとするんじゃないか。守備さえ良くなればいいんじゃないかと思い、1対1の局面はかなり要求した」。もとより「勢いがある」「声も出る」「前向きなことしか考えない」と3拍子が揃っており、ディフェンス面で大きく向上した関東予選ではレギュラーSBに。本大会でも優秀選手に入り自信もつけた。得点機はまさに安木の攻撃性と空中感覚という2つの良さが出たプレーだった。
今大会は怪我で欠場することもあったが、準決勝・武南戦では全4得点中3得点に絡む活躍。指揮官も「安木が入ることによって攻撃に深さや広さが生まれる」と存在の大きさを語っていた。
「小学校の頃に自分が高校3年生の選手権が100回大会と気づいて、それに向けて中学、高校と頑張ってきた。去年は結構悔しい想いはしたんですけど、チームメイトに頼りながらも自分の出来ることを精一杯やって、後輩の力も借りながら、最後全国を決められて良かったです」。
そういえば関東大会ではこんなことも言っていた。「それこそロバートソンみたいな鋭いクロスを上げたり、ベイルみたいな縦の突破も全部含めて“埼玉一の左SB”になりたいと思っています」。自らのゴールで夢を叶え、チームを11年ぶりの全国に導いた「埼玉一の左 SB」。次は“全国の左SB”へ。1か月半後も本戦でもその攻撃的なスタイルで、全国を舞台に暴れてくれるはずだ。
石黒登(取材・文)