【プロ入りしたあの選手のJrユース時代は?】第3回 紺野和也(CAアレグレ出身)「11分の1」の個の色を磨き上げて唯一無二の存在に

プロ入りを果たした選手たちのジュニアユース年代について当時を知る指導者の方々にお話いただく短期連載。第3回はCAアレグレ出身で、武南高を経て進学した法政大で3年時にインカレ優勝に大きく貢献し、FC東京入団を勝ち取った紺野和也をピックアップ。161cmと小柄な体格ながら切れ味鋭い突破で「メッシ」の異名を持つドリブラーについて高橋俊行監督に語ってもらった。(※このインタビューは各クラブご協力のもと、電話取材にて行われたものです)

地域少年に勇気を与える161cmドリブラーのプロ入り

―クラブOBの紺野くんが武南高、法政大を経て、今年からFC東京入り(2020年入団。昨年は特別強化指定選手としてプレー)しました。

自分は単純に和也がプロ契約したことは本当にこの地域の子供たちに夢を与えていると思っています。というのも少年団時代、例えばめちゃくちゃ強いチームとかにいたわけではなかったですし、(※ジュニア年代は吉川ホワイトシャークSSSでプレー。ちなみに現在浦和レッズレディース所属で女子日本代表の南萌華は同少年団の1年後輩)、和也自身も例えば6年生の時に県のトレセンとか、ナショナルトレセンのようなそういう場所に選ばれているような選手ではなかった。

だからこそ地域の少年団の子供たちにとって、和也がプロ契約したことというのは本当に「自分たちもなれるんだ!」という夢を与える。例えばこれがJの下部組織であったり、いつも全国大会に出るような強いチームにいて、しかも6年生の時から県トレやナショトレに選ばれていたという選手だったら、いまのこの地域の子供たちとイコールにはならないのかもしれないけれども、本当にそれこそとても強いチームにいたわけでも、大きく何かを評価されていたわけでもなく、それでもこうやってプロになれるということを和也が示してくれたと思います。

あとはいまも161cmしかないですけど、和也が6年生でセレクションに来た時が134cmで、やっぱりめちゃくちゃ小さかったんです。中学生っていう時期ってやっぱり身体の成長期の部分が一番大きな差になるのがこの年代だと思うんですよ。早熟の大きい子もいれば、逆に高校から背が伸びるような子もいるわけで、そうすると結局この身体の成長期の差が一番ある時だからこそ、背の低い選手はどうしても背が低いことを気にして悩む子供たちも多い。その悩む子供たちも和也の身長を見ればそれこそ背が小さくてもというように思えるし、そういった部分においても何よりも和也のプロ契約は地域の小学生に大きな夢を与えていると思います。

11分の1の個の色を磨き続けたジュニアユース時代

―彼はジュニアユース年代ではどういった選手でしたか? また育成についてはどのようなアプローチをされたのでしょうか。

高校、大学ではよく「武南のメッシ」「法政のメッシ」というような表現をされていましたが、「アレグレの時からメッシ」でしたね。左利きで、小さくて速くて、やっぱりドリブラーだった。そういった中で和也が中学生の時に自分が繰り返し伝えたのは「個の色」の部分ですね。

「個の色」というのはチームとして一番大事にしていることで、子供たちひとりひとりが「自分はここが得意だ」「ここは絶対にみんなに負けたくない」というような自分の色を持っている。

その「自分の色」に対して、システムであったり、戦術といった「チームの色」もある。11分の11というのがチームという色なのであれば、そのチームの色よりも「11分の1」という「個の色」を大事にする。大事なことはチームの色を強くしてしまって、個の色を消さないこと。例えばドリブルを色に持つ選手に対して「パスしろ」とチームの色を求めてしまうと個の色が消えてしまうように、長いボールを蹴るのが得意な子に長いボールを蹴るなとも言いません。

またその色についても特徴を持とうとか、子供たちにそういうアプローチをされるクラブはあるかもしれないですが、「その色の強さが大事」で、結局ちょっとうまいとか、ちょっと速いとかという弱い色じゃなくて、「強い色」を持つことが大事。オーバーに言えば相手がどんなチームでも自分の色を表現できる色なのか。相手によっては表現できて、相手によっては表現できない色なのか。ただただ個の色を持とうだけじゃなく、強い色を持つことを訴えています。

Jや高校のスカウトなども11分の11というチームを見にくるのではなく、「11分の1」を見に来ている。だからこそその11分の1の色が強い選手がまた評価される。子供たちを次のステージに繋げるからには11分の11の色じゃなく、11分の1の個の色を強くしなければいけない。

「自分のドリブルというその色をどれだけ強く持てるのか」。

和也自身も成長期の差がある時だったので、1年生の始めの頃は時に大きな選手に倒されたりすることもありました。でもそこでこちらが「ボールを動かせ」というアプローチをしてしまったり、チャレンジすることをやめていたら、その個の色は強くなれなかったと思うし、和也はそういう意味でもう本当にその「和也の色をどれだけ強くできるのか」というところでしたね。

もちろん単純に言えば本人が頑張っただけで、和也自身がうまくなりたいというところの中で頑張ったことがいまの評価。だから和也にも伝えています。このプロというひとつの結果はいままで頑張ってきた結果であって、これからの結果ではない。いま頑張っていることがまたこれからの結果だからなというのはこの間も伝えましたね。

卒業後も変わらないアレグレ愛。「いまの自分のサッカー、プレースタイルの原点」

―今回コロナで活動できない子供たちに対して、紺野くんへの質疑応答を行ったそうですが。

和也は時間があるといつも「クラブありますか?」と聞いて練習に来てくれる。3月にも2回ほど連絡があって、コロナの影響で実施はできなかったですが、その中で子供たちのこういう状況を和也に伝えたら「全然自分で良ければ」と質疑応答を快く引き受けてくれました。

それで今回子供たちから質問を集めて、そのひとつひとつに本当に自分が学ぶくらいの答えを和也が返してくれた。おまけに子供たちへの応援メッセージ動画まで送ってくれました。(※その後、紺野がサプライズゲストとして参加したオンラインミーティングも実施された)

今回「自分にとって、「アレグレ」とは?」という質問に対して、和也が「いまの自分のサッカー、プレースタイルの原点」と答えているのですが、それは多分11分の1という個の色を自分がより強く持つことができたということが、その表現に繋がっているのかなと思います。

あとは「楽しさ」(チーム名のアレグレはスペイン語で『陽気で楽しい』の意。ただのチーム名ではなく、チームを表す根幹部分だと高橋監督はいう)という部分でもクラブの思い出として、「練習も試合もとにかく楽しかったし、上手くなりたかった」「オフがいらないくらいだった」と。「アレグレのようなチームは他にないと思う」と言葉にしてくれていましたね。

●全37問に及ぶ質疑応答はクラブのホームページから確認することができるのでぜひ!
https://star.ap.teacup.com/alegre/

―紺野くんのことで一番印象に残っていることは?

まだ当時クラブユース選手権の県予選は決勝、3位決定戦をNack5スタジアムでやっていたんですが、この代は3位決定戦でNack5で試合をやっているんです。

写真提供:アレグレ

関東大会では柏の葉でジェフとやって、ディフェンスラインがもうみんな背が大きくて180cm近いのが4人並んでいた中で結局1−4で負けたんですけど、その大きな選手たちを相手にしても和也の個の色は消されていなかったですね。(この時の1得点は紺野のゴールだった)

―最後に彼に対するエールをお願いします。

本当に和也自身の「自分の持つ色」をプロというステージでも消されることなく、頑張って欲しいなと思います。

石黒登(取材・文)