昌平FW鄭志錫「金色がすごく嬉しかった」。悔し涙から3年、銀メダルを眺めながら「これを超えるんだ!」と言い聞かせてきたストライカーが全国ファイナルで決勝ゴール!
「やっぱり金色がすごく嬉しかったですね」。この金色に輝くメダルが欲しかったのだ。あの瞬間からこの金色に焦がれ、成長を続けてきた3年間。昌平初の日本一を決めた瞬間はエースストライカーの鄭志錫(3年)にとってもすべてをかけて臨んできた3年間が報われた瞬間だった。
現メンバーの大多数を占めるFCラヴィーダ組は3年前の「高円宮杯 JFA全日本U-15サッカー選手権大会」で快進撃。初の4強進出を果たすと、準決勝の鹿島アントラーズつくば戦も快勝し決勝に到達。主将を務めていた鄭も途中出場からチームトップの4得点の活躍を見せていた。
しかし、決勝でサガン鳥栖U-15に敗れ、日本一タイトルにはあと一歩手が届かなかった。試合後のセレモニーではメダルを首にかけながら涙。あの時の銀メダルはいまも自室の目に見えるところに飾ってある。「やっぱり銀メダルを飾っているのを常に見て、「これを超えるんだ!」っていうのを自分に言い聞かせてきました」と話し、リバウンドメンタリティを燃やしてきた。
今大会は2回戦の帝京安積戦で2ゴール。準々決勝の桐光学園戦は0-2で迎えた後半、ここでは負けられないとばかりに後半頭に鄭が奪ったゴールがチームを勇気づけ、その後の劇的同点、PK勝利に繋がった。準決勝は個人としては満足のいく出来ではなかったと話すが、帝京長岡とのタフな試合を制し昌平として初の決勝進出。そしてあの時のリベンジの舞台にたどり着いた。
「『3年前のリベンジをできるぞ』っていうのはみんなの中で本当に燃えていましたし、この決勝で勝って日本一になるっていうのは3年前の借りを返す意味でも重要だと思っていました」。
3年前のリベンジをかけて臨んだ決勝の神村学園戦は常に先行を取られる苦しい試合に。鄭自身もなかなかシュートチャンスがなかった中、前線で泥臭くチームのためにファイトしつつ、玉田圭司監督から言われた「最後決めればストライカー」という言葉を反芻しながらその時を待つ。
するとその瞬間は訪れる。2-2で迎えた後半34分、MF長璃喜(2年)が左でボールを持つ。
「璃喜が縦突破した瞬間にふんわりとしたボールが来るなと思ったので、ふんわりならファーにポジションを取ろうと思って。上がった瞬間は相手よりも先に飛ぶことだけを意識して、飛んだらあとはミートするだけだったので、完璧なポジショニングとシュートだったと思います」。
ファーサイドに抜け出すと長の滞空時間の長いクロスにヘディングで合わせてゲット。昌平にとってこの日初の勝ち越しシュートは、背番号15のこの日の記録上での最初のシュートだった。
ゴールを見届けると、それまでの鬱憤、あの時の悔しい気持ちを晴らすかのような咆哮。そのままピッチに仰向けになって祝福を浴びた瞬間は「本当になんともいえなくて。「あっ、逆転したんだ」っていう、味方が近寄ってきた瞬間に実感しました」と不思議な感慨に襲われたと話す。
そしてその数分後に最高の瞬間が。「もう本当にそれだけ(高円宮杯のリベンジ)を考えてずっとサッカーをやってきたので。3年前も、2年前のインターハイも本当にずっとてっぺんを取りたくて、日本一を獲りたくてやってきたので、ホイッスルが鳴った瞬間は涙がヤバかったです」。試合後はあふれ出る涙を止めることができず。それでもあの時の涙とは違う、歓喜の涙だった。
今大会は4得点を奪い、得点ランク3位に入ったが、決して数字だけでは測れない選手だ。指揮官も「本当に献身的な選手で、得点だけを見たら他のチームの選手の方が取ってはいますけど、チームへの貢献度みたいなことを考えたら、今大会はナンバーワンだったと思うし、その中で今日決勝点を決めてくれたっていうことは僕の期待以上のプレーをしてくれました」と絶賛する。
「チームのためにしっかり前から守備をする。チームが勝つのが最優先なので、そこは自分が犠牲になってもしっかりやろうっていうのはチームとしても共有していましたし、その中で自分がハードワークした上で点を取ることが今日の目標だったので点を取れて良かったです」(鄭)
もともとこんなに走れる選手だったわけではない。「夏が一番苦手で本当に走れなかったんです」と苦笑いする。ベンチ入りするも、出場のなかった1年次の選手権を経て体力不足を感じていた鄭は浦和DF宇賀神友弥がオーナーを務める低酸素ジム「AIRISE」に通うように。「2年くらい経つんですけど、そこで心肺機能だったり、フィジカル面で成長できたかなと思います」と話す。
「本当にこの優勝で満足することなく、プレミアリーグも続きますし、去年行けなかった選手権での国立っていう、ベスト4の舞台にしっかり立てるように、この夏休み、良い準備ができたらなと思います」。今度の目標はもちろん、選手権での日本一。そのためにもチームが勝つことをまずは最優先に考えつつ、エースストライカーとして得点を重ねて冬も最高の笑顔で終わる。
石黒登(取材・文)