「これまでの指導者人生で大事にしていること 全国で勝つためには」大山照人(武南高校サッカー部監督)インタビュー後編

指導人生45年を振り返る

埼玉県勢最後の全国制覇となる81年度大会での日本一の他、全国選手権で準優勝1回、4強3回の歴史を持つ名門・武南高校。武南就任から45年で、名門に育て上げたこれまでの大山監督の指導人生は、まさに埼玉サッカーの歴史そのものだ。これまでの指導人生を振り返って頂いた。

指導で大事にしていること

―武南OBの為谷洋介先生(成徳深谷)にお話を聞く機会があったのですが、大山先生は最高のモチベーターで、ちょっとしたことでも気づいてくれる目をお持ちの方だと言っていました。

僕はどちらかといえば石橋を叩いて渡るタイプ。慎重派ですよ。だから例えば選手を立ち上がりに送り出すときにその言葉はいろいろありますけど、どれくらいみんながやってくれるかが一番楽しみであって「とりあえず前半いってこいよ」と。どれくらいできるかどうかしっかり見ているから。(その上で)自分たちの方がよく考えてやれよ。やれるんならやる、けっして諦めるなよと。1点くらい取られたってガタガタ騒ぐんじゃないみたいな感じですね。

全国大会ではとりあえずリードできるならそうしてこいよと、もしやばいなと思っても最少失点でこいよとはいつも言いますね。格上のチームとやるときにはいつもそれだけ。1点取られたからといって、そこでチームに乱れが生じて2点目取られるなよということなんですよ。なんとかなるようなチームの状態で戻ってこいよと。1点差だったらタイムアップになるまでわからないよと。2点差になるとお前らも経験があるけど、いろいろなことができる。相手にも余裕ができるし、選択肢も増やしてしまう。遠くに蹴ることもできる。だからとりあえずゲームを面白くするためには一番いいのは点を取られないことだけど1点差でいいからと。

そこは選手になったつもりで過剰な期待はしない。“カラ元気”って好きじゃないんですよ。お前たちだったら絶対にやれるというのは絶対に言わない。それは完璧な嘘に近いから。どれくらいできるかやってみなきゃわからないけども、とにかく粘ろうと。粘って粘って、そうしたらチャンスは必ずあるから勇気を持ってチャレンジしようというふうに。

―それは就任当初から?

若い頃はちょっと違いますよね。行くぞ行くぞと。だから浦和南に絶対に勝つぞなんていってボコボコにされて(笑)。勝つにはどうすればいいんだっていうことを真剣に考えてね。そしてそれをやっぱり取り込んでいかないと勝ちに近づけない。勝つというのは大変じゃないですか。引き分けることはある程度できても、勝つというのは大変で、まずは順番があるから。最少失点で残念ながら負けるのと、なんとか頑張って粘って引き分けにするのと、最少失点で勝つのと、それから逆に3点、4点とって勝つというのはこれはもう大きな違いがある。だからまずは負けないためにはどうする、そういうところから長い年月の間にいろいろあったと思います。

―「目」の部分についてはいかがですか?

別に心がけているわけではないんですけど、全体を見回していたら当然そうなる。全体を把握するということはそういうことなんですよね。だからニュースで耳にしていることを意識して、あるいはトレーナーから聞いたりもしたりとか。こういう雰囲気に非常に強い子、そうじゃない子とか。でもそうじゃない子だって出したりするわけだよ。でもそういう場合もみんなの前で話しているとプレッシャーになったりいろいろするから、ちょっと個別でしゃべったり。ちょっとおだてたり、おちょくったりね。みんなが緊張しているときには平気でよく変な冗談を飛ばすんですよ。やっぱりその場をちょっとほぐすっていうのをやりますね。

でも選手って自分が怪我をしていても出たいから隠す選手がいるんですよ。これは許さないよね。それはこっちがちゃんと言わないと選手は理解してくれないから。自分のことしか考えてないやつのために、みんなで1年間やってきたチームがダメになっちゃう。それはこっちが判断するからみんな自分の状態は素直に言うべきだと。だから「なんとか頑張ります」なんて言うやつは「おいちょっと待て、お前のなんとかはどれくらいなんだ」「こいつのベストの状態と、お前の方がうまいけどもお前のなんとか頑張るのを比較したらどうなんだ」と。やっぱりそれは言わないとわからない。わかってもらえない。みんな誰しも出たいからね。でもそこで監督が知らなかったなんて寂しいことはないですよ。

それはもうやっぱり監督として失格ですよね。だからそういうことがあったらいけないからこそ、選手のそういった欠点的なこともやっぱり把握しないといけない。なかなかそこまで踏み込めないし、本人に迷惑かけてる部分もあるかもしれないけど、やっぱり試合をやるにあたっては突っ込んでいかないとしょうがない。その人だけの問題じゃなくチームの問題だから。一番手っ取り早いのは飯食わせてしゃべるのが一番いいですよね(笑)。

―教え子の方々も指導者としてご活躍されています。為谷先生の成徳深谷は今年新人戦、関東大会予選を制しました。

地道に叩かれ叩かれしながら一生懸命トレーニングをかかさずやってきた成果が出て、みんなスリムなのに筋力がすごいあって、背が大きくて、フィジカルがものすごい強くて、今年はいきますよ。でも高校時代はあんな蹴れなんて教えてないけどね(笑)。でもそれは選手との繋がりの中から生まれてくるものだから、今は今でいいんじゃないですか。だって今のスタイルでロングを生かして、子供たちも満足して、この戦い方でみんなでやろうとしているんだから一番いいですよ。あいつ大物食いなんですよ。うちもちょっと力がある頃にちょこちょこ負けたんです(笑)。もう本当に試合の時は歯向かってくるので。現役時代から気は強いやつでしたよ。でもそれもひとつの生き様で、特徴だから。子供とうまくコミュニケーションを取れればベストですよ。そういった中で新しい為谷先生が生まれればいいしね。

初優勝して今度はいろいろな意見を言われるだろうし、そこでまたいろいろ経験することがものすごい必要なんですよ。1回勝つことがどれだけ大切かっていうのがわかるしね。年齢的にも脂が乗って一番いい時じゃない? これからの10年間働ける。楽しみですよ、みんなね。

―最後にこの45年という時間は監督にとってはどういう時間でしたか?

いやあ、もう本当に時が経つのは早いなと思ってね。苦しいことをやっている時、何で勝てないんだろうと思う時は本当に長かったけど、もうなんかこうやってくると本当にあっという間ですね。やりたいこともできないまま終わったような感じで、人間の力ってたいしたことないなって思う。1人で頑張ってきちゃったんだけどそうじゃなくて、仲間を作って本当に組織として、例えばスカウトに専念してもらうような友がいたらもっとチームに集中できたりということを今更のように思いますよ。両方兼ねてやるっていうのはやっぱり限界がある。うちはなかなかスタッフが揃えることはできないんですけど、少しでも役割分担をして、彼ら(コーチ陣)にはもうちょっとスムーズにできるようにしてやりたいなと思いますね。

(了)

石黒登(取材・文)

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