個の能力はもちろん勢いもある。今年の昌平は日本一も夢ではないと思わせるものがある。
今年は新人戦で圧勝を飾った中、関東予選、インターハイ予選はいずれも早期敗退が続いたが、そこを乗り越えた選手権予選では浦和南、武南、正智深谷、聖望学園を破って激戦ブロックを駆け上がると、昨年泣いた決勝でも西武台を4−0と退け、2年ぶりの王座に返り咲いた。
先日のプリンスリーグ関東参入戦では水戸ホーリーホックユース、ジェフユナイテッド市原・千葉U-18とJ下部2チームを倒して5年ぶりのプリンス復帰を決めるなど、実力は十分だ。
ボールを大事にするスタイルは変わらないが、2019年版・昌平はそこに「ゴールへ向かう力強さ」を追加。裏への抜け出しを得意とするFW小見洋太に、2列目もMF須藤直輝やJ3福島加入が決まったMF鎌田大夢、怪我から復帰したドリブラーの紫藤峻と、どこからでもゴールに迫れるのは強みだ。DF柳澤直成やGK牧ノ瀬皓太を中心とした守備も安定感を増している。
注目は小川優介、柴圭汰のダブルボランチ
また、ここにきて存在感を放っているのがMF小川優介、MF柴圭汰のダブルボランチだ。
小川が165cm、柴は162cmとともに小柄だが、2人を見ていると「ボールを取る」力というのはサイズは関係ないと改めて考えさせられる。プリンス参入戦では中盤でことごとく相手の縦パスを潰し連続攻撃のきっかけに。千葉戦では小川の前で奪うプレーから先制点が生まれた。
それを可能にするのが「予測」と「判断」。「サイズがない分、予測と反応で勝負している。そこは常に頭を回転させています」と柴が言えば小川も「予測で上回って、相手のパスとかを狙っていくのは自分の良いところ。高い位置で奪えれば速攻でもいける」と自信を見せる。選手権でも小柄なボールハンターがここでボールを回収できれば昌平にとってチャンスとなる。
また小川は攻撃でも存在感。「あれだけ相手を見て、相手と駆け引きできて、サッカーできる選手はそういないと思う」と指揮官も絶賛するドリブルでJクラブ2チームを手玉に取った。
須藤や鎌田、小見らと比べると、全国的にはまだ名前を知られた存在ではないが、その能力値を発揮してチームがトーナメントを勝ち進んでいけば自ずと注目度は上がっていくはずだ。
激戦ブロックも勢いに乗れば。まずは初戦・興国戦で自分たちの形を示せるか
予選に続き、本大会でも連覇を狙う青森山田(青森)やインターハイ準Vの富山第一(富山)、前橋育英(群馬)、國學院久我山(東京B)などがいる最激戦区に入った。初戦を戦う興国(大阪)も初出場ながら毎年のようにJリーガーを輩出しているなど、実力に疑いはない。
同じようなスタイルの興国とはどちらが先にリズムを握るかが勝負をわける鍵となりそうだ。昌平としては小川、柴のところでボールを回収して攻撃自慢の相手を押し込み、小見の抜け出しやポストプレーから須藤や紫藤、鎌田の連動した動きや仕掛けでゴールに迫りたい。その上で終盤まで縺れ込むこととなれば、スーパーサブのFW大和海里のドリブルが生きてくる。
また「昌平と一緒で技術が高い選手が多い。そうなった時(そういう同じ特徴のチームがぶつかった時)にはやっぱり絶対に守備で差が出る」と西澤寧晟が言うようにミラーマッチとなった時に最後を分けるのは守備の部分。U-17日本代表FW樺山ら、強力攻撃陣を最小失点以内で抑え切るために、前からの守備に加えて、後方でも西澤、柳澤らの粘り強い守備が求められる。
プリンス参入戦ではJユース相手にも自分たちの形で勝ち切る力があることを証明した。あとはそれを自信を持って出し切れるか。この初戦をものにできれば大きな勢いに乗れそうだ。
石黒登(取材・文)