<全国高等学校サッカー選手権大会 埼玉県予選会決勝トーナメント決勝>正智深谷 vs 浦和南

52校が頂点を目指した、選手権埼玉予選決勝が20日(日)、埼玉スタジアムで行われ、連覇を目指す正智深谷高校と15年ぶりの選手権出場を狙う浦和南高校が対戦した。

img_1807_r

ともに4-4-2の布陣でスタート。正智深谷は準決勝からポジションを入れ替え、「突破力とキープ力」があるという鈴木涼太が玉城裕大と並んでトップの位置に。左に新井晴樹、右に今岡マックスが入った。一方の浦和南は出場停止の西信映に代わり、大室卓史がスタメン出場した。

開始から攻め込んだのは浦和南。中盤でボールを奪ってはスピードと高さのある高窪健人、直野椋太にシンプルに預け、そこで得たフリーキック、コーナーキックからゴールを狙っていく。それに対し正智深谷はセットプレーの際には全員が帰陣し、ゴール前に鍵をかける。

序盤こそ押し込まれた正智深谷だが、落ち着きを取り戻すと10分あたりからはボールを保持。小山開喜を起点に今岡、鈴木などが形を作る。前半11分には浦和南GK浅沼樹の好守に遭ったものの、ゴール左斜め前で得たフリーキックから小山が力強いシュートで狙っていく。

その後も細かいパス回しから、右サイドの今井を使った攻撃で圧力をかけていく正智深谷。しかし、浦和南はボールこそ支配されながらも、準決勝と同じく中を固め、ペナルティエリア内への侵入を許さず。放り込まれても半藤秀、出口智大がはじき返し、決定機は作らせない。

その後も正智深谷は攻め込みながらも、浦和南ゴール前を攻略することができず。逆に浦和南は前半アディショナルタイムに、相手のクリアボールをヘディングで跳ね返すと、直野の落としから駒崎寛也がターンしてシュートするも、ここは正智深谷・田村恭志がスライディングでブロック。決勝らしい白熱したゲームは、0-0のまま後半を迎える。

「前半はサイドで持っていても、単純にクロスを入れているだけなので、高い相手に跳ね返されていた」と小山。後半4分にはその小山が遠いところからミドルを打っていくなど、攻撃に変化をつけていくと、ここで正智深谷ベンチが動く。

後半7分、今岡に代えて、準々決勝の大宮南高校戦では途中出場から流れを作りチームの2点目をアシスト、準決勝の昌平高校戦ではやはり途中出場からファーストタッチでゴールを決め、チームを決勝に導いたスーパーサブの田島帆貴を投入する。

すると田島が前線に早速良いリズムを持ち込む。後半10分、左サイドでボールを受けると小山とワンツー。自ら持ち込むとシュートを放っていく。これはディフェンスに防がれたが、直後に正智深谷に待望の先制点が生まれる。

後半12分、右サイド深い位置で受けた新井が鈴木に落とすと、鈴木は後方でフリーになっていた田島にボールを送る。このボールに対し、田島は新井へのスルーパスを選択。新井が振り抜いたシュートはディフェンダーにあたりながら、キーパーの手をかすめゴールに吸い込まれた。

「とにかく切り込んで入ってマイナスのボール、もしくは入るふりをして相手のラインが下がるので、そこで楔を打って侵入するとか、そういう変化はつけろということを今週は練習で徹底していた」と小島時和監督。まさにその形で正智深谷が先制に成功する。

後半18分には細かいパス回しからエリア内に侵入すると、田島とのワンツーから谷口瑛也が入っていく。これはディフェンダーに潰されたが、こぼれ球を新井がシュート。後半20分には小山が再び左足でミドルを狙っていくなど、連続してチャンスを作る。

さらに攻め手を強める正智深谷は後半27分、中盤から抜け出した玉城がキーパーと1対1の状況に。これは浦和南GK浅沼がなんとか、かき出したが、その2分後には右コーナーキックから中村友空がニアで反らすと、ファーで構えていた田村が惜しいヘッドを放っていく。

浦和南はロングボールから直野に当てて、攻撃を仕掛けようとするが、正智深谷ディフェンスに阻まれなかなかボールを運ぶことができない。後半23分には右サイドで直野がボールを奪うと、キーパーとディフェンスの間にクロスを送るがこのボールは高窪には届かず。

なんとかこの状況を打破したい浦和南は、後半23分の仁平大輔に続き、36分に髙橋亜聡、さらに37分に山口翔大を投入。アディショナルタイム直前からは全員が相手エリアまで押し上げ、同点ゴールを狙いにいくとここからドラマが起きる。

後半41分、右サイドでスローインの場面になると、代わって入った山口がロングスローの体勢に入る。山口の投げたボールは驚くべき軌跡を描く超ロングスロー。これに仁平が飛び込み、土壇場で浦和南が試合をタイに戻す。試合は80分を越えても決着がつかず、勝負の行方は10分ハーフの延長戦に突入する。

勢いに乗る浦和南は延長戦でも山口のロングスローからチャンスを作る。延長後半4分にはロングスローのこぼれ球から直野がシュートを放つも、「死ぬ気で食らいついた」という正智深谷GK戸田海斗が右手一本で防ぎ、勝ち越し点を許さない。結局、第95回大会決勝はPK戦に持ち込まれる。

PK戦では浦和南の2本目を「(準々決勝対聖望学園のPK戦の)データは入っていた」という正智深谷GK戸田がセーブ。正智深谷は5人目の田島のキックが一度はセーブされたものの、キーパーの動き出しが早かったとの審判の判定で蹴り直しに。このチャンスを田島がしっかり決めて、正智深谷が2年連続3度目の優勝を決めた。

「(今予選は)タフなゲームになるし、延長、PKもあるから、そういうことも想定してやれということをミーティングから言っていた。そういう意味では選手たちも、いよいよきたなという感じだったと思う。同点になって戻ってきても、まだまだっていう顔をしていたので、その辺はちょっと安心した」と正智深谷・小島監督。

「今年は全国に出ることではなく、全国で勝つことを目標にやってきた」(小島監督)。昨年は初戦となった2回戦の明徳義塾に0-1で敗退。第91回大会の初出場も含め、選手権での勝利はまだない。

主将の小山は「去年全国で大きな忘れ物をしているので、しっかりそれを取り返すだけじゃなくて、正智はまだ選手権で全国はまだ勝ってないので、そこはしっかり自分たちの代で歴史を1ページ刻めるように。昌平が夏にベスト4に入ったんですけど、それ以上は絶対にいってやりたいですね」といい、全国初勝利のその先を見据える。

今年のチームは昨年を経験している選手が多いのが大きな強み。怪我人が多く、関東大会、高校総体予選とベストの布陣が組めなかったが、ここにきて新井や田島、玉城といった前線の主力が帰ってきた。今予選1失点の堅守はもちろん、前線に5秒台を並べるカウンターも迫力満点だ。
果たして選手権全国初勝利、その先の躍進となるか? 正智深谷は選手権初戦で立正大淞南と対戦する。

一方、浦和南・野崎正治監督は「正智深谷の固い守備も、我々の2トップの破壊力で打開できる自信はあった。前半の早い時間帯に点が取れれば良かったが、先に失点をしてしまった。しかし、それも想定内だったので、なんとか戦術で対抗しようと考えて、選手たちも辛抱して闘ってくれた。その中でよく追いついたと思う。私も選手たちもこの大会にかけてやってきたので、結果は残念でならない。改めて選手権の難しさを感じた」と試合を振り返った。

それでも11年ぶりの決勝進出に「選手たちには良くやったと伝えたい。今、彼らができる中で精一杯のことはやってくれたと思う。まだまだ伸びる余地もあると思うので、これを経験にしてもらいたい」と野崎監督は悔しさを露わにしながらも言葉を振り絞った。

今年は改装でグラウンドが使えない中で、一戦一戦強さを身につけていった浦和南。「PRIDE OF MINAMI」を背負い、最後まで全力で戦い抜く姿勢は見ているものの胸を熱くさせてくれた。県内公立初の人工芝のグラウンドが完成する来年は、再びの決勝進出、そして16年ぶりの選手権出場に期待したい。

尚、大会後には優秀選手が発表となり、正智深谷から戸田、田村、小山、玉城、新井の5選手が、浦和南からは出口、江原、高窪の3選手が選ばれた他、昌平高校の針谷岳晃、松本泰志、西武台高校の今井祐太朗など、今大会を盛り上げた18選手が選ばれた。

石黒登(取材・文)
椛沢佑一(写真)

試合結果

正智深谷 1(4PK3)1 浦和南

0(前半)0
1(後半)1
0(延前)0
0(延後)0
4(PK)3

大会優秀選手

▽GK
戸田海斗(正智深谷)
緑川光希(昌平)
▽DF
田村恭志(正智深谷)
出口智大(浦和南)
石井優輝(昌平)
砂川洸介(武南)
▽MF
小山開喜(正智深谷)
江原航平(浦和南)
針谷岳晃(昌平)
松本泰志(昌平)
今井祐太朗(西武台)
奥村晃司(武南)
糟谷雄介(聖望学園)
▽FW
玉城裕大(正智深谷)
新井晴樹(正智深谷)
高窪健人(浦和南)
田中智也(西武台)
清水祐輝(大宮南)